メニュー

2023.06.08

ルーツは1300年前。たんぱく質&カルシウムたっぷりな飛鳥鍋【ニッポン地元メシ#46】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

京都と並んで神社仏閣による文化や技術の発展に影響を及ぼしている奈良県。奈良盆地、大和高原、五條吉野・十津川の3つの地域に分けられます。

奈良盆地は起伏が少なく肥沃な平野が広がり、水稲やイチゴなどが栽培されています。大和高原地域は県北東部に広がり、三重県と奈良盆地の両方の食文化を持ち合わせており、大和茶の産地。また、冬の冷え込みを利用して高野豆腐やかき餅づくりが行われています。雄大な山岳地帯が広がる県南部の五條吉野・十津川地域は林業が盛んで水田は少なく、木の実や雑穀、塩漬けにした山菜、そして吉野川の鮎やアマゴといった川魚が有名です。

このように同じ県内でも地形により様々な食文化が残る奈良県の中には数多くの郷土料理が残っていますが、今回は飛鳥鍋を紹介します。

飛鳥鍋とは

引用:奈良県先生応援サイト 奈良県教育委員会・奈良県の郷土料理集~元気に育て やまとっ子~

引用:奈良県先生応援サイト 奈良県教育委員会・奈良県の郷土料理集~元気に育て やまとっ子~

飛鳥鍋は肉や野菜をだし汁と牛乳で煮込んだ鍋です。

そもそも、日本で牛乳が使われるようになったのは、飛鳥時代に唐から乳製品が伝わり、孝徳天皇に献上したところとても喜ばれたことにあります。その後、宮中では乳牛が飼育され、当時は貴族の飲み物として扱われていましたが、ひそかに僧侶も飲むようになりました。

鶏肉を使った料理も唐から伝わったといわれており、貴族や豪族の間では最高の珍味とされていたそうで、いつの間にか僧侶が鶏肉を入れて煮込んで食べるという方法を考えだし、これが飛鳥鍋の起源になったと言われています。

牛乳は庶民にとって高価であったことから、当時はヤギの乳を用いていたそうです。1300年以上も前の飛鳥時代にルーツをもち、現在の郷土料理としての飛鳥鍋の形になったのは昭和初期と言われています。

飛鳥鍋の作り方

飛鳥鍋に必要な材料は鶏肉や豆腐などのたんぱく源となるもの、しいたけなどのきのこ類、春菊、ネギ、にんじん、ごぼう、白菜といった野菜類となり、基本的な鍋の材料とほぼ同じです。

味のベースは鶏がらスープと薄口しょうゆ、白みそで、牛乳を加えるのが飛鳥鍋の大きな特徴となります。鶏がらスープを煮たててそのほかの調味料を加え、鶏肉などの火が通りにくい食材から順に入れて煮込むだけ。時間のかかる下処理などはないため、材料が揃えば簡単に作ることができます。

飛鳥鍋には、大和肉鶏(やまとにくどり)という奈良県で育てられている地鶏を使用します。大和肉鶏は脂肪が少なくキメが細かい肉質で、弾力性があり、柔らかくうま味もしっかり詰まっているのが特徴です。

もちろん、ご家庭で作る際には普通の鶏肉でも作ることが可能です。また、牛乳を豆乳に変えて作ると、大和鍋(やまとなべ)という呼び名になります。

飛鳥鍋で摂れる栄養とは

飛鳥鍋には様々な食材が使われるため、当然栄養価も高くなります。筋肉の材料や肌、爪の材料ともなるたんぱく質は牛乳、鶏肉、豆腐から摂ることができます。

現代人にとって不足しがちな食物繊維は腸内環境を整え、スムーズな便通には欠かせませんが、飛鳥鍋には野菜や、きのこなど食物繊維を多く含む食材が使われています。また、野菜類の中でも春菊やにんじんなどの緑黄色野菜には抗酸化作用をもつβカロテンが多く含まれます。また、これらは加熱することでカサが減るため、たくさん食べられるのも嬉しいところです。

飛鳥鍋の特徴である牛乳には、たんぱく質のほかに、カルシウムが含まれます。カルシウムは骨や歯を作る成分として有名なミネラルのひとつです。

成長期の子どもには特にしっかり摂ってほしい栄養素ですが、実は大人にもとても重要な栄養素。特に女性は妊娠、出産、授乳、閉経とライフステージが変わるとともにホルモンバランスも大きく変わることで男性よりもカルシウムが失われやすい状態になり、骨粗しょう症のリスクが高まります。大人になっても健康な骨や歯を維持するためには、日々のカルシウム補給はとても重要となります。

鍋料理やスープなどの汁物の良さは様々な食材をひと皿で摂れることはもちろんですが、ビタミンB群やビタミンC、カリウムなどの水に溶け出やすい栄養素も余すことなく摂れることも魅力のひとつです。

温かく栄養がしっかりと詰まった鍋料理で免疫力を高めることで寒い季節はもちろん、1年を通して丈夫な体作りに役立ちます。

日本食のルーツが残る奈良

奈良県は古くより交通網が発達していたことから、シルクロードの終着点として中国や朝鮮半島などの東アジアとの交流が盛んでした。飛鳥・奈良時代には遣隋使や遣唐使によって多くの文化や技術が持ち込まれ、現在の日本の食文化のルーツとなっています。

例えば、空海が唐から持ち帰ったお茶の種が元となり、現在の日本のお茶の起源とされているのが大和茶です。中国から伝わった麦縄という小麦のお菓子がそうめんの原型となり、奈良県の名物三輪そうめんが誕生しました。

さらに大豆や穀類を塩漬けにした醤(ひしお)が古来より作られており、醤油や味噌の原型となったことなど、奈良県には現在私たちが口にしている食のルーツが数多くあることを覚えておきましょう。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

記事画像

磯村優貴恵(いそむら・ゆきえ)
管理栄養士・料理家 
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

制作

文:磯村優貴恵

あわせて読みたい

この記事に関連するキーワード