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2019.10.09

認知症は物忘れだけ?認知症のホントのところ大解剖

kencom公式ライター:松本まや

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2015年に厚生労働省は、2025年には認知症の患者数が全国で700万人になるとの試算を発表しました。今後高齢化が進むにつれて、増え続けることが予想されている認知症。発症してしまってもすぐに悪化するわけではなく、10~20年かけて長く付き合っていかなければならない病気です。
そもそもどのような病気なのか、そして私たちはどのように備え、対応すればよいのか。順天堂大学医学部付属順天堂医院認知症疾患医療センターの本井ゆみ子先生に教えていただきました。

本井ゆみ子(もとい・ゆみこ)先生

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順天堂大学医学部付属 順天堂医院 認知症疾患医療センター センター長、特任教授(認知症診断・予防・治療学講座)
札幌医科大学医学部卒業。アルツハイマー病の神経病理学的研究で医学博士号を取得。2012年より現職。日本神経病理学会評議員、日本認知症学会評議員・専門医・指導医、日本神経学会認定医。

名前は知ってるけど「認知症」ってどんなもの?

認知症とは病気の名前ではない

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そもそも、認知症とはどのような状態のことを指すのでしょうか。
認知症という名の病気とお考えの方も多いかもしれませんが、実は「後天的原因により、脳の細胞が損傷を受けたり、働きが悪くなったりすることで認知機能が低下していき、日常生活・社会生活に影響が出た状態」のことを言います。1つの病気を指すわけではなく、様々な種類があります。
代表的なものは、「アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4つです。
それぞれの違いの理解には、脳の構造を簡単におさらいすることが役立ちます。

脳のそれぞれの場所の働きとは?

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脳の大部分を占めているのが「大脳皮質」。脳と聞いてまずほとんどの人がイメージする皺のある部分です。この大脳皮質は「前頭葉」「頭頂葉」「後頭葉」「側頭葉」の4つに分けられます。

前頭葉……思考や感情の表現、判断などをコントロールしています。そのため、前頭葉が障害を受けると人格や理性的な行動、社会性などに影響します。
頭頂葉……末梢神経から伝わる知覚や空間能力をコントロールしています。ここが障害を受けると、立体感覚が失われるなどの影響が出ます。
後頭葉……視覚を司っており、障害を受けることで視野狭窄が起きたり、幻視を起こしてしまうこともあります。
側頭葉……聴覚や嗅覚、言語などをコントロールしており、側頭葉の深部には他にも様々な機能が集まっています。その中の1つが、記憶や情報の処理などを担うと言われている「海馬」です。

これらの機能の違いを踏まえた上で、4つの認知症の違いをご説明していきます。

アルツハイマー病だけじゃない!認知症の種類を知ろう

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4つの認知症とは、
①アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)
②脳血管性認知症
③レビー小体型認知症
④前頭側頭型認知症
です。それぞれ特徴がありますので、個別に解説していきましょう。

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①アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)

「アルツハイマー病」という名前は、ほとんどの人にとって聞き覚えがあるのではないでしょうか。発症の頻度も最も高く、認知症患者の半分ほどがアルツハイマー病と言われています。
アルツハイマー病の場合は、まず海馬が侵され、記憶力の低下から症状が徐々に進行していきます。

一般的にはその後、側頭葉、頭頂葉と進行し、最後に感情を司る前頭葉が侵されます。前頭葉にまで進行すると、怒りっぽくなる、何事に対してもやる気のない「無為」状態になるなどの症状が現れます。
男性と比べると女性の発症率が高いことも特徴の1つです。

②脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などによって、脳の血流が阻害され、脳の一部が壊死することで引き起こされる認知症です。
そのため、急激に症状が出現することがあります。

③レビー小体型認知症

「レビー小体型認知症」では、「レビー小体」という特殊な構造が大脳皮質や脳幹に現れ、神経細胞を壊してしまいます。このレビー小体は、「パーキンソン病」にも現れるもので、レビー小体型認知症では手足の震えや小刻み歩行、体のバランスが取れずに転倒しやすくなるなど、パーキンソン症状が出ることが特徴です。

またレビー小体型認知症では、発症初期から実際には見えないものが生々しく見える幻視の症状が現れます。

④前頭側頭型認知症

「ピック病」などと呼ばれることもあるのが前頭側頭型認知症です。
名前の通り、初期の段階で前頭葉や側頭葉が侵されるため、初期段階では記憶力の低下よりも性格・行動面の変化が目立つのが特徴です。

男女差はあまりありませんが、アルツハイマー病などと比べて遺伝性の発症率が高いと言われています。

いわゆる「治る認知症」って何?

