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2022.06.10

バターとマーガリンの違い、きちんと言えますか?トランス脂肪酸をきちんと理解しよう

kencom公式:管理栄養士・前田 量子

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みなさんがパンに塗るのは、バターですか?マーガリンですか?

どちらも身近な調味料で、スーパーやコンビニでは同じ乳製品売り場に置かれていることが多いですが、その違いを説明できますか?

大きな違いは「動物性」か「植物性」か

バターもマーガリンも大部分が脂質でできていますが、大きな違いはその原料です。

バターは動物性の乳脂肪分が主体なのに対して、マーガリンは大豆油やコーン油等の植物性を原料としています。

植物性のマーガリンが“固体”なわけ

植物性油脂で作るマーガリンの原材料は、大豆油やコーン油などです。どれも特別なものではなく、一般的にサラダ油として売られています。
これらの植物性油脂の形状は常温で液体というのが特徴なのですが、マーガリンは常温でも固体ですよね。

どうして同じ原料なのに形状が違うのでしょうか。それにはまず脂質の性質を知らなくてはなりません。

脂質の性質を決めているのは脂肪酸

脂質とひとことで言ってもその種類はさまざま。
植物性の代表的なものは、大豆油やコーン油、オリーブオイル、ごま油、なたね油、こめ油など。常温ではサラサラとした液体状なのが特徴です。
対して動物性は、牛脂(ヘット)や豚脂(ラード)などがあり、常温で固体であることが多いのが特徴です。

私たちが口にする脂質のほとんどは、グリセリンというアルコールの一種に脂肪酸が3つ結合した形をしています。
脂肪酸は、構造の違いにより「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類に大きく分類されます。簡単に説明すると、炭素と炭素の間に二重結合が全くないものを飽和脂肪酸、二重結合があるものを不飽和脂肪酸といいます。

この脂肪酸にはとても沢山の種類があり、どの脂肪酸がくっつくかで脂質の性質が決まってきます。そのため脂質は多種多様なものがあるのです。

融点の決め手は、“炭素数”と“二重結合数”

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/fatty_acid.html#1)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/fatty_acid.html#1)

常温での形状は、融点(固体が液体になり始める温度)によって変わります。では融点はどのように決まるのでしょうか。

脂肪酸は炭素(C)・水素(H)・酸素(O)の3種類の原子で構成されており、炭素原子が鎖状につながった一方の端にカルボキシル基(-COOH)がついています。
炭素数は一定ではなく2個から20個以上のものまで様々です。そして、一般的に炭素の数が増えるほど融点が高くなる(常温で固体になりやすい)傾向があります。

では炭素数が大きければ全て融点が高いというとそうではありません。

魚の油で有名なDHAは炭素数が22と大きな脂肪酸ですが、その融点は-44℃と低いことで知られています。
その融点の低さに関係しているのが二重結合の数。
炭素と炭素の間にいくつ二重結合の数を持っているかが融点に影響を与えており、DHAはその二重結合を6個も持っています。

まとめると、一般的に炭素数が多いと融点は高くなり、二重結合数が多いと融点は低くなるという性質があります。

融点を変化させる方法

常温では液体状の植物油を個体にする加工技術のひとつに「水素添加」があります。
水素を添加することで不飽和脂肪酸(二重結合が1つ以上ある脂肪酸)の二重結合の数が減り、結果融点が上がる、というメカニズムです。マーガリンを作る時の技術のひとつであり、常温で液体だった植物油が固体になるのはこのためです。(※)

食品加工技術の賜物、というところですが、そこには嬉しくない副産物が生まれてしまうことがあります。それが「トランス脂肪酸」です。

※あくまでマーガリンの製造方法のひとつです。近年では水素添加された油(一般販売される商品には「部分水素添加油脂」と記載されることが多い)を使用せず、トランス脂肪酸の低減に取り組んでいるメーカーも多くあります。

トランス脂肪酸ってなに?

不飽和脂肪酸は二重結合が1つ以上あるのが特徴ですが、もうひとつ性質を決める要素があります。それが水素原子が炭素原子を挟んでどちらについているかです。

同じ側だとシス型、炭素を挟んでむこう側に水素原子があるとトランス型になります。
トランス型の結合をひとつでも持っていれば、その脂肪酸はトランス脂肪酸と呼ばれます。ちなみに、天然の不飽和脂肪酸のほとんどがシス型です。

トランス脂肪酸は身体に悪い?

