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2018.01.17

女性はインフルエンザで重症化しやすい?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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今年もインフルエンザが猛威を振るい、警報レベルを超えた地域もあるそうです。
実はインフルエンザが重症化するのは、男性より女性のほうが多いのだとか。それは一体なぜなのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2015年12月のAmerican Journal of Physiology誌にウェブ掲載された、インフルエンザ感染の性差についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ウイルス感染に対する免疫の働きには性差がある

インフルエンザの死亡率が高いのは、若い女性

ウイルス感染に対する免疫の働きには性差があり、それが患者さんの予後に大きな影響を与えていることは、様々なワクチンで良く知られている事実ですが、そのメカニズムはまだあまり分かっていません。

動物実験の多くは性差を無視して行われているからです。

インフルエンザに関しては、特に鳥インフルエンザなど重症化に多いウイルスの感染において、若い成人女性は、同年齢の男性と比較して、2から6倍死亡率が高いと報告されています。

女性ホルモンが免疫に影響している?

培養した男女の鼻粘膜細胞に、インフルエンザウイルスを感染させて検証

そこで上記文献においては、副鼻腔の手術に伴って採取された鼻の粘膜の細胞を使用して、女性ホルモンであるエストラジオール(E2)を加えて培養したり、特定の女性ホルモン受容体の刺激剤を加えて培養し、そこにインフルエンザウイルスを感染させて、ウイルス感染に対する免疫の性差について検証しています。

その結果、2型のエストロゲン受容体刺激剤とエストラジオールの刺激により、感染したインフルエンザウイルスの粘膜細胞での増殖は抑制されましたが、その反応は女性の粘膜でのみ認められ、男性では認められませんでした。
また、1型エストロゲン受容体を刺激しても、同様の反応は得られませんでした。

ホルモン変動により、女性はインフルエンザが重症化しやすいと想定

要するに鼻の粘膜でのインフルエンザウイルスに対する防御機能には、明確な性差が存在していて、女性の場合にはそれが女性ホルモンにより大きく変化しています。
そして、おそらくは女性ホルモンの変動の影響により、女性でインフルエンザの重症化が起こりやすいと想定されるのです。

インフルエンザ感染には性差があるかもしれない

まだ不明の点も多いのですが、インフルエンザ感染にこのように明確な性差が存在する、という指摘は非常に興味深く、今後のデータの蓄積を期待したいと思います。

なお、この論文を紹介した医師向けのサイトがあるのですが、男性はインフルエンザが重症化する、という真逆の説明が平然と書かれていて、今回唖然と思ったことを追記して置きます。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36