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症状は前述の通り萎縮した脳の部位によって変わってきますが、緩徐に進行していきます。
また、これらは残念ながら「治らない認知症」と言われています。発症してしまったら、病気の進行を緩める治療を中心に行っていくことになります。

「治らない認知症」の他に、実は原因を取り除くことで回復が望める認知症もあります。
正常圧水頭症と言って、脳や脊髄を流れている髄液が脳に溜まり、圧迫されることで認知機能障害が起きている場合や、アルコールの多量摂取によってビタミン欠乏症になっている場合、甲状腺ホルモンの異常が原因となっている場合などは、治療によって症状の劇的な改善が期待できます。

だからこそ、認知症の初期段階では「治る認知症」ではないか、確認することが非常に重要です。

認知症はどう診断され、どんな症状が出てくるのか

認知症の診断は問診が中心

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では、認知症はどのように診断されていくのでしょうか。
どの病院でも必ず検査するのが、ご家族や本人への問診、ミニメンタルステート検査(MMSE)などの認知機能を測る簡易テスト、そしてMRIやCTなどによる脳画像の検査です。

認知症の診断で最も重要なのが、家族や本人への聞き取りを通して、「何に困っているのか」「どのような点で以前と異なっているのか」を知ることです。MMSEは10分程度のテストで、記憶力などが低下していないかを確認するために実施します。

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さらにCTやMRIの脳画像を調べていきますが、初期段階で認知症の種類などを判断するのは困難で、画像上では異常が確認できないことも多くあります。CTやMRIでは病型の特定よりも、認知機能の低下が脳腫瘍や硬膜下血腫など他の原因によるものではないことを確認することが一番の目的です。

記憶障害だけじゃない、認知症の症状って?

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ここからはより詳しく認知症の症状を見ていきましょう。
認知症の症状は大きく分けて「中核症状」と「行動・心理症状(周辺症状)」に分類されます。

東京都医師会「介護職員・地域ケアガイドブック」P78の図に加筆・改編

東京都医師会「介護職員・地域ケアガイドブック」P78の図に加筆・改編

「中核症状」は認知機能の低下に伴う諸症状のことです。代表的なものは、「さっきのことが思い出せない」などの記憶障害や失語、対象を正しく認識できなくなる失認、理解力や判断力の低下などを指します。

「周辺症状」は、中核症状が元になって行動や心理に影響するものです。認知症患者を介護する人にとって、むしろ負担が大きいのはこの周辺症状と言われています。
認知症を原因とする妄想や、幻覚、幻視、それまでは理性的に行動していた人が突然暴言を吐いたり、暴力的になったりするといった症状が周辺症状にあたります。このような行動が起きてしまう原因を考え、環境を整えることで症状が抑えられることもあります。

普通の物忘れとの違いってどこにあるの?

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物を置き忘れてしまったり、家の2階に上がったものの何を取りにきたのか忘れてしまったり。誰もが経験したことがあるのではないでしょうか。
そのようなうっかりとした物忘れと、認知症による物忘れの違いはどこにあるのでしょうか。

分かりやすい判断基準の1つは、ある行為全てを忘れてしまっているかどうか、と言われています。例えば、食事の内容は忘れてしまっていても食事をしたこと自体は覚えていたり、ヒントをもらうことで食事の内容を思い出せたりする場合は、心配ありません。しかし、食事をしたこと自体がどうしても思い出せない場合は、認知症の可能性があります。

判断に迷う場合は、簡易的な自己チェック表などもあるので、試してみるのも一手です。

東京都福祉保健局「とうきょう認知症ナビ」内,自分でできる認知症の気づきチェックリストを改編

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長い付き合いになる認知症、対策の鍵は付き合い方にあり

ここまで認知症の概要を説明してきましたが、次では、認知症の治療をどう進めていくか、家族はどう受け止め、どう向き合えばよいのかについて、解説します。その他、今日から始められる認知症予防の秘訣についてもご紹介していきます。

参考文献

■もしもなったら?どうしたら防げる?認知症の予防と治療はこちらから

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

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