メニュー

2021.09.02

サイクリングは糖尿病患者の生命予後に効果があるのか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

糖尿病の治療には、運動習慣が大切だと言われます。どんな運動を選ぶのがいいのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に、2021年7月19日ウェブ掲載された、サイクリングが糖尿病の患者さんの生命予後に、与える影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

糖尿病患者に必要なのは運動療法

糖尿病の患者さんは糖尿病のない人と比較して、総死亡のリスクも心血管疾患による死亡リスクも高いことが知られています。

糖尿病治療の目標は、従ってその生命予後を糖尿病のない人と同じにすることですが、そこにおいて薬物治療や食事療法と同じように重要であるのが、運動習慣であるという点は、専門家の一致した見解です。

ただ、それではどのような運動が、糖尿病の患者さんにおいて最もその予後改善に結び付くのかと言う点については、まだ明確なことが分かっていません。

サイクリングは糖尿病患者にも有効?

心血管疾患の予防のためには、ウォーキングに少し強度の高い運動を混ぜたような、運動プログラムが有効と報告されていますが、実際には糖尿病の患者さんが、そうした運動に定期的に時間を割くことは、それほど簡単なことではありません。

そこで習慣化しやすい運動として注目されているのが「サイクリング」です。

サイクリングは一定の運動強度があり、出勤や買い物などをサイクリングに切り替えることにより、簡単に運動習慣を作れるという利点があります。

サイクリングが心血管疾患のリスク低下に繋がる、という点については、これまでに複数のデータが存在していますが、糖尿病の患者さんにおいての生命予後改善効果については、これまでに信頼の置けるデータがありませんでした。

糖尿病患者のサイクリング習慣と生命予後の関連を検証

そこで今回の研究では、ヨーロッパで生活習慣と癌との関連を検証した大規模な疫学研究のデータを活用して、糖尿病の患者さんにおけるサイクリングの習慣と、生命予後との関連を比較検証しています。

7459名の糖尿病患者を5年経過観察したところ、サイクリングの習慣のある患者はない患者と比較して、総死亡のリスクが週に60分未満でも22%(95%CI:0.61から0.99)、150から299分では32%(95%CI:0.57から0.82)、有意に低下していました。

こうした傾向は心血管疾患による死亡リスクについても、ほぼ同様に認められました。

サイクリングには生命予後の改善効果が

このように、糖尿病の患者におけるサイクリングの習慣は、週に300分未満では運動時間に伴って、生命予後の改善効果が確認されました。

週に300分で頭打ちになっていることの解釈は確実なものはありませんが、サイクリングには事故のリスクはあり、それが影響した可能性も否定は出来ません。

この問題は今後より詳細な検証が必要であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36