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2022.03.18

紅白鮮やかな保存食。お酒の肴にもぴったりな高知県「豆腐の梅酢漬け」【ニッポン地元メシ#17】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

四国地方の南に位置する高知県。日照時間は全国トップクラスな一方、雨も多いという特徴があります。

高知県で有名なものといえば、土佐藩、坂本龍馬、カツオ、鮎、新高梨、四万十川…と、歴史的な背景と同時に、温暖な気候と豊かな漁場でとれる食材を活かしたグルメを思い浮かべるのではないでしょうか。

今回は高知県の郷土料理の中から「豆腐の梅酢漬け」を紹介します。

豆腐の梅酢漬けとは

画像提供:土佐伝統食研究会

画像提供:土佐伝統食研究会

畑の肉と呼ばれ、日本の伝統食の中でも多く使われている大豆。その大豆の加工品が「豆腐」です。

豆腐は中国から伝わったものといわれており、日本で食べられるようになったのは平安末期頃とされています。
高知県では土佐の戦国大名・長宗我部元親が朝鮮出兵した際に連れ帰った朴氏によって伝えられたといわれています。
豆腐は神事や正月などのお祝いの際にふるまわれていたごちそうで、家庭で作られることも珍しくなかったそう。

高級な豆腐を長持ちさせる、見た目鮮やかな保存食

豆腐の梅酢漬けとは、その名の通り豆腐を梅酢につけたものです。
高知県では津野山地区に伝わる郷土料理で、この地区の豆腐は硬いことが特徴です。

豆腐は現在でもそうですが、賞味期限が長いものではありません。高温多湿の日本の夏場ではさらに傷みやすい食品で、まして冷蔵庫がなかった時代は高級品とされていました。
そこで保存がきくようにと作られたのが「豆腐の梅酢漬け」です。

豆腐の梅酢漬けは今でも家庭で作られていますが、家庭で消費されることが多いため流通量は少ないそう。

豆腐を漬ける「梅酢」は梅干しを作るときにできる副産物です。
梅干しを漬ける際、生の梅と塩を交互に樽や容器に敷き詰め、重石をしてしばらく置きます。
そうすると塩の浸透圧で梅のエキスがじわじわと出てきて樽に水分がたっぷりと上がってきます。この水分が「梅酢」です。

この後、赤紫蘇を加えるときれいなピンク色の「赤梅酢」、赤紫蘇を加えないと透明~薄い黄色に近い「白梅酢」になります。

穀物酢や米酢などの酢を入れていないのですが、梅の酸味がしっかりと溶け出ているのが特徴です。
また、梅干しを作るときの塩分濃度は15~20%ほどなので、当然梅酢も塩分が高い調味料であるために保存食として向きます。

梅干しは梅が摂れる6月頃から作り始め、梅雨明けの7月ごろに干して完成します。そのため梅酢ができるのは初夏となり、ちょうど気温が上がる時期となります。

材料は豆腐と梅酢だけ。コツと手間ひまが大事

画像提供:土佐伝統食研究会

画像提供:土佐伝統食研究会

豆腐の梅酢漬けに必要な材料は、木綿豆腐と梅酢の2つだけ!とてもシンプルな材料ですが、作り方には少しコツがあります。

まず、木綿豆腐は数時間水切りをします。
その後、豆腐の水分を抜くように炭火で焼きます。この時、上下を返しながら焦がさないように表面がきつね色になるまで焼くのがポイントです。

こうして焼きあがった豆腐を冷まして梅酢に漬け、1週間~10日ほど置き、完成となります。
漬ける際に良い大きさの容器がない場合は、ジップ付き保存袋を用いると梅酢を無駄に多く使わずに効率よく漬けることができます。

塩味がしっかりときいているため、一度にたくさん食べるというものではなく、薄く切って供されます。
梅酢の鮮やかなピンク色に加えて心地よいさわやかな酸味と塩味を感じられ、豆腐は水分が抜けチーズのようにしっかりとした食感になるため、見た目、味ともに美しい一品となります。

見た目や味はもちろんのこと、酒の肴としても最適ということもあり、高級料理店で供されることもあります。

タンパク質豊富で作り置きにも◎

貴重な豆腐を少しでも長く保存して美味しくいただこうという思いからできた「豆腐の梅酢漬け」。

畑の肉ともいわれる大豆を原料としているため、言わずもがなタンパク質が豊富に含まれます。
タンパク質は筋肉だけでなく、肌や爪、骨の土台としても必要な栄養素ですので、老若男女問わずに十分に摂ってほしい栄養素です。

さらに梅酢。「酸っぱい」と感じる酸味成分はクエン酸によるものです。クエン酸はエネルギー源をエネルギーとして使う際の過程において必要な成分です。
エネルギーをしっかりと生み出すことができるということは、疲れにくい身体作りにも役立ちます。
気温が高くなるとどうしても食欲が落ち、それに伴い体力も低下しがちですが、酸味があることで暑い時期でもさっぱりといただくことができます。

さらに保存食は今で言う「作り置き」にもなりますので、暑い時期に火の前に立ちたくない!という時でもこれがあると一品としても大活躍ですね。
太陽のパワーみなぎる土地でも笑顔で元気に過ごせるのは、このような保存食があるからこそかもしれませんね!

今年の夏に試してみて

現代では手軽で安価に購入できる豆腐。
梅干しを作らないという方でも市販品の梅酢がありますし、毎年梅干しを漬けるけど梅酢のアレンジがなくて困っていた、という方はぜひご自宅で試してみてはいかがでしょうか。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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