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2019.07.17

脈拍数は生命予後に関係するか【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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「脈が速いと短命」なんていう噂も聞きますが、実際に脈拍数と死亡等のリスクには関連があるのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のBMJ Open Heart誌に掲載された、脈拍数と生命予後と心血管疾患リスクとの関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

脈拍数が早いのは悪いこと?

安静時の脈拍数が早いほど、生命予後に悪影響を与えたり、心血管疾患のリスクになるというのは、これまでに疫学データで複数報告されています。

こうした情報が一般にも広まっているので、僕も時々外来で患者さんから、「脈が早いと早死にすると聞いたのですが大丈夫ですか」のような質問を受けることがあります。

確かにある時点で脈拍が早いことが、その後の死亡リスクの増加と関連する、というようなデータは複数存在しています。

しかし、その殆どは1回しか脈拍を測定していないので、脈拍が早いことが生命予後の悪化の、原因であるのか結果であるのかは明確ではありません。

脈拍の速さや変化を長期にわたって観察

安静時の脈拍が速い人は、死亡や病気のリスクが高い

今回の研究はスウェーデンにおいて、1943年に生まれた798名を対象として、50歳の登録時の安静時の脈拍を測定して、その後21年に渡る経過観察を行い、60歳時にも脈拍数を測定して、その変化と生命予後や心血管疾患との関連を検証しています。

長期の観察を行っている点と、脈拍の変化を検証している点が今回のポイントです。

その結果、50歳の安静時脈拍数が55回以下と比較して、75回を超えていると、その後の総死亡のリスクは2.3倍(95%CI: 1.2から4.7)、心血管疾患の発症リスクは1.8倍(95%CI: 1.1から3.0)、虚血性心疾患の発症リスクは2.2倍(95%CI: 1.1から4.5)、それぞれ有意に増加していました。

加齢とともに脈拍が増えても、死亡や病気のリスクが増加

次に50歳時と60歳時の安静時脈拍数が、5以上変動したかどうかで検証すると、脈拍が増加した場合と比較して、脈拍が安定していると、心血管疾患のリスクは44%(95%CI: 0.35から0.87)有意に抑制されていました。

この10年間に脈拍が1回増加する毎に、総死亡のリスクが3%、心血管疾患のリスクが1%、虚血性心疾患のリスクが2%、それぞれ増加すると算定されました。

このように、安静時の脈拍が75回以上である場合と、脈拍が10年で5以上増加した場合に、総死亡のリスクや心血管疾患のリスク、また虚血性心疾患のリスクのいずれもが増加していました。

脈拍自体よりも、心血管系の異常が原因かも?

これは脈拍自体のリスクと言うより、交感神経の緊張状態や、心機能の低下などを反映している可能性が高く、特に経過の中で脈拍数が増加した時には、何か心血管系の異常の兆候がないか、一度は検討する必要があるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36