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2021.08.28

痛みや噛み合わせが気になる顎関節症。専門医が教えるセルフケア【顎関節症・後編】

kenmom公式ライター:森下千佳

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前半の記事では、顎関節症の原因は多因子で、特定するのが難しいとお伝えしましたが、生活習慣や悪習慣を見直すことで、症状を改善させることができます。今日からできる「顎関節症改善セルフケア法」と歯科医院での治療を、顎関節症治療のプロフェッショナル、日本大学歯学部付属病院 顎関節症科 高津 匡樹先生に伺いました。

顎関節症の診断基準と治療

これまでの顎関節症の治療は、歯を削ったり、噛み合わせを治すなどの方法が取られてきましたが、症状が改善しない例も多かったため、最近では「保存療法」という歯は触らずに生活習慣の改善やセルフケアの指導を行うのが主流となってきています。

顎関節症で来院されると、まずは「痛みが他の病気から来るものではないか」を診断します。顎関節症の場合は、人それぞれ原因が違うので、症状やこれまでの経過、他の病気や生活習慣について詳しく問診をし、それを元に、痛みの部位、口の開き具合、関節の動き具合、筋肉の状態、また舌や粘膜、噛み合わせや歯の状態を確認し、必要であればレントゲンを撮ります。

その診断を元に、個々の症状に合ったセルフケアの指導をしていきます。例えば、筋肉に症状が強い場合は、筋肉の炎症を和らげるようなマッサージや、ストレッチの方法を。姿勢やくせなどから痛みがきている場合は、あごに負担をかけないような生活習慣の改善指導を行います。その上で、痛みが強い場合には、痛み止めなどを処方したり、夜の歯ぎしりで負担がかかっている人は、マウスピースを作ることもあります。

症状が悪化することは少ないが、早めの対策で治る可能性も

顎関節症は、放置しても悪性疾患のように徐々に症状が悪化することはあまりなく、自然に症状が軽くなることもあります。しかし、中には、他の病気が原因で起こっていたり、慢性的な痛みとなってしまい、痛みを取りづらくなってしまうこともあります。迅速に対策をとればそれだけ早く治る可能性が高いので、まずはこれからご紹介するセルフケアを実践してみてください。

それでも、症状が改善しづらい場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。

専門医が教える「顎関節症のセルフケア」

上下の歯を接触させない

顎関節症の多くの原因となっている、TCH(上下の歯の接触癖)は無意識にしていることが多いので、まずは認識することが大切です。そのためには一度、1日に何回、どんな時に噛み締めをしていたのかを記録する、「噛み締め日記」をつけてみるのが効果的です。きっと、思っているよりも長時間、噛み締めていることに驚かれると思います。

その上で、あごの力を抜いて、歯と歯が接触しない時間を多く作りましょう。何かに集中すると噛み締めてしまいがちです。家や仕事場の目につくところに、力を抜けるよう注意喚起をする付箋などを貼って、歯を離す習慣をつけるとように訓練していくと良いと思います。

しかし、あごの力を抜くと言われても、ご自身では出来ているのかどうかの判断が難しいと感じられる場合もあると思います。そのような場合は、一度、歯科医院で正しい姿勢や、力を抜くコツなどの指導を受けると実践しやすくなると思います。

一方、「寝ている間の、歯ぎしりや食いしばり」は、意識することが難しいため、根本的な解決方法がありません。スプリント(ナイトガード)と呼ばれるマウスピース様の装置を専門医で作り、あごへの負担を減らしていきましょう。

頬の筋肉のマッサージ

顎関節症に関係する咬筋(こうきん)や側頭筋などの筋肉が凝っている場合は、マッサージでほぐしてあげましょう。血流を促し、緊張をほぐすことで、痛みを和らげることができます。

