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2023.05.23

高齢者の体重減少はどれくらい生命の予後に関わる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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年齢を重ねると、筋肉の減少や食欲の減退によって体重が落ちていくことがありますが、健康リスクとの関連はあるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2023年4月10日ウェブ掲載された、高齢者の体重の変動と生命予後との関連を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

中年と高齢の体重の変化

体重は健康の大きなバロメーターの1つです。

中年くらいまでの年齢では、体重増加が病気のリスク増加のバロメーターとなり、糖尿病や内臓肥満が主な病気として問題となります。

それがある程度高齢になってくると、むしろ体重は徐々に減少することが、自然に見られるようになってきます。

これは筋肉や脂肪などの減少による生理的現象ですが、その程度が生命予後にどのような影響を与えているのか、というような点については、あまり明確なことが分かっていません。

また、内臓脂肪の指標としては、体重よりお腹周りの腹囲の方が、よりその程度を的確に反映している、という指摘もあり、それが健康な高齢者に対しても成り立つのか、というような点も不明です。

体重減少率と死亡のリスクの関連性

今回の研究はアメリカとオーストラリアで施行された、アスピリンの予防効果を検証した、疫学研究のデータを二次利用する方法で、特に病気のない65歳以上の健常な高齢者の、体重と腹囲の2年間での変化と、生命予後との関連を比較検証しているものです。

対象は平均年齢75歳の16523名で、体重の2年間の変動が5%以下と比較して、男性の場合5から10%の体重減少があると、総死亡のリスクは1.33倍(95%CI:1.07から1.66)、体重が10%を超えて減少すると、総死亡のリスクは3.8(95%CI:2.93から5.18)、それぞれ有意に増加していました。

これが女性の場合、同じく体重変動が5%以下と比較して、5から10%の体重減少があると、総死亡のリスクは1.26倍(95%CI:1.00から1.60)、体重が10%を超えて減少すると、総死亡のリスクは2.14倍(95%CI:1.58から2.91)と、男性と比べると影響は小さいのですが、矢張り体重減少と総死亡リスクは関連していました。

この体重減少に伴う死亡リスクの増加は、癌による死亡のみで見ても、心血管疾患による死亡のみで見ても、それ以外の原因による死亡のみで見ても、同じように認められています。

一方で腹囲の減少も同様に、死亡リスクの増加に繋がっていましたが、概ね体重減少よりも小さな影響に留まっていました。

顕著な体重減少は生命に影響

このように、特に2年以内に10%を超えるような体重減少は、生命予後の悪化に結び付くような病気に関連している可能性が高く、特に男性においてはその傾向が顕著であるので、今後原因のはっきりしない高齢者の体重減少についての、適切な観察や検査のガイドラインが、作られることを期待したいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36