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2023.07.14

両眼同時に白内障手術を行っても大丈夫?有効性と安全性を検証【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ある程度の年齢になると、誰もが白内障にかかるもの。どうせ手術するなら両眼同時にできると効率的ですが、まとめて手術する事への不安があることも事実です。

今回ご紹介するのは、Lancet誌に2023年5月13日ウェブ掲載された、白内障手術の方法を比較した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

年をとると全ての人に起こりえる白内障

白内障は年齢を重ねるに伴って、全ての人に起こると言って良い、非常に一般的な加齢性の変化です。

その治療は通常は手術によって、加齢により老化した水晶体(レンズ)を吸引するようにして除去し、代わりに人工のレンズを挿入することによって行われます。

ただ、高齢者の白内障は多くの場合、両方の目に程度の差はあっても、同じように起こりますから、両眼の手術が必要となることが多いのです。

その場合、まず片眼の手術をして、1週間かそれ以上の間隔をおいて、もう一方の目を手術する、という方法が広く行われて来ました。

その一方で、結果として時間差で両目の手術をするのであれば、最初から同時に両目の手術を行った方が、より効率的ではないのか、という意見があり、治療技術の進歩もあってその環境も整ったことから、両眼の同時手術も施設によっては国内でも施行されています。

ただ、人工レンズは生体の水晶体とは異なり、自由に焦点を調節するようなことは出来ません。1つもしくはせいぜい2つの焦点距離を持っているだけです。従って、良かれと思って手術を施行しても、実際の見え方が改善しないなど、結果が奏功しないこともあり得ます。

そうしたことを考えると、まず片眼の手術をして、状態や症状の改善を確認してから、もう一方の目の手術をするという方法も、一定の考慮に値するという言い方は出来ます。

片眼ずつ手術するか、両眼同時に手術するか

今回の検証はオランダの複数施設において、両眼の白内障手術を予定していて、眼内の炎症や極端な挿入予定の眼内レンズの焦点距離の差がない、865例の患者をくじ引きで2つの群に分けると一方は両眼の同時手術を施行し、もう一方は片眼の手術の2週間後にもう一方の手術を施行して、その経過を比較検証しています。

その結果、時間をおいた手術でも両眼同時手術でも、その成功率や安全性に明確な差は認められませんでした。

その一方で当然のことですが、手術に掛かったトータルな医療費は、両眼同時手術が有意に低くなっていました。

今後こうしたデータを元にして、両眼同時手術が白内障手術のスタンダードになる可能性が高い、というように思われます。

患者さん目線で考えてみても

ただ、ここからは個人的な経験からの見解になりますが、実際には片眼の手術後に、見え方に納得がいかないと言われる患者さんは意外に多く、そのことを考えると、片眼の手術後にその経過をみて、もう一方の手術の適否を考えるという方針も、考慮には値するような気もします。

この問題はより患者さん目線で、考える必要があるのではないでしょうか?

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36