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2022.06.02

運動?ゲーム?食事?軽度認知障害を悪化させないためには【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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認知症の少し手前の状態である、軽度認知障害(MCI)。認知症に進ませないようにするには、周囲はどのように介入していけばいいのでしょうか。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2022年5月3日ウェブ掲載された、軽度認知機能障害(MCI)の治療についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

軽度認知障害(MCI)とは?

軽度認知機能障害(MCI:Mild Congnitive Impairment)と言うのは、正常の老化と認知症との間のどちらでもない状態のことで、通常物忘れの自覚が本人にあり、家族も以前はなかったような忘れ方や言動がある、という訴えがあるのですが、ミニメンタルテストのような一般的な認知症検査では、認知症の基準を満たさないという状態のことです。

この中には、その後急激な悪化はすることなく、結果として正常な老化と判断される場合と経過とともに進行して認知症の基準を満たすようになり、結果的には認知症の初期症状であった、というように判断される場合とがあります。

この両者のいずれであるかは、経過をみないと分からないというのが軽度認知障害の厄介なところで、一部で両者を見分けるのに有効な血液検査と称するものが開発され活用されていますが、それがどの程度正確な診断に結び付くものであるかは、まだ明確ではないと思います。

軽度認知障害と判断された場合には、それが更なる認知機能の低下に進行しないように、対策を講じる必要があります。

ただ、現行認知症に使用されているような薬剤は、敢くまで認知症と診断された場合の進行抑制にのみ、その有効性が確認されているので、副作用や有害事象もあることを考えれば、まだ病気とは言えない段階で使用することは適切ではありません。

そうなるとその時点での進行抑制の介入としては、生活習慣病の管理や、運動、ゲームなど脳を活用する娯楽の習慣化、健康的な食生活、ストレスのコントロール、などの一般的なものにならざるを得ません。

認知機能に良い活動を2つ以上行うと有効?

そうした生活への介入の中で、最近注目されているのが、複数領域への介入(Mutidomain interventions)という考え方です。

これはどういうものかと言うと、たとえば読書などの脳を刺激するインドアの習慣と、運動などのアウトドアの習慣など、複数の認知機能に良い影響を与えると想定される活動を、2つ以上同時に習慣化するという方法です。

こうした介入により、単独の運動療法などと比較して、より高い効果が得られるのではないかと考えられているのです。

しかし、実際にはそれほど実証的にそうした介入の効果が検証されている、という訳ではありません。

複数領域への介入効果を検証

今回の研究はこれまでに試みられた複数領域への介入が、単独の介入と比較して有効であるかどうかを、これまでの臨床データをまとめて解析するメタ解析という手法で検証しているものです。

これまでの28の臨床研究で登録された、トータルで2711名の患者のデータをまとめて解析したところ、単独の方法による介入と比較して、運動と認知刺激など2つ以上の方法を併用すると、トータルな認知機能や記憶機能など多くの分野において、より認知機能の改善に結び付いていたと解析されました。

現状では最も有効な介入法

このように、運動と知的ゲームの習慣を同時に持つなど、脳の複数領域を刺激するような習慣を持つことは、現状最も有効な軽度認知障害への介入法であると言って良いようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36