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2022.03.09

沈黙の臓器「肝臓がん」は早期発見できる?専門医に聞く最新治療法&予防のコツ【肝臓がん・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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会社の健康診断で「肝臓の数値が良くないですね」「脂肪肝ですね」などと言われても、明らかな不調がないため特に気にしていないということはありませんか?

肝臓は「沈黙の臓器」。今は元気で健康に見えても、「肝臓がん」が密かに進んでいるかもしれません。今回の記事では、最新の検査&治療方法とともに、肝臓がんになるリスクを下げる生活習慣などをお伝えします。

前回に引き続き、国立がん研究センター中央病院 先端医療科 医長の近藤 俊輔先生にお話いただきます。

どう見つける?肝臓がんの検査

肝臓がんの検査は、超音波検査や、血液検査(腫瘍マーカー検査、肝機能検査)にCT検査、MRI検査を組み合わせて行います。基本的な画像検査は超音波検査ですが、超音波検査では観察しにくい場所などの場合は、CT検査を行うこともあります。それでもがんのタイプの判別が難しい場合は、肝臓に針を刺して細胞を採取する生体検査が必要になる場合もあります。

肝臓がんの早期発見につながるのは、肝炎や肝硬変を有する発症リスクの高い方のサーべランスを行うことです。

ウイルス性の肝炎などの肝臓病が見つかった人はもちろん、職場や自治体の検診などの血液検査で数値が悪いと言われた場合にも専門機関で早めに検査を受けましょう。

肝臓がんの治療

肝臓がんの主な治療法には「切除手術」、「ラジオ波焼灼療法などの局所療法」、「肝動脈塞栓(そくせん)療法」、「薬物療法」があります。手術で完治が望める場合には、手術が第一選択です。手術が出来る場合でも、がんの直径が3cm以下と小さく、手術では負担が大きい方は、焼灼療法も選択肢に入ります。その外科治療や焼灼療法の適応がない場合は、「肝動脈塞栓(そくせん)療法」が優先され、難しい場合には「薬物療法」を行うというのが主な流れです。

肝臓がんの患者さんの多くは、がんと慢性肝疾患という2つの病気を抱えているため、がんの病期だけでなく、肝臓の障害の程度も考慮して治療方法を選択します。

切除手術

がんとその周囲の肝臓の組織を、手術によって取り除く治療です。最も確実にがんを取り除く事ができる方法です。
多くは、がんが肝臓にとどまっており、腫瘍の完全切除が可能な場合に行います。がんの大きさに特に制限はありません。しかし、肝機能が保たれている事が条件となります。また、開腹して肝臓を大きく切り取るので、他の治療法より身体の負担は大きくなります。通常一週間〜二週間ほど入院します。

ラジオ波焼しゃく療法

焼灼療法は、皮膚の上から特殊な針を、がんやその周りの組織に刺し、ラジオ波などを流してがん組織を焼き固める治療法です。局所麻酔を行い、お腹の上から超音波検査でがんの位置を観察しながら進めます。通常の適応はがんの直径が3cm以下と小さく、がんの数が2〜3個程度の場合のみ行えます。また、胆管や肝動脈などを傷つけにくい位置にがんがあることも条件になります。
開腹して行う切除術に比べ、身体への負担が少ないため、高齢者や体力が低下している患者さんにも行う事ができます。ただし、がんの場所によっては合併症を起こす場合もあるので、よく吟味して行う事が大切です。

肝動脈塞栓(そくせん)療法

肝動脈塞栓療法は、「がんへの栄養補給を止めて壊死させる治療法」です。がんの数が多くて、手術や焼灼療法が出来ない場合に行います。

肝臓がんの多くは、肝臓の動脈から栄養を得ているので、動脈の中にスポンジ状やビーズ状の塞栓物質を流して血流を遮断すると、そこから先へは栄養や酸素が行き届かなくなり、がん細胞が餓死します。一週間ほど入院して行います。塞栓療法の治療効果は、手術や焼灼療法に比べてそれほど高いわけではありませんが、他の治療法を行えない場合にも治療できるのが大きな利点です。

薬物療法

がんが転移したり、血管などに入り込んでいる場合や肝動脈塞栓療法の効果がない場合は、抗がん剤による薬物療法が検討されます。根治が難しい場合に中心となる治療法です。

肝臓がん予防法 〜今日から始めたい肝臓に良い生活習慣〜

早期発見が難しい肝臓がんだからこそ、予防法の実践と、肝臓に優しい生活習慣を心がけたいものです。

肝臓がんの予防の柱は、「肝炎ウイルスへの感染予防」と「ウイルス感染者の肝臓がん発生予防」です。また、肝臓がんは、肝炎などを原因として発症するため、肝臓に負担をかけない生活習慣が結果として予防に繋がります。病気が見つかった場合、肝臓の機能が悪いと治療自体が出来なくなることがあります。肝臓の機能を維持する生活を心がけてください。

肝炎ウイルスの感染予防&治療

B型肝炎ウイルスは、ワクチンで感染予防ができます。また、B型肝炎およびC型肝炎ウイルス感染者に対しては、ウイルスの排除や増殖を抑える薬を用いた抗ウイルス療法が、肝臓がんの予防として勧められています。また、ウイルス感染を早期に知ることも重要な予防法です。家族にB型、C型肝炎が見つかった場合は、一度は検査を受けておくことをお勧めします。

バランスの良い食事を適量食べる

食べたものは、肝臓によって分解されたり脂肪として蓄えられたりします。そのため、毎食で必要以上に食べすぎたりすると肝臓に大きな負担がかかってしまいます。消費しきれない脂肪は、肥満だけでなく脂肪肝の原因にもなるので注意が必要です。

また、「肝臓に良い!」と宣伝されているサプリメントや健康食品なども多くありますが、今のところ科学的根拠に基づいた肝臓がんを予防する食品はありません。むしろ大切なのは、バランスのとれた食事です。

飲みすぎない

アルコールは、肝臓にとっては「毒」なので、飲まないに越したことはありません。特に、肝機能が弱っている方、脂肪肝の方は出来るだけ控えましょう。
どうしても飲みたい場合は、肝臓が処理できない程の量を摂取しないこと。1日の目安は下の図の通りです。毎日飲むと肝臓の負担が大きくなりますので、週2日以上は休肝日を作るようにしましょう。

(引用)がん情報サービス 科学的根拠に基づくがん予防 4.節酒する「飲酒量の目安(1日あたり純エタノール量換算で23g程度)」よりhttps://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html

(引用)がん情報サービス 科学的根拠に基づくがん予防 4.節酒する「飲酒量の目安(1日あたり純エタノール量換算で23g程度)」よりhttps://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html

近藤先生からのメッセージ

読者の方は、会社や自治体の検診を受けていらっしゃるとは思いますが、公的に推奨されている検診は必ず受けた方が良いと思います。そこで大切なのは、検査の結果を楽観視せず、必ず専門医(主に消化器内科)に相談し原因を突き止めて、きちんと治療を受け、予防法、さらには検査などのアドバイスを実践することです。決して、自己判断しないようにしましょう。
ウイルス性肝炎は効果のある治療方法が確立していますし、増えつつある生活習慣病としての肝臓病も、毎日の食生活や運動などで改善することは可能です。肝臓に優しい生活は、全身の健康にもつながりますので、根気よく取り組んで欲しいと思います。

近藤 俊輔(こんどう・しゅんすけ)先生

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国立がん研究センター中央病院 先端医療科 医長

【専門医・認定医資格】
日本内科学会 総合内科専門医 
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医、指導医
日本がん治療認定機構 がん治療認定医
日本医師会 認定産業医

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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