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2023.07.28

心臓死ドナーの心臓は心臓移植できるか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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心臓移植は通常脳死のドナーから臓器を提供してもらって行いますが、心臓死のドナーの心臓も利用することは出来るのでしょうか。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2023年6月8日付で掲載された、脳死ではなく心停止後の臓器移植についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

脳死ドナーと心臓死ドナー、提供できる臓器の違い

臓器移植に関わる死後の臓器提供には、脳死下での臓器提供と、それ以前の一般的な死である、心臓死下での臓器提供があります。

脳死の場合には心臓や肺などの臓器が利用可能ですが、心臓死での臓器提供は、日本では腎臓、膵臓、眼球に限られています。

これは、心臓などの臓器は心停止で血流が停止すると、急速にその機能が低下するので、臓器を摘出して移植を行っても、成功率が低くなることがその主な理由です。

特に心臓はそれ自体の停止を確認する訳ですから、その心臓を取り出しても、移植は困難であるように通常はそう考えます。

海外では心停止後の心臓を移植した例がある

しかし、深刻なドナー不足などの理由もあり、科学技術の進歩もあって、最近海外では心停止後の心臓移植が試みられ、一定の成果を挙げています。

実際急性疾患で入院し、呼吸が停止したために人工呼吸器を装着したものの、もう回復が見込めないと判断されたような患者さんの場合、家族の同意のもとに人工呼吸器を外す、というようなことは医療現場でしばしば行われています。

その場合、呼吸が停止して間もなく、心臓も停止し、その時点で心臓死と診断されますが、その瞬間に準備をしておいて心臓を摘出すれば、その状態は脳死からの摘出と、実際にはそれほど変わらない、という言い方は可能です。

心臓死ドナーからの心臓移植の場合、その摘出した心臓を、体外で再灌流して保存します。

こうした再灌流装置の進歩により、その組織の劣化を防ぎつつ、移植手術に繋げることが可能となったのです。

心臓死ドナーと脳死ドナーからの移植に明確な差異なし

今回の臨床試験では、心臓死のドナーからの心臓移植を受けた90名を、従来の脳死ドナーからの移植を受けた90名と、その短期予後を比較検証しています。

その結果、移植後半年の生命予後には、両群で明確な差は認められませんでした。

現状日本ではまだ、法的にもそうした移植は認められていませんが、今後は間違いなく検討される流れにはなると思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36