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2017.10.18

森林浴は本当に健康にいいのか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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秋が深まり、屋外でも過ごしやすい季節になりました。今度の週末はちょっと足を延ばして、紅葉した山道を散策なんていかがでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のBMC Complementary and Alternative Medicine誌に掲載された、森林浴がもたらす血圧への影響を検討した論文です。これまでのデータをまとめて解析した、日本の群馬大学の研究者による報告です。

▼石原先生のブログはこちら

森林浴の健康効果とは

森の中では脈拍や血圧が低下し、心身がリラックスできる

森林浴はForest bathingと訳されていますが、論文の殆どが日本のものである点から考えて、海外であまりこうした概念が一般的ではないようです。

森や自然の中で豊かな自然の緑に触れ、散歩やハイキングをしたり運動をしたりすることに、心身のリラックス効果があることは、自然に触れた人なら誰でも実感することだと思います。

実際にどのような変化が、その時身体には起こっているのでしょうか?
これまでの報告によると、緑の多い環境に身を置くことにより、1から2時間という短時間においても、脈拍や血圧が低下し、自律神経のバランスは副交感神経優位となって、交感神経の活動は抑制されます。
ただ、それではどのくらい血圧が下がるのか、というような点については、また一致した見解がある、という訳ではありません。

森林浴の血圧低下効果はどれくらい?

森林浴をした場合と、室内で過ごした場合を比較

今回の研究はこれまでの臨床研究のうち、森林浴の血圧への影響を検証した、20の研究データをまとめて解析したものです。
その内訳は17論文は日本の研究者による国内の研究で、残りの2論文は韓国の、そして1論文は中国の研究となっています。
日本の研究も同じ研究グループによるものが多いので、それほどこの問題が、世界的に研究されている、ということはどうもないようです。

日本の研究は森林浴の期間が2時間以内というものが全てで、その同じ時間を室内などで過ごした場合との比較を行っています。
より長期の報告は3日と7日という報告があり、いずれも海外のものです。トータルな被験者の人数は732名ですが、多くの研究はかなり少人数のものです。

森林浴後は上の血圧が3.15mmHg、下の血圧が1.75mmHg低下

森林浴により収縮期血圧(上の血圧)は、トータルでは3.15mmHg(95%CI; 2.18から4.12)低下しています。
この下げ幅は血圧が130mmHg以上のグループではより大きく、6.33mmHg(95%CI; 3.32から9.35)となっていました。
森林浴の効果は森の中のような自然の豊かな場所でより大きく、若い人より中高年で大きい傾向がありましたが、これは元の血圧値の影響を見ている可能性もありそうです。
拡張期血圧も森林浴で、1.75mmHg(95%CI; 1.13から2.38)有意に低下していました。

適度に自然と楽しむ健康習慣を

このように森林浴に一定の血圧降下作用のあることは、ほぼ間違いのない事実と思われますが、データは殆どが日本のものでかなり偏りがあります。森林浴をどのように活用することが、日頃の健康維持や健康増進に繋がるのか、具体的な事項に結論を出せるような、精度の高いデータはまだ存在していない、というのが実際のようです。

森林浴自体にはほぼリスクはなく、健康に良い習慣であることも間違いはありませんが、自然は怖いものでもあります。虫刺されなどを含めて自然のリスクには注意しつつ、適度に自然と親しむ習慣を持つことが、現状では最善の健康法であるような気がします。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36