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2022.10.31

新型コロナウイルス感染症後の血栓症リスクとは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナ罹患後に血栓症リスクが高まるという報告は今までも上がっていましたが、そのリスクがどのくらい持続するかは明らかになっていませんでした。

今回ご紹介するのは、Circulation誌に2022年9月20日掲載された、新型コロナウイルス感染症罹患後の、全身の血栓症リスクの増加を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナ後の血栓症リスクとは?

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、心筋梗塞や脳卒中、深部静脈血栓症や肺塞栓症など、全身の動脈系静脈系の血栓症のリスクが高まることは、これまでに繰り返し指摘されている事実です。

ただ、個別の疾患の長期のリスクについて、系統的に検証された大規模データは、まだそれほどないのが実際です。

コロナ後の血栓症リスクを長期にわたり検証

今回の研究ではイギリスにおいて、4800万人の大規模な電子カルテデータを使用。140万人以上の新型コロナウイルス感染症罹患者を対象として、新型コロナウイルス感染症の診断時以降、49週までの長期間の心血管疾患や血栓症のリスクを、非感染者と比較検証しています。

間違いなくこれまでで最も大規模で、かつ最も長期間検証されたデータです。

その結果、多くの心血管疾患や血栓疾患において、動脈系と静脈系の双方に、49週までの長期間に渡って、新型コロナイルス感染後のリスク増加が認められました。

心筋梗塞や脳卒中などの動脈系の血栓症については、新型コロナ診断後1週目には非感染者の21.7倍(95%CI:21.0から22.4)と著明なリスク増加が認められ、その後週数が経過する毎にリスクは減少しますが、診断49週目においても、1.34倍(95%CI:1.21から1.48)と有意なリスク増加は残存していました。

深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈系の血栓症については、こちらも新型コロナ診断後1週目には、非感染者の33.2倍(95%CI:31.3から35.2)と著明なリスク増加が認められ、診断49週目においても、1.80倍(95%CI:1.50から2.17)と有意なリスク増加は残存していました。

この血栓症リスクの増加は、入院した重症患者が自宅療養よりも、アフリカ系やアジア系人種が白人種よりも、静脈血栓症の既往がない患者がある患者よりも、より高くなる傾向が認められました。

1年後にもリスクは残存

推計すると、この新型コロナ診断後49週までの累積の血栓症リスクにより、一般人口の0.5%に動脈血栓症が、0.25%に静脈血栓症が新たに生じたことになり、これは140万人の新型コロナ感染者において、動脈系血栓症が7200件、静脈系血栓症が3500件、新たに発症したと計算されます。

このように、新型コロナウイルス感染症は、その感染自体による肺炎などの発症のみならず、心筋梗塞や脳卒中、肺塞栓症など、幅広い血栓症のリスク増加と関連していて、そのリスクは感染直後にピークに達しますが、ほぼ1年後においても残存しており、その影響は公衆衛生的にも無視出来ないレベルのものです。

どのような対策が適切かの検証を

今後こうした感染後の血栓症の予防のために、どのような対策が適切であるのか、抗血小板剤や抗凝固剤を、予防的に使用することに一定の意味があるのか、あるとすれば何を指標として投与するべきなのか、そうした点についての検証が早急に必要であるように思います。

行政はもうコロナ後を見据えて、医療費も絞り込む方向に舵を切っていて、療養期間後のケアには、あまり対策が取られる見通しはなさそうですが、末端の医療者の1人としては、そうした側面にも注意を払いつつ、日々の診療には当たろうと考えているところです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36