ではトランス脂肪酸は身体にどんな影響があるのでしょうか。

トランス脂肪酸の存在が分かってから、沢山の研究がされてきました。
脂質は大切なエネルギー源であるだけでなく、脂溶性ビタミンの吸収を助けるなど様々な作用があります。しかしトランス脂肪酸については、食品から摂る必要がないと考えられています。
むしろ摂りすぎると健康への悪影響があると言われており、日常的にトランス脂肪酸を多く摂りすぎている場合は、少ない場合と比較して心臓病のリスクが高まることも示されています。

このような背景から、トランス脂肪酸が含まれているマーガリンは、一時期とても敬遠されたことがありました。
しかしトランス脂肪酸による健康への悪影響を示す研究の多くは、そもそもの脂質摂取量が多く、結果としてトランス脂肪酸摂取量も多い欧米人を対象としているものです。

脂質をとる量が比較的少ない日本人の場合にも同じ影響があるのかどうかは明らかになっていない、というのが実際のところです。

トランス脂肪酸は天然にも存在する

天然の不飽和脂肪酸は、通常シス型で存在していると書きましたが、トランス型が天然に存在しないわけではありません。
牛や羊などの反芻(はんすう)動物では、胃の中の微生物の働きによってトランス脂肪酸が作られるため、牛肉や羊肉、牛乳やバターなどの乳製品の中には天然のトランス脂肪酸が微量に含まれています。

マーガリン等の油脂の加工・精製でできるトランス脂肪酸と、天然にあるトランス脂肪酸では健康に及ぼす影響に違いがあるのか。また、たくさんの種類があるトランス脂肪酸の中で、どのトランス脂肪酸が健康に悪影響を及ぼすのかについては、十分な科学的情報もないのが実際のところです。

日本人のトランス脂肪酸摂取量は基準以下!

農林水産省は、平成17、19年度に、日本人のトランス脂肪酸の摂取量を推定するための調査研究を実施しています。

日本人の平均的なトランス脂肪酸の摂取量は、WHOの目標基準である総摂取エネルギー比の1%未満であることを明らかにしています。

また平成24年に食品安全委員会は、トランス脂肪酸の摂取量について「日本人の大多数がWHOの勧告(目標)基準である総摂取エネルギー比1%未満であり、また、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる」と結論を出しています。

ひと安心、というところですが、これは日本人の食生活の平均から出している結果です。
食生活によって脂質摂取量が少ない人もいれば多い人もいます。そのため脂質摂取量が平均より多い人は、トランス脂肪酸を多くとってしまっている可能性もある、ということは頭に入れておくと良いでしょう。

マーガリンを食べても問題ない?

現在では多くの食品会社の企業努力により、「部分添加水素油脂」を使用しないなど、マーガリンのような加工油脂中のトランス脂肪酸の低減が取り組まれています。
実際、農林水産省が平成26~27年度に国内で流通する加工油脂や油脂を原材料とする加工食品を調査したところ、平成18~19年度の調査結果と比較して、トランス脂肪酸の濃度が低くなったことも確認しています。

上記をまとめると、マーガリンのトランス脂肪酸だけが悪とはいえませんし、近年のマーガリンはトランス脂肪酸がかなり低減されていることから、極端にマーガリンを避ける必要はないのではないでしょうか。

食の「良い」「悪い」はバランス次第

食と健康を語る上で、何よりも大切なのはバランスです。

一概に「マーガリンや加工油脂が悪い」とひとくくりにせず、色々な食品から適切な量の脂質を摂ることが大切です。

またバターやマーガリンについて議論するときはトランス脂肪酸ばかりに目がいきがちですが、日本人の食生活で一番の問題と考えられているのは、食塩のとりすぎなのです。
摂取量は減少傾向ではありますが、それでも日本人の食事摂取基準(2020年)よりも多いのが現状です。

ひとつの食材や調味料だけで良し悪しを判断するのではなく、バランスの良い食生活を心がけることが大切といえるでしょう。

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前田 量子(まえだ・りょうこ)

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管理栄養士 野菜ソムリエ ロジカル調理研究家。
著書『ロジカル調理』『ロジカル和食』『考えないお弁当』をはじめ、電子レンジの加熱時間や法則を書いた『ロジカル電子レンジ調理』が2022年2月に発売。調理科学で普段のもやもや悩みをすっきり解決 。スーパーの食材で本当に美味しく&家族が楽しみにしてくれる定番家庭料理を作れるようになる料理教室主宰。

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