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2022.04.22

昔ながらの、美味しいフードロス対策。栃木県「しもつかれ」【ニッポン地元メシ#19】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

海に面していない、いわゆる“海なし県”のひとつである栃木県。
海に面していないからこそ、日光・鬼怒川・那須・塩原など山の恵みや自然を満喫できる名所が多く、都心からもアクセスが良いことから小旅行にも人気です。

食では、ブランドいちご「とちおとめ」や宇都宮の名物「宇都宮餃子」はみなさんもご存知の名物。
そして、栃木県と言えば生乳生産量第2位、乳用牛の飼養頭数第2位、肉用牛飼養頭数第7位と、全国でも有数の畜産県でもあり、ナチュラルチーズ、ヨーグルト、バターといった国産乳製品も有名です。

今回はこうした自然豊かな栃木県から、郷土料理「しもつかれ」を紹介します。

しもつかれとは

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/shimotukare_ibaraki.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/shimotukare_ibaraki.html)

しもつかれは、正月の残りの鮭の頭に、節分でまいた豆の残り、そして根菜などを酒粕で煮こんだ栃木県西部地域に伝わる郷土料理です。

その歴史は鎌倉時代に書かれた「宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)」にも記述があるほどで、古くからあるからこそ由来には諸説あります。

ひとつが平安・鎌倉時代に都で食べられていた、煎り大豆に酢をかけた「酢むつかり」という料理が起源であるというもの。
もうひとつが、栃木県は「下野国(しもつけのくに)」と呼ばれており、「下野ばかり」あるいは「下野家例」がなまり「しもつかれ」と呼ばれるようになったという説です。

その後、江戸時代中期・天明の飢饉の頃(1781~1789)に稲荷神社に供えられた時に今のかたちになったと言われています。

しもつかれは初午の日(2月の最初の午の日)に無病息災、疫病退散などを祈願し作られる行事食で、この日に作ったしもつかれを「藁苞(わらづと 藁を束ねた包装)」で包み、赤飯と一緒に稲荷神社に供える風習が残っています。

各家庭で大鍋を使ってたっぷりと作るしもつかれは、「7軒分のしもつかれを食べると病気をしない」という言い伝えからご近所同士で分け合って食べる習慣があるそうです。

しもつかれの作り方

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/shimotukare_ibaraki.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/shimotukare_ibaraki.html)

主な材料は鮭の頭、だいこん、にんじん、酒かす、大豆(煎ったもの)、油揚げです。

鮭の頭を焼き、水や酒とともにじっくり煮込んだら、すり下ろした大根とにんじん、煎った大豆、短冊切りにした油揚げを加えてさらに煮ます。
その後酒かすを溶かし入れ、最後に塩や醤油で味を調えます。

煮込んでいる時は焦げ付かないように全体を大きく混ぜながら煮込むことがコツです。
一晩おいて冷たくしていただくのもおいしいのだとか。

しもつかれを作る際のポイントは、「鬼おろし」を使ってだいこんとにんじんをおろすことです。
鬼おろしは竹でできており、普通のおろし金に比べると目が粗く、見た目もギザギザとしています。
普通のおろし金ですり下ろした時よりも水分が出にくく、おろした後もほどよく粒感が残り存在感のある仕上がりになるため野菜の持つ本来の風味を楽しむことができるのです。

身体にも地球にも優しい郷土料理

しもつかれは、健康面でも、環境面でも優しい郷土料理と言えます。

栄養面ですが、まず鮭にはタンパク質が豊富で、近年注目されているDHAやEPAといったオメガ3脂肪酸が含まれます。また身のピンク色はアスタキサンチンという成分によるもので、強力な抗酸化作用を持ちます。

大豆は畑の肉ともいわれるほどタンパク質が多い食材。体内で女性ホルモンと似た働きをしてくれる大豆イソフラボンは、骨粗しょう症予防にも役立つといわれていますし、腸内環境を整えるのに役立つ食物繊維も含みます。

酒かすは美容面からも注目されている発酵食品のひとつですが、エネルギー代謝、爪や髪の毛、お肌の健康維持に役立つビタミンB群、食物繊維などが含まれます。

しもつかれは酒かすを入れてしっかりと煮込むため、アルコールが苦手な方でも食べやすくなるでしょう。

昔ながらの、美味しいフードロス対策

しもつかれに使われる鮭はお正月料理の残り物、そして煎り大豆は節分の残り物です。
食材を無駄にすることなく最後まで美味しくいただくという点で、フードロス対策にもなる料理だと言えるでしょう。

食べ物を大切にして、健康を維持できる。まさに現代に生きる私たちにもぴったりな料理ですね。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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