メニュー

2023.06.13

検便検査で陽性が出たら、すぐ二次検査を!二次検査の受診率を調査【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

健康診断の定番検査である「便潜血検査」は長年行われている実績のある大腸癌検査です。しかしその検査結果をきちんと受け止めず、二次検査を受けない方も多いのだそう。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2023年1月18日付で掲載された、大腸癌検二次検査の受診率についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

科学的に効果が実証されている便潜血検査

大腸癌の検診としては、その簡便性やコストの安さから、市町村の検診でも、もっぱら便潜血検査が行われています。

これは便を通常2回以上別の日に採取して、人間の血液由来のヘモグロビンが検出されるかを見るもので、検出された場合には、微量な出血が大腸の粘膜から生じていると判断して、大腸の内視鏡検査(もしくは直腸鏡や3次元CTなど代替検査)に、進むことが通常です。

便を採るだけの古い検査で、こんなもので何が分かるのかと、馬鹿にされる方もいるかも知れませんが、30年に渡る長期間において、大腸癌のよる死亡のリスクを、最大で3割程度減少させる効果が確認されています。

これだけ明確に癌による死亡のリスクを低下させるような癌検診は、他には殆どなく、あってもどの検査をどのような対象者に行うべきかについては、多くの議論がありますから、便潜血検査による大腸癌検診のように、その有効性が科学的に確認され実証されている検診は、他にはないと言って良いと思います。

ただし、陽性になったら二次検査をしないと意味が無い

しかし、この検査の大きな問題は、便潜血検査単独では診断的な意味はなく、陽性であった対象者が、大腸内視鏡などの二次検査をして初めて、大腸癌かどうかが診断される、と言う点にあります。

そのために陽性であってもその結果を軽視して、二次検査を受けずにスルーしてしまったり、受けても何か月も経ってから、というようなことも稀ではありません。

僕がとても印象に残っているケースでは、集団検診である年に便潜血が陽性になったのですが、その年度は二次検査は受けずに放置していて、その翌年の検診で再度陽性となったので、初めて大腸内視鏡検査を受けたところ、もう進行癌の状態で手術はしたものの、その半年後に亡くなった、という実例がありました。

そのために検診の説明会などでは、早期発見のために、必ず陽性の結果が出たらすぐに二次検査を受けるように、という説明をしています。

二次検査まで期間が空くと癌リスクが増加

以前ご紹介したことのある2017年のJAMA誌の論文では、便潜血の陽性から二次検査の大腸内視鏡検査までの期間が、9か月以内であれば、すぐに施行した場合と明確な差はなかったものの、10か月以降で施行された場合には、大腸癌発見のリスクが48%、進行癌で発見されるリスクが97%、有意に増加するという結果が得られています。(※2)

つまり、遅くとも9か月以内には、二次検査を施行する必要がある訳です。

しかし、実際に便潜血が陽性の事例での二次検査は、どのくらいの頻度で実施されているのでしょうか?

アメリカでは1年以内に二次検査を受けたのは56.1%のみ

今回の研究はアメリカにおいて、2017年1月から2020年6月までの間に、便潜血検査を受けて陽性であった50から75歳の32769名のうち、1年以内に大腸内視鏡検査による二次検査を受けた比率を分析したものです。
それによると、便潜血陽性の結果が出てから、90日以内に内視鏡検査を受けたのは全体の43.3%で、180日以内では51.4%、1年以内に検査を受けたのは56.1%でした。

二次検査率の低さは、人種や健康保険の種類、経済状況などと関連があり、また新型コロナの流行時期においては、その影響と思われる検査率の低下が認められました。

もし陽性になったら、適切に二次検査を受けて

このように、便潜血検査が陽性と判定されても、その後の二次検査の施行率は、決して高いものではなく、今後どのような介入を行って、二次検査を適切に受診してもらうべきか、検証が必要であると思われます。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36