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2020.09.30

コーヒーとカフェインが健康に与える影響とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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コーヒーが健康にいいと言われますが、それはコーヒーに含まれるカフェインがもたらす効果なのでしょうか?それとも、コーヒーという飲み物が健康に良いのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に2020年7月23日掲載された、コーヒーとカフェインの健康影響についての総説です。コーヒーそのものより、主にカフェインの身体への影響をまとめた内容になっています。

▼石原先生のブログはこちら

健康にいい影響を与えるのはコーヒーか?カフェインか?

コーヒーが健康に良い飲み物である…と言う点については、このブログでも何度も取り上げていますし、今回総まとめ的な本も出させて頂きました。ただ、その健康への良い影響が何処から来ているのか、という点については、まだ明確なことが分かっていません。

コーヒーには生理活性物質だけで100種類以上が含まれていますが、その中にはクロロゲン酸やニコチン酸のように、ある程度その作用が明確になっているものもある一方、その生理作用が不明なものも多いのが実際です。

しかし何と言ってもコーヒーに含まれている物質として、最も有名なのは「カフェイン」です。

カフェインはそれ自体多くの生理活性作用のある物質で、コーヒーに特徴的な覚醒作用や常用性は、主にこのカフェインによるものです。

カフェインには交感神経の刺激作用があり、その大量を一気に服用すると死亡することもありますが、通常コーヒーで飲むレベルのカフェインは、そうした深刻な健康被害に結び付くことはありません。

ただ、短期的には血圧や脈拍を増加させることはあるので、その影響を問題視するような意見もありました。しかし、妊娠中や授乳中の女性を除いては、その影響はほぼないか、ごく軽微なものと考えられています。

この総説ではカフェインの身体への影響が分かりやすくまとめられています。

脳を活性化させる一方で、不眠をもたらすカフェイン

まずこちらをご覧下さい。

これはこの総説にある、カフェインの身体への影響を示した図の左半分です。画像のサイズの問題で半分のみ図示しています。

上から行くと、まずカフェインの脳への影響ですが、カフェインは脳を活性化させて注意力を高め、パーキンソン病やうつ病のリスクを低下させる、という報告があります。
痛みに対する鎮痛剤の効果を増強します。その一方で不眠の原因となり不安を誘発することがあります。

こうした影響は大量で生じやすく、またメンタルに不安定であると起こりやすい可能性があるので、メンタルに不安定や人や治療中の人に、カフェインの常用は勧められません。

呼吸器への影響としては、低出生体重児の無呼吸の治療に使用され、大人の肺機能を改善させるという報告があります。肝臓においては肝臓の繊維化や肝硬変、肝細胞癌の、予防効果が報告されています。

大量のカフェインは利尿作用を持ちますが、適正な摂取量で常用しているケースでは、利尿に影響を与えません。

デカフェでも効果が変わらないという報告も

それでは次にこちらをご覧下さい。

先刻の画像の右半分です。上から心血管系についてですが、急性の使用ではカフェインは血圧を上昇させますが、習慣的な使用ではその影響は小さなものになります。

内分泌系への影響では、これも短期的には骨格筋のインスリン感受性を低下させますが、習慣的な使用ではむしろ改善を示します。生殖器系への影響では、女性においては胎児の成長を遅延させ、流産のリスクを高めるという報告があります。

以上のように、カフェインは短期的には、血圧などに悪影響を与える可能性がありますが、常用においては大きな影響は見られていません。その使用が明確に害があるのは、妊娠中の場合のみです。

さて、コーヒーには心血管疾患や糖尿病のリスク低下、生命予後の改善など、多くの健康効果が確認されていますが、それがカフェインの直接作用であるのか、それともカフェインとは無関係であるのか、という点については明確な結論が得られていません。

カフェインはお茶など他の飲み物にも多く含まれているので、コーヒーの健康効果が抜きん出ていることを、カフェインのみでは説明困難に思いますし、カフェイン抜きのデカフェのコーヒーでも、健康効果は変わらなかった、という報告もあります。

その一方でカフェインの摂取量やその代謝物と、コーヒーの健康効果が相関している、とする研究結果がこちらも複数認められているのです。この問題はまだ結論を出すのは困難であるようです。

コーヒーは妊娠・授乳中以外の成人には有益な飲み物

この総説の結論としては、コーヒーは心血管疾患や癌のリスク因子ではなく、1日カップ3から5杯程度のコーヒーの摂取習慣は、妊娠中や授乳中の女性を除いては、健康保持のために有益な生活習慣として推奨される、となっています。

ただ、過量のカフェインは健康への悪影響も想定されるので、カフェインの摂取量としては、妊娠中や授乳中の女性を除く成人では、1日400ミリグラムを上限とし、妊娠中と授乳中の女性では、1日200ミリグラムを上限とするのが妥当だ、としています。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36