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2019.06.26

インフルエンザ感染は湿度に影響される?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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インフルエンザは寒い時期に流行る病気というイメージですが、温度だけではなく湿度も感染に影響するそうです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のPNAS(米科学アカデミー紀要)に掲載された、インフルエンザ感染に対する湿度の影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

湿度が低いとインフルエンザ感染が増える?

季節性インフルエンザの感染は、北半球では11月から3月に多く、南半球では5月から9月に多いという特徴があります。

これは概ね気候の影響として説明されています。

インフルエンザウイルスの感染は、温度と湿度が共に低い環境で、より活発化することが知られています。

ただ、2019年のApplied and Environmental Microbiology誌に掲載された論文では、カナダの疫学データを解析した結果として、通常湿度として表現されている相対湿度は、確かにB型インフルエンザは低いほど感染が活発化しますが、A型インフルエンザはむしろ高いほど感染が活発化する、という結果になっていました。

つまり、湿度が低いほどインフルエンザ感染が活発化する、という「常識」も、実際にはそれほど確実と言える知見ではありません。

湿度とインフルエンザ感染は様々な研究がある

仮に湿度が低いとインフルエンザが流行し易いとして、その原因は何なのでしょうか?

湿度特に絶対湿度が低いと、インフルエンザウイルスを含む飛沫粒子が安定せず、飛沫感染が安定せず、感染が起こりにくい、とする複数のデータが存在しています。

ただ、高温多湿の地域ではインフルエンザ感染は、湿度の高い時期に流行しているので、そのことの説明にはなっていません。

2012年のPLOS One誌に掲載された論文では、相対湿度が100%に近いような状況においては、塩分濃度などの関係で、ウイルス粒子は安定して感染も起こりやすくなるけれど、それを下回る相対湿度においては、湿度が低いほど感染が起こりやすい、という複雑な関係があることが報告されています。

以上はウイルス粒子の安定性から見たメカニズムです

その一方で厚生労働省のサイトには、人間の気道の粘膜の防御機能が、相対湿度が低いと低下する、という趣旨の説明がありますが、その根拠はあまり明確なものがありません。

上記論文の記載をみても、粘膜の防御機能などが湿度によってどう変化するかについては、その根拠となる知見は限られているようです。

(※一部2020年12月4日に追記しました)

動物実験の結果、低湿度だと粘膜の防御機能も低下

今回の研究はアメリカのエール大学などの研究チームによるもので、ネズミによる動物実験ですが、相対湿度が10から20%と低い環境と、50%と通常の環境とで、気道の防御機能の違いを比較検証しています。

その結果、湿度が低いと気道粘膜の繊毛運動が低下し、インフルエンザウイルス感染時に障害された、粘膜の機能回復も遅れることが確認されました。

インフルエンザ対策には加湿も大切

つまり、厚労省のサイトにあることも嘘ではなく、インフルエンザ感染に対抗する粘膜の防御機能は、湿度が10から20%では低下することが、動物実験のレベルではありますが、確認されたのです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36