「頬骨とエラの間」(咬筋)に手を当てて、ぎゅっと噛み締めると膨らむところがあります。そこに、指の腹を当て、クルクルとほぐすようにマッサージをします。マッサージの強さは、押して心地よい、または少し痛みを感じるぐらいの力で行います。同様に「こめかみ〜耳の上あたり」(側頭筋)もほぐしましょう。あまり強い力でやりすぎると、逆にもみ返しで痛くなることがあるので、力加減に気をつけながら行いましょう。

あごの筋肉のストレッチ

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口を大きく開けることによって、噛む筋肉をストレッチすることも効果的です。まず、人差し指を下の前歯に、親指を上あごの前歯に当て、少しずつ力を加えながら、口をこじ開けるようなイメージで、口を上下に大きく開いて10秒間程キープします。これを、1日3セット行いましょう。(痛みを感じない範囲ででおこなってください)

自分で開けられる範囲に少し負荷をかけてやることで、頬の筋肉がストレッチされます。マッサージやストレッチは、他の部位のストレッチと同じように、お風呂に入っている間や、風呂上がりなど、体の血行が良い時にやると効果的です。

硬いものを食べ過ぎない

本当に症状が悪化して痛い場合には、固いものは避けたほうが良いと思います。フランスパンや、ビーフジャーキー、スルメなどの硬いもののほか、氷をガリガリと噛んだり、ガムを長時間にわたって噛み続けるけるなどの行為はやめましょう。

左右交互に噛む

手に利き手があるように、大半の人には”利きあご”があります。どちらか片方だけで噛んでいると、片方だけの筋肉ばかり使うことになるので、筋肉疲労を起こしやすくなります。それによって、咀嚼筋の動かし方や発達にも偏りが生じ、噛み合わせが悪くなったり、歪みが増していきます。右で10回噛んだら、左で10回噛むと言うように、意識して左右交互に噛むように心がけることが大切です。

猫背、ほおづえはNG!姿勢を見直そう

猫背のように背中が丸まって、前かがみになることで、無意識のうちに食いしばりの時間が増えて、あごに負荷がかかります。また、ほおづえをつく癖も顎関節症を引き起こしやすい悪い習慣の1つです。どちらか片方にほおづえをつくと、片方の下あごに偏った力がかかります。すると、あごがずれて顔や口の歪みに繋がったり、首や肩の筋肉に負担がかかります。正しい姿勢を心がけましょう。

ヨガ、呼吸法などを取り入れ、全身の緊張を解こう

ストレスや緊張状態が長く続くと、交感神経が優位になって、食いしばりの癖が無意識のうちに習慣化してしまいます。全身の緊張を解き、副交感神経を働かせるためには、全身のストレッチや、ゆったりとした呼吸、ヨガなど、ご自身にあったリラックス方法を取り入れることも良いと思います。

顎と心と体の健康のためにも、日々にリラックスを!

ここまでご紹介したセルフケアで、多くの方は痛みが和らぐのを実感できると思います。しかし、数日経っても痛みが改善しない場合は、不安がらずに歯科医院で検査と治療を受けることをお勧めします。顎関節症は、慢性化すると痛みが消えにくくなりますので、早期の対応が重要です。

ストレスの多い社会の中に生きていると、私たちは頑張りすぎて、知らず知らずのうちにストレスを溜めてしまうものですよね。そのストレスが食いしばりにつながり、顎関節症となって現れます。顎関節症は、いわば、身体からのSOSサインです。

もし今、あごの痛みを感じているのなら、少し立ち止まって心身ともにリラックスして、元気を取り戻す時間を作ってほしい。それが、顎関節症の一番の治療方法でもあり、身体全体の健康につながる秘訣だと思っています。

高津 匡樹(たかつ・まさき)先生

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日本大学歯学部付属病院 顎関節症科

【プロフィール】
1993年、東北大学歯学部卒業後、東北大学大学病院を経て現職へ。日本大学歯学部付属歯科病院顎関節症科を担当。日本顎関節学会所属。著書に『顎関節症診療ハンドブック』(メディア)がある。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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