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2022.10.06

タバコとコーヒーの不思議な関係【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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仕事の合間の休憩タイム、タバコのお供にコーヒーをという方は多いと思います。なぜタバコを吸う時はコーヒーを選ぶことが多いのでしょうか。

今回ご紹介するのは、Neuropharmacology誌に、2022年6月27日ウェブ掲載された、タバコとコーヒーとの関連を示唆する、基礎研究の論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

嗜好品の代表であるタバコとコーヒー

タバコとコーヒーは以前は嗜好品の代表で、徹夜でコーヒーをじゃんじゃん飲み、タバコを多量に吸って仕事をする、というのが、ハードな仕事をしているサラリーマンの、典型的な姿でもありました。

タバコに含まれるニコチンも、コーヒーに含まれるカフェインも、共に脳を刺激して集中力を高め、眠気を抑制するような効果があるので、それを共に摂取することは、徹夜の仕事などには効果的であったのです。

しかし、タバコは身体に有害な多くの作用を持っていて、それが明らかになるにつれ、喫煙は科学的には止めるべき習慣であることが、今では常識となっています。

一方でコーヒーについては2012年のNew Englannd…の論文(※2)発表以降、健康に良い多くの効果があることが確認されています。

つまり、以前は共通に語られることの多かったコーヒーとタバコは、健康への効果という面では、大きく明暗を分けることになったのです。

タバコとコーヒーは相性がいい?

ところで…コーヒーとタバコの相性の良さは、単純に習慣的なものなのでしょうか?たとえば、朝起きて一服目のタバコは、コーヒーと一緒でないと美味しくない、というような意見があります。

こうした喫煙者の感想からは、タバコとコーヒーの脳への影響の間に、何らかの科学的な関連があることが想定されます。

それは一体何なのでしょうか?

タバコに含まれるニコチンの依存性は、ニコチンが脳で結合するα4β2というニコン受容体の働きによる、ということが分かっています。この受容体にニコチンが結合すると、ドーパミンという一種の脳内麻薬が放出されて、それが喫煙に伴うある種の快感を生み出しているのです。

コーヒーと同時にタバコを吸うと脳のバランスが安定する

今回の研究では培養細胞にこのタイプの受容体を発現させ、そこにコーヒー由来の抽出物を反応させて、その効果をみる実験が行われています。

その結果、コーヒー由来の抽出物により、高感受性のα4β2ニコチン受容体は抑制される一方で、低感受性のα4β2ニコチン受容体は刺激される、ということが分かりました。

ここからは論文筆者の推論になります。

喫煙によるニコチンの依存のある喫煙者では、高感受性のニコチン受容体がより多く発現し、ニコチンに非常に敏感な状態となっています。

そこでコーヒーを飲むと、高感受性のニコチン受容体が抑制されるので、喫煙への渇望が和らげられ、精神的に安定した状態で、喫煙が可能となる状態が想定されるのです。

つまり、朝コーヒーと一緒にタバコを吸うと心地良いのは、過剰なニコチン感受性が抑えられることにより、脳のバランスが安定するためと考えられる訳です。

より効果的な禁煙治療につながるかも

この知見は現状ではそこまでのものですが、このメカニズムは禁煙治療にも有効と考えられますから、コーヒーの抽出物を上手く利用することで、より効果的な禁煙治療の可能性が、開けることになるかも知れません。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36