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2023.03.09

発酵・熟成した万能調味料で旨味たっぷり。石川県のいしる鍋の魅力【ニッポン地元メシ#40】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

画像:石川県観光連盟

画像:石川県観光連盟

日本海にぐっと突き出た能登半島が特徴的な石川県。北陸地方に位置し、県土は大きく分けて北と南の2つに分けられます。

北は能登地区と呼ばれ、標高300m以下の低山地と丘陵地が大部分を占めています。南の加賀地区は、北の能登地区とは対照的に標高2702mの白山を最高峰とした山岳地帯。海岸部は日本有数の砂丘海岸が連なっています。

さらに石川県金沢市は、言わずと知れた加賀藩の御膝元。

城下町として栄え、歴代の藩主は文化事業にも強い関心を寄せていたことから、工芸や茶道などを庶民にも奨励していたのだとか。現在は九谷焼、輪島塗、金沢箔などといった10品目が、国指定の伝統工芸品として継承されています。

このように、様々な面を持ち合わせた石川県には、それと同じように数多くの食文化が残っています。今回は、能登を代表する調味料いしると、いしるを使った鍋を紹介します。

”いしる”とは、どんな調味料?

いしるとは、石川県の能登地方に伝わる魚醤のこと。原料の魚介類を天然塩とともに漬け、数年かけて発酵・熟成させることで作られています。

語源は諸説ありますが、魚のことを古語で、”いお”や”い”といい、その汁から”いしる”となったといわれています。その他にも魚の余った汁、”よしる”や”よしり”、塩で漬けることから、”塩しる”や”塩しり”と呼ぶこともあります。

交通が不便な時代の山村地域では、魚を入手することが難しく、その代わりにいしるとお米を交換したほど。

同じ県内でも味わいが異なり、能登地方の中でも外浦では、主にイワシやサバ、アジなどの身を使い、内浦ではイカの内臓を原料とするなど、地域によっての違いが楽しめます。魚介独特の風味とうま味が詰まったいしるは、料理に少量使う隠し味としておすすめですよ。

ちなみにいしるは、秋田県のしょっつる、香川県のいかなご醤油と並び、日本三大魚醤と言われています。

いしる鍋の作り方

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ishirunabe_ishikawa.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ishirunabe_ishikawa.html)

いしる鍋に入れる具材には特に決まりはありません。

冬に食べることが多いため、ネギや白菜、春菊、大根などの旬の野菜や、きのこ類、白滝や豆腐などの定番の鍋の具材でOK。また、石川県は新鮮でおいしい魚介が獲れることから、エビやイカ、魚の切り身などの魚介を一緒に入れるのもよいでしょう。

いしる鍋の決め手は、やはり汁!だし汁に、いしるや酒を加えて煮た鍋のスープは、野菜や魚介の旨味が溶けだし、濃厚な旨味と香りを楽しむことができます。

いしる鍋の栄養は?

食材に含まれる栄養素の中には、水に溶け出てしまうものも多くあります。水溶性ビタミンであるビタミンB群やC、カリウムなどのミネラルも、水に溶け出してしまう栄養素。鍋のスープまで飲み干せば、これらの栄養をしっかり摂ることができます。

また、腸内環境を整える働きのある食物繊維を多く含むねぎや白菜は、加熱することでカサが減るため、たっぷり食べることができますね。

その他、春菊やネギの青い部分には抗酸化作用のあるβ-カロテンが、豆腐、イカ、エビなどの魚介類には、私たちの体の土台として欠かせないたんぱく質が多く含まれます。

そしていしるには、うま味成分でもあるアミノ酸が多く、天然塩によるミネラルが豊富。ただ、多量に使うといしるの主張が強すぎたり、塩味が強くなってしまいます。鍋のようにスープを楽しむ料理に適量使用すれば、いしるの風味を活かしながらも様々な食材を楽しむことができますよ。

普段のごはん作りにも!プラスすれば美味しさアップ

画像:石川県観光連盟

画像:石川県観光連盟

いしる鍋以外にも、いしるを使った料理がたくさんあります。例えば、大根、ナス、キュウリ、ミョウガなど、お好みの野菜をいしるに漬けた”べん漬け”や、帆立の貝殻に野菜や魚介などの具材を入れ、いしるを加えて焼く”いしるの貝焼き”などが、郷土料理として知られています。

また、郷土料理だけでなく、イカと里芋の煮物に加えたり、チャーハンや炒め物の隠し味としてプラスすれば、味に深みが増して美味しさアップ。タイのナンプラーやベトナムのニョクマムと同じ魚醤ですので、和食だけでなく様々な料理に活用できます。

いしるはネットやスーパーでも手に入る調味料。いつもの料理に少し変化を付けたい時や、石川県の海の恵みを味わいたい時に、ご自宅で楽しんでみてはいかがでしょうか。

記事情報

引用・参考文献

1.農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/area_stories/ishikawa.html)
2.農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ishirunabe_ishikawa.html)
3.能登いしり物語Webサイト(http://www.ishiri.jp/about/)
4.郷土料理ものがたりWebサイト(http://kyoudo-ryouri.com/food/1711.html)
5.公益社団法人石川県観光連盟 ほっと石川旅ねっとWebサイト(https://www.hot-ishikawa.jp/)

著者プロフィール

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磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)
管理栄養士・料理家 
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

制作

文:磯村 優貴恵

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