メニュー

2023.03.28

効果に差あり?糖尿病治療薬2種の有効性と安全性の違いを検証【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

糖尿病治療薬の”SGLT2阻害剤”と”DPP-4阻害剤”。糖尿病のコントロール状態によって、その有効性や安全性に差があるのだとか。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に、2023年2月6日ウェブ掲載された、最近使用される頻度の高い、2種類の経口糖尿病治療薬の、有効性と安全性とを比較した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

糖尿病以外の病気にも効果があるSGLT2阻害剤

現在非常に評価の高まっている糖尿病治療薬が、SGLT2阻害剤です。

これは尿に出るブドウ糖の量を増加させる薬ですが、メカニズムは不明の点があるものの、心血管疾患のリスクを低下させ、生命予後にも良い影響を与えることが報告され、心不全や慢性腎臓病の治療薬としても、その有効性が確認されています。

ただ、そうした作用がそれ以外の糖尿病治療薬にはないのか、という点については、直接比較したような臨床試験はあまりないので、明確ではありません。

また、SGLT2阻害剤には、尿にブドウ糖が増えることによる、尿路や外陰部の感染のリスクや、血糖コントロールが不良の患者に使用した場合の、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクなどが指摘されていますが、糖尿病のコントロール状態により、SGLT2阻害剤の有効性や安全性に違いがあるのか、というような点についてもあまり詳細なデータが存在していません。

DPP-4阻害剤とSGLT2阻害剤の安全性と有効性を比較

そこで今回の研究では、アメリカの医療保険の患者データを解析する手法で、新規にSGLT2阻害剤を開始した患者を、別個のポピュラーに使用されている経口糖尿病治療薬で、尿にブドウ糖を増加させるような作用のない、DPP-4阻害剤というジャンルの薬を開始した場合と、その安全性と有効性とを比較検証しています。その有効性は血糖コントロールの指標である、HbA1cの値毎にも解析されています。

トータルで144614名の2型糖尿病の患者が対象となり、そのうち60523名はSGLT2阻害剤を開始し、84091名はDPP-4阻害剤を開始しています。

中間値で8か月の観察期間において、SGLT2阻害剤を使用している患者は、DPP-4阻害剤を使用している患者と比較して、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクが15%(95%CI:0.75から0.95)、心不全による入院のリスクが54%(95%CI:0.35から0.57)、それぞれ有意に低下していました。

この心血管疾患や心疾患の予防効果は、HbA1cが7.5未満であっても、9%以上という悪いコントロール状態であっても、同様に認められました。

一方で糖尿病性ケトアシドーシスのリスクは、HbA1cが9%を超えるというコントロール不良群では、SGLT2阻害剤使用群はDPP-4阻害剤使用群と比較して、2.06倍(95%CI:1.57から3.42)有意に増加していました。

血糖コントロール不良時には要注意

このように、心血管疾患のリスク低減のためには、DPP-4阻害剤よりSGLT2阻害剤の使用で、より高い有効性のあることは間違いがなく、その有効性は血糖コントロールに関わらず認められました。

その一方で血糖コントロールの不良群では、特にHbA1cが9%を超える状態で、糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加が認められていて、SGLT2阻害剤の使用時には、そうした有害事象の慎重な観察が必要であると考えられました。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36