メニュー

2021.08.27

「おひれをどうぞ」から始まるおもてなし。長崎県の「卓袱料理」って知ってる?【ニッポン地元メシ#3】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

全国47都道府県の、美味しくて身体に良い郷土料理を紹介する本企画。

第3回は、九州本土の最西端、九州の西北部に位置する長崎県の「卓袱(しっぽく)料理」です。

日本一の島数、海外との交流拠点。独自の文化が花開く場所

写真提供:(一社)長崎県観光連盟

写真提供:(一社)長崎県観光連盟

多くの半島と島からなる、独特な地形を持つ長崎県。その島の数は五島列島、壱岐、対馬など594にもなり、日本一を誇ります。

大陸に近いことから古代より海外との交流が盛んで、特に江戸時代の初期までは南蛮船貿易や朱印船貿易の拠点として、文化や経済など、現在の日本に大きな影響をもたらす重要な役割を果たしていました。
日本のキリスト教の歴史の重要拠点や、軍艦島をはじめとする日本の近代化を支える原動力だったことから、世界遺産登録されているのも有名です。

そのような独自の歴史と地形を持つ長崎には、様々な食文化も存在しています。今回はその中のひとつ「卓袱(しっぽく)料理」について紹介します。

卓袱料理ってどんな料理?

写真提供:(一社)長崎県観光連盟

写真提供:(一社)長崎県観光連盟

卓袱料理とは、鎖国の時代にも唯一海外との交流があった長崎において、和(日本)・華(中国)・蘭(オランダなどの西洋)の料理を融合して発展した長崎独自の郷土料理です。

そして聞きなれない言葉でもある「卓袱」とは朱塗りの円形テーブルのことを指します。円卓に様々な大きな皿に盛られた料理がたくさん並び、それを取り分けて食べる中華料理のような設えです。
ここでは身分の違いに関わらず円卓を囲むことができることから、宴席で好まれるようになりました。

卓袱料理をいただく際にはじめにかけられる言葉があります。
それは「お鰭(ひれ)をどうぞ」という一言です。これには、客人一人に対して魚一尾を使っていますよ、というおもてなしの意味が込められているそうです。

お店の特色が出る、卓袱料理の献立内容

卓袱料理はすべて小菜(小さいお皿)、大鉢、中鉢などの皿に人数分が盛り付けられて、卓袱に並べられます。
料理の種類によって出る順番は決まっていますが、料理の内容はお店によって異なります。

お鰭

「お鰭をどうぞ」の「お鰭」とは最初に提供される椀物です。鯛をはじめとして海の幸や山の幸が使われます。
乾杯や主催者の挨拶よりも先にこちらをいただくことで、その場の雰囲気を和ませる役目があります。お鰭が済んだらあとの食べ方は自由です。

豚の角煮

中鉢のひとつで温かい料理として提供されます。じっくりと煮込まれた豚の角煮は柔らかく仕上がっています。
砂糖が手に入りやすい長崎らしく、砂糖を使って柔らかく煮込んだ角煮は卓袱料理においては欠かせない料理のひとつとなっています。

長崎天婦羅

アマダイなどの柔らかい白身魚の切り身に味付けをし、卵黄を使った衣で揚げる長崎独自の天麩羅です。
卵以外にも砂糖や塩などの調味料を加えて揚げているため、通常の天麩羅についてくる天つゆがここでは出てこないのも、長崎天麩羅の特徴です。

ハトシ

海老のすり身を食パンに挟んで油で揚げた、今で言う海老パンのような風味の料理です。

梅椀(お汁粉)

漆器に盛られた甘いお汁粉で〆るのが卓袱料理の定番といわれています。
紅白のお餅が入っていることもあります。

その他

そのほかにも海の幸、山の幸を組み合わせた炊き合わせのような料理や、刺身、湯引き、水菓子(季節の果物)など数多くのメニューがあります。

卓袱料理の特徴の一つとして、当時は貴重で珍しかった砂糖をたっぷりと使った、甘みのある料理が多いことがあります。
また、このように多くの料理を作るには数多くの食材が必要です。それができるのは、豊かな自然の地形から育まれる長崎ならではではないでしょうか。

海や山の旬の栄養素を余すことなくいただける

三方を海に囲まれた長崎で豊富にとれる魚介、肉類、豆類を使うことで、私たちの身体の土台に必要なタンパク質をたっぷりと摂ることができます。
そのほかにも豆類や寒天などを使った料理では食物繊維も摂ることができますし、海の幸にはミネラルも豊富です。

山の幸には食物繊維やビタミン類も含まれます。また、卓袱料理でも出てくる汁物やスープ類というのは、うま味を楽しむことはもちろん、水に溶け出やすい栄養素を余すことなく取り入れることができるのが嬉しいところです。

立場に関係なく、和やかな宴を彩る

卓袱料理では数多くの料理が並びますが、初めの「お鰭をどうぞ」以降は特に難しい作法がないことも気軽に食事を楽しめるポイントです。
また、取り皿が1人2枚と決まっているのですが、かつて家庭で客人をもてなす際に、給仕の手間がかからないようにという配慮からきた作法と言われています。

ここ数年難しくなってしまった「複数人での食事」。
食事は栄養を取ることだけでなく、複数人で食事をすることによるコミュニケーションの機会としても大切な時間です。

卓袱料理のように、円卓では役職や立場に関係なく様々な人と楽しく交流をすることができますし、なにより目にも鮮やかな美味しい料理の数々を共有しながら、和やかな雰囲気での食事が楽しめます。
このように、一人ではなく誰かと一緒に食事をすることは「共食」と言って、「心の栄養」にもつながります。

今すぐには難しいことかもしれませんが、共食を楽しめるのは卓袱料理の醍醐味なのかもしれませんね。

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

記事画像

大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

この記事に関連するキーワード