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2017.12.27

サウナ大国フィンランドに学ぶすごいサウナ!①心血管疾患予防効果【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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温泉でのんびりするのもいいですが、疲労がたまっているときはサウナで汗をかくとスッキリしますよね。サウナには一体どんな健康効果があるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2015年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、サウナの健康への影響を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

サウナは健康にいいのか悪いのか?

適度なサウナ習慣は健康に良いという研究が多い

サウナが健康に良いのか悪いのかという話は、クリニックの外来でもしばしば聞かれることです。

無理をし過ぎないサウナの習慣は、大量の汗を掻いて代謝を活発にするので、自律神経を刺激して心臓の働きにも、良い影響を与える効果が期待されます。
リラクゼーションの効果もあることは間違いがありません。

ただ、その一方で急激な脱水に、一時的にはなりますから、血圧が低下したり、心臓に負担を掛けるという側面も想定されます。

比較的最近の研究報告では、概ね適度なサウナの習慣は、健康への良い影響があるとするものが多くなっています。

サウナの心血管疾患と総死亡に与える影響は?

フィンランドで中年男性のサウナ頻度と心血管リスク等を調査

今回ご紹介する論文はその代表的なものの1つで、サウナが心血管疾患と総死亡に与える影響を検証したものです。

こうした研究の大規模なものは、主にフィンランドで行われています。
フィンランドはサウナの発祥地で、サウナという言葉自体フィンランド語由来だそうです。

今回の研究もフィンランドでの、心血管疾患に関する大規模な疫学データを活用したもので、年齢が登録時に42から60歳の一般住民2315名(男性のみ)を、観察期間の中間値で20.7年という長期の経過観察を行って、サウナの習慣はその頻度と、心血管疾患のリスクや生命予後との関連を検証しています。

週のサウナ習慣が多いほど、総死亡リスクは低いという結果に

これは一般住民を無作為に抽出したデータで、心血管疾患で治療をされているような人も混ざっています。
具体的には21.3%が降圧剤による治療を受けていて、5.1%は糖尿病を持ち、虚血性心疾患の既往も23.9%が持っています。

観察期間中に心臓の突然死で死亡したのは190名、虚血性心疾患で死亡したのが281名、心血管疾患全体での死亡が407名、全ての原因による死亡の総計が929名でした。

喫煙や年齢、病気などの関連する因子を補正した結果として、週1回のサウナ習慣を基準として時に、総死亡のリスクは週2から3回のサウナ習慣で24%(95%CI; 0.66 から0.88)、週4から7回のサウナ習慣で40%(95%CI; 0.46から0.80)、それぞれ有意に低下していました。

心血管疾患による死亡リスクも、サウナ習慣が多いほど低下

心血管疾患による死亡も同様に、週2から3回のサウナ習慣で27%(95%CI; 0.59から0.89)、週4から7回のサウナ習慣で50%(95%CI; 0.33 から0.77)、それぞれ有意に低下していました。

1回のサウナ時間とリスクとの関連を見てみると、11分未満の場合と比較して、19分以上であった場合には、心臓突然死のリスクが52%(95%CI; 0.31から0.75)有意に低下していました。
ただ、総死亡のリスクには差はありませんでした。

そして、特に病気の患者さんにおいて、サウナによる生命予後のリスクが、増加するということもありませんでした。

サウナは入れば入るほど健康になるのか?

サウナの温熱効果は血管内皮機能を高め、心臓耐容能の増加も

このように上記研究での結果としては、虚血性心疾患などの病気の患者さんを含む対象において、サウナの回数が多く時間も長い方が、その後の長期の生命予後や心血管疾患の予後に、良い影響を与える可能性が示唆されました。

その理由として上記文献の考察では、サウナの温熱効果が血管内皮機能を高めるという知見と、自律神経への影響や心臓の耐容能の増加作用などが記載されています。

でも、立ちくらみによる転倒や、心臓に負担をかけるリスクもある

ただ、そうは言っても心臓には負担を掛けることもあり、一時的には脱水にもなるサウナが、全く無害であるとも言い切れません。

特に起立性低血圧(俗に言う立ちくらみ)のあるような人では、サウナから出た直後に起こる血圧の低下が、転倒や意識消失などのリスクになるという指摘があり、特に飲酒との関連がそのリスクを高めると分析されています。

フィンランドのサウナは、平均温度が79度のドライサウナで、それがそれ以外の方式や、より高温のサウナにおいても同じであるという保証はありません。

こうしたデータは常にそうした側面がありますが、フィンランドではサウナ文化が浸透していて、体調の良い人や健康的な人ほどサウナを多く使用することが想定され、関連する要素を補正したとは言っても、そのバイアスは大きいというようにも思えます。

サウナにはメリットとリスクの両方があることを忘れずに

従って、サウナを習慣とする方が長生き出来るとか、病気の人でも心配はないと、上記のようなデータから言い切ることは危険だと思いますが、心血管系や自律神経への適度な刺激が、その後の心血管系の健康に良い影響を与える可能性は高く、今後どのような人によりサウナのメリットがあり、どのような人ではリスクが高いのか、そうしたより詳細な検証が必要であるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36