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2019.10.16

喫煙者の心血管疾患リスク、禁煙すれば何年で下がるか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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タバコが身体に悪いのは周知の事実。禁煙したとしてもすぐに喫煙前の身体に戻れるわけではないようです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のJAMA誌に掲載された、禁煙のその後の心血管疾患リスクへ与える影響を解析した論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

タバコを辞めるとどれくらい健康になる?

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喫煙は肺癌などの癌や、慢性閉塞性肺疾患などの肺の病気、そして心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを増加させ、その結果として生命予後を悪化させます。

禁煙はそうしたリスクを軽減させることに、一定の効果のあることも確認されています。

ただ、「禁煙をすると20年で肺は元の状態に戻る」というような意味の記載を見掛けることがありますが、これは主に肺癌のリスクについてのデータを元にしています。

2000年のBritish Medical Journal誌に有名な論文があって、これによると、60歳で禁煙した場合に、75歳までの肺癌による死亡リスクが、しない場合の15.9%から9.9%にまで抑制される、というような疫学データが示されています。(※2)

つまり、こうしたデータから、60歳の年齢で禁煙することも、肺癌の予防に一定の意義がある、ということが示唆されるのです。

しかし、これは基本的に肺癌の死亡に限ったデータです。

禁煙後何年たてば、非喫煙者と同じ状態に戻るか

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喫煙の継続により、心筋梗塞や脳卒中などの、心血管疾患のリスクが増加することは、ほぼ間違いがありませんが、高齢者におけるそのリスクと、禁煙の実際的な効果については、これまでにあまり精度の高い研究結果が存在していません。

以前ブログ記事でもご紹介した、2015年のBritish Medical Journal誌の論文では、これまでの25の疫学データをまとめて解析した結果として、禁煙をしても心血管疾患のリスクはまだ高い状態が続き、生来の非喫煙者と同じになるのは、20年くらい経過してからだ、という結果になっています。(※3、※4)

ただ、これは多くの条件の違うデータの寄せ集めですから、その点の限界はあります。

この問題が意外に重要であるのは、5年から10年の心血管疾患のリスクの推測が、生活習慣病の治療指針において、常に大きな比重を占めているからです。

そのリスクの大小によって、治療が選択されてしまうのです。

その算定法には多くの種類がありますが、世界的にも評価されているある方法では、その時点で喫煙をしていなければ、禁煙して間もない人でも、そのリスクは非喫煙者と同じとして、計算がされていますし、別の算定スケールにおいては、禁煙から5年以上経過していれば、非喫煙者と同等として計算がされています。

しかし、2015年の論文の結果が事実であるとすれば、その計算スケールは明らかに誤りということになります。

禁煙後25年間は心血管疾患リスクは高いまま

今回の研究では、アメリカの最も有名な疫学研究である、フラミンガム心臓研究のデータを活用して、喫煙者が禁煙をすることによる、心血管疾患のリスクの推移を検証しています。

その結果、心血管疾患のリスクは、喫煙者が禁煙すると5年以内に現在の喫煙者より有意に低下しますが、非喫煙者と比較すれば高い状態が少なくとも5から10年は続き、それが非喫煙者と同じになるには、25年が掛かると推計されました。

喫煙の影響は想像以上に長期間残る

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このように今回の単独の疫学データの解析において、これまで考えられていたより長期間、禁煙後もこそれまでの喫煙の影響が残るという結果の意義は大きく、今後も知見の積み重ねにより、現状より正確な心血管疾患リスクの推計が、なされることを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36