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2021.08.28

あごが原因で倦怠感や頭痛が起こる?専門医に聞く顎関節症の基礎知識【顎関節症・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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「あごが痛い」「口を開けると、ぽきっと音がする」。そんな症状に悩まされる「顎関節症(がくかんせつしょう)」。長引く自粛生活でストレスがたまり、顎関節症になる人が世界的に急増しているといいます。

顎関節症は20歳から急増し、その多くはkencom読者のようなビジネスパーソン世代。悪化すると倦怠感や頭痛など、慢性的な不調につながるため、病気の原因や対処法を知っておくことは大切です。日本大学歯学部付属病院 顎関節症科 高津 匡樹先生にお話を伺います。

高津 匡樹(たかつ・まさき)先生

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日本大学歯学部付属病院 顎関節症科

【プロフィール】
1993年、東北大学歯学部卒業後、東北大学大学病院を経て現職へ。日本大学歯学部付属歯科病院顎関節症科を担当。日本顎関節学会所属。著書に『顎関節症診療ハンドブック』(メディア)がある。

日本人の2人に1人が経験している!顎関節症(がくかんせつしょう)とは?

顎関節症は、あごの関節のずれ、あごの周りの筋肉や靱帯の損傷、骨の変形などによって起こる障害の総称で、日本人の2人に1人が一生に一度は経験すると言われるほど、身近な病気です。その症状や痛みの感じ方は実に様々で、日常生活に支障をきたすほどの不調に悩まれる方もいれば、あごが悪いことにさえ気がついていない方まで十人十色です。 

医療機関に来院される患者さんでは、およそ1対3の比率で女性に多く、年齢は20歳代で最大になり、その後は年齢が増えるとともに減少しますが、40代〜50代で再び増加する傾向にあります。

まずはセルフチェック!【顎関節症・主な3つの症状】

代表的な顎関節症の症状には、下の3つのようなものがあります。症状があったからと言って必ずしも顎関節症というわけではありませんが、いずれかが当てはまる方は、歯科を受診して診察・検査を受けることをお勧めします。

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症状1 口を開ける時に痛みがある

耳の手前あたりから、頬、こめかみにかけての痛みは、顎関節症の典型的な症状です。耳の手前というのは、まさに顎関節のある場所で、その周辺には咬筋(こうきん)と側頭筋という噛む時によく使う筋肉があります。この筋肉が疲労して凝り固まってしまうと、口を開けたときに痛みにつながるのです。

また、あご周りの筋肉がこわばることで、頭の両側にある側頭筋も緊張状態になるため、頭が締め付けられるような偏頭痛や肩こりに繋がるなど、意外な場所に痛みが出ることがあります。

症状2 口が開け辛い。口が開かない

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痛みと並んで多いのが、「口が開けられない」という症状です。関節や筋肉が痛くて開かない場合や、関節の動きが悪くなり、あごがひっかかって開かない場合などがあります。セルフチェックの方法としては、口を開けて、縦に指が3本入るかどうかを確認します。このとき、指が全部入らない、入るけど痛みがある場合は、顎関節症の可能性があります。ただし、強い痛みを感じる場合は、無理に行わないでください。

症状3 あごを動かすと音がする

口を開け閉めする際に「ポキッ」「カクン、カクン」といった音がするのも、多い症状です。主に、食事の際や、あくびをする時など、大きく口を開けようとした拍子に、顎関節のあたりから聞こえます。耳に近い場所なので、音が気になるという方も多いと思いますが、痛みがなく、口も正常に開けられるのであれば、しばらく様子を見ても構いません。

こうした症状の他にも、就寝時の歯ぎしりや、食いしばりによって、翌朝あごが痛くなったり、頭痛を感じたりすることもあります。症状が辛い場合は、早めに歯科を受診して検査をすることをお勧めします。

顎関節症の原因は?

顎関節症の原因は、1つではなく複数の原因が重なったり、相互に作用することによって発症する場合がほとんどです。

顎関節の個人差やあごを動かす筋肉の構造的弱さ、上下の歯のかみ合わせの悪さ、あごをぶつけたなどの外傷によるもの、そして、姿勢の悪さ、普段よく行っている行動も原因となります。例えば、バイオリンのような普通よりもあごに大きな負担をかけることや、長時間同じ姿勢でパソコンやスマートフォンの操作、編み物などの細かい作業なども習慣化されると原因になることがあります。

それ以外にも、不安や緊張などの心理的ストレスが関係している場合もあります。ストレスが続くと体のバランスが崩れたままとなり、慢性的な痛みが引き起こされます。ストレスがあると、食いしばりや、寝ている間の歯ぎしりにもつながり、あごの筋肉や関節に負担がかかって痛みを起こしやすくなります。また、顎関節症だと思っていたら、歯科疾患など他の病気が原因のこともあり、原因は多岐に渡ります。

そのような原因の中で、顎関節症の新たな原因として注目されているのが「歯の接触癖」(TCH)です。

歯の接触癖(TCH)とは?

TCHとは、Tooth Contacting Habit の略で、日本語では、上下の歯を接触させる癖(接触癖)のことです。

今、あなたの口の中はどうなっていますか?
上下の歯と歯は触れていますか?それとも隙間がありますか?

通常は、唇を閉じていても「上下の歯の間に隙間がある」ことが正常な状態なんですが、精神的なストレスが続いたり、パソコンやスマホの操作に集中しすぎたりすると、上下の歯が接触したままの状態が長時間続くことがあります。

歯と歯は、少しでも合わさると、そこに「噛む力」が発生します。その噛む力は、歯や歯周組織や関節、あごの筋肉が受け止めています。たとえ、その力が弱い力であったとしても、長時間続くことで、負荷が個人の許容範囲を超えてしまうことがあり、その結果、痛みなどの症状が出てきてしまうのです。痛みのある顎関節症患者の半数以上にこのTCHが見られ、痛みがなかなか治らないと言われています。

顎関節症改善セルフケアは、後半で詳しく!

顎関節症の原因は、多因子で、原因がはっきりしないとお伝えしましたが、歯の接触癖などの悪習慣や、生活習慣を見直すことで、症状が改善したり、再発防止を防げたりする場合が多いもの。顎関節症は他の不調と連動することもあるので、これを機に生活習慣や悪習慣を見直してみましょう!

具体的な方法は、後半で詳しくお伝えします。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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