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2022.01.07

鮮やかな赤色が精進料理に華を添える。福井県「すこ」【ニッポン地元メシ#12】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

提供:公益社団法人福井県観光連盟

提供:公益社団法人福井県観光連盟

石川県と滋賀県に隣接し、日本海に面した福井県。
名所といえば、サスペンスドラマでもお馴染みの東尋坊が有名です。日本海の荒波が打ち寄せる姿は恐ろしいほどの迫力です。

そんな海の幸にも山の幸にも恵まれた福井県は、おいしいお米がとれることでも知られています。
お米がとれるということは同時に「糠(ぬか)」も手に入ります。そんな糠を使った保存食「へしこ」(鯖の糠漬け)はまさに、福井県の食の豊かさから生まれた郷土料理のひとつでもありますね。

数ある福井県の郷土料理の中から、第12回は精進料理の際にも用いられることのある「すこ」について紹介します。

「すこ」とは

出典:農林水産省「すこ」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/suko_fukui.html)

出典:農林水産省「すこ」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/suko_fukui.html)

「すこ」という料理はあまり聞きなれないかもしれません。主な材料は「赤芋茎(あかずいき)」です。

赤芋茎は里芋の一種である八つ頭(やつがしら)の茎を指します。八つ頭は水を好む品種とあって、福井県の奥越地域のような水田がある場所で良く作られています。
すこのために八つ頭を栽培している農家もあるほどです。

これの赤芋茎を甘酢漬けにしたものが「すこ」という料理です。
赤芋茎はアクが強い野菜。皮をむき、4~5cmの食べやすい長さに切ったのち、塩でもみ、鍋で乾煎りをしてしんなりとしたら温かいうちに甘酢に漬けます。

鮮やかな赤色が魅力

提供:公益社団法人福井県観光連盟

提供:公益社団法人福井県観光連盟

すこの主原料でもある赤芋茎の特徴は何といっても美しい赤色。これはワインやブルーベリーでもおなじみのポリフェノールの一種・アントシアニンによるものです。
アントシアニンは酸性に傾くことで鮮やかに発色する性質があるため、甘酢などの酢につけることで色味が活きてくるのです!

すこを作る際のポイントはアルミ製の調理器具を使わないこと、そして温かいうちに漬けるという2点です。
これは酢を使う料理全般に言えることですが、アルミ製の調理器具と酢が長時間触れ合うことで酢の酸によってアルミが溶け出てしまいます。そのため、酢の物など酢を使った料理を作るときはステンレスやガラスのボウルを使うことをおすすめします。

また、温かい食材が冷めていくときにぐっと味が染み込んでいきますので、甘酢漬けや南蛮漬けなどを作るときは食材が温かいうちにつけ汁に漬けることで味染みがよくなります。

報恩講でのお供えもので感じる福井の味

出典:農林水産省「ほんこさん/報恩講料理 福井県」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/honkosan_fukui.html)

出典:農林水産省「ほんこさん/報恩講料理 福井県」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/honkosan_fukui.html)

福井県は古くから仏教信仰が厚い地域。浄土真宗の報恩講(ほうおんこう)などの仏事で供される料理や、祝いの席で数多くの郷土料理が作られ、今でもその文化が残っています。

報恩講とは親鸞聖人の祥月命日(旧暦11月28日・新暦1月16日)の前後、現在では11月から年明け頃にかけて行われる行事です。
福井県では「ほんこさん」や「おこ(う)さま」と呼ばれることもあります。

「報恩」とは親鸞聖人のご恩に報謝や感謝をするという意味、「講」とは人が集まる会のことを表しています。
ここでは報恩講料理といって旬の食材を使った精進料理が供されます。

出典:農林水産省「呉汁」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/gojiru_fukui.html)

出典:農林水産省「呉汁」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/gojiru_fukui.html)

その中の1品として「すこ」はもちろん、「油揚げ」をはじめとした大豆や大豆製品を使った料理も良く作られます。
特に福井県の油揚げは、薄く平べったい一般的な油揚げとは違い、厚揚げのように高さがあり、食べ応えがあるのが特徴です。

そのほかには大豆をすりつぶして作る呉汁、なます、ゼンマイの白和え、野菜と油揚げ(がんもどき)の煮つけ、麩の辛子和え、小豆のおつぼなど同じ福井県の中でも地域によって少しずつ異なり、それぞれの特色を持った精進料理が今もなお受け継がれています。

美容と健康に嬉しい栄養も

生の芋茎100gあたりのエネルギーは30kcalととても低カロリー。エネルギーが低いため、糖質や脂質はもちろん、タンパク質もあまり含まれていません。
しかし、むくみ予防にも役立つカリウムは390mg含まれており、これはカリウムが多いとされるバナナよりも高い数値です。

ほかにも不足しがちなカルシウムは80mg、食物繊維は1.6g含まれています。

また赤芋茎のきれいな赤色の元となるアントシアニンは、抗酸化作用を持つ色素成分によるものです。
私たちは人間関係や仕事といった精神的ストレスだけでなく、気温の変化などの外的変化によるストレスや激しい運動を行うことでも体内で活性酸素が発生します。
この活性酸素は細胞を傷つけてしまう恐れがあることから「細胞を錆びさせる」ともいわれることがあります。
上手に息抜きをして、ストレスのない生活を心がけることが一番ですが、食事から抗酸化作用を持つ成分を取り入れることで活性酸素の発生を抑えることができるのです。

出典:農林水産省「厚揚げの煮たの」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/atsuage_nitano_fukui.html)

出典:農林水産省「厚揚げの煮たの」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/atsuage_nitano_fukui.html)

精進料理は動物性の食材を使わないためヘルシーなイメージがあります。実際、芋茎のように食物繊維やカリウム、アントシアニンといった美容と健康に嬉しい栄養素や成分が多く含まれているのはとても嬉しいですね。

芋茎にはタンパク質やビタミンCなどがあまり含まれません。しかし、精進料理の中でもよく使われる大豆は「畑の肉」ともいわれるほどタンパク質を豊富に含みます。
そのほかにも旬の野菜を取り入れた料理が多く並びますので、ビタミンCやそのほかの栄養素を取り入れることができます。

伝統をつなぐ郷土料理

報恩講のようにお説教を聞き集まった方々と食事を共にすることは、身体の栄養はもちろんのこと心の栄養にもなり、心身ともに健康な状態を保つためにも重要な行事となっているのでしょう。

人が集まる機会が少しずつ戻ってきた今、郷土料理を守り、伝え、つなぐためにも昔からの行事は大切にしたいですね。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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