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2021.03.24

重症化を防ぐカギは3日!帯状疱疹の治療と予防法を知る【帯状疱疹・後半】

kencom公式ライター:森下千佳

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よく聞くために軽く見られがちな帯状疱疹ですが、実は早期発見・早期治療が非常に大切な疾患です。軽く見て治療を先延ばしにすると重症化や合併症、後遺症に悩まされることも。
この記事では帯状疱疹と診断された場合にどう治療が進むのか、どう予防するのが良いのかを国立国際医療研究センター病院 皮膚科診療科長・皮膚科医長、玉木毅先生に伺いました。

※皮膚の出来物など、ご覧になる方によっては不快になる画像が一部含まれております。ご注意ください。

帯状疱疹と診断されたら……治療の最前線

帯状疱疹の検査と診断

まず帯状疱疹の診断について。
身体の左右どちらか片方にピリピリ刺すような痛み(前駆痛)が続いて、次に特徴的な発疹が認められ、これまでに水ぼうそうにかかったことがあることが確認できれば、帯状疱疹と診断がつきます。

しかし、痛みだけの段階で、水ぶくれができる前のまだ「見た目で判断できない段階」の場合には、皮膚科専門医でも帯状疱疹かどうかを診断することは困難です。
逆に数個でも水ぶくれや水ぶくれになる前の水っぽい発疹があれば、ウイルスを直接検出できるキットが現在では開発されています。

重症化を防ぐポイントは発疹発症後3日以内

帯状疱疹を早く治すためには、「発疹が生じて3日以内」に治療を開始することが大事になります。
治療が早ければ早いほど、水ぼうそうウイルスの増殖も抑えられますし、神経の損傷も少なくなります。仮に治療が遅れても3週間ほどで治ることがほとんどです。

しかし、治療が大きく遅れたり、治療しなかったりした場合は、高熱や頭痛をはじめ、全身的な症状が現れることがあります。
また、治療が遅れると合併症を発症したり、発疹が消えたあとに後遺症として「帯状疱疹後神経痛」が残ったりする場合もあるので注意が必要です。

治療の基本は抗ウイルス薬と鎮痛薬

帯状疱疹と診断が確定すると、原因であるウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」と、痛みを抑える「鎮痛薬」が処方されます。

「抗ウイルス薬」は効果が出るのに時間がかかることがありますが、効かないからといって勝手に服用をやめると悪化の原因になることもあります。
基本的には7日分処方されるので、医師の指示に従いしっかりと飲みきることが大切です。それによって、後遺症への移行も予防することができます。

合わせて処方される「鎮痛薬」は、痛みを抑えるだけでなく症状を抑えることで抗ウイルス薬などの薬が作用しやすくなり、治療が早く進むなどの役割を果たします。
鎮痛剤としてよく使われるのは、胃腸や肝臓などへの負担が少ない鎮痛薬「アセトアミノフェン」です。
痛みが強い場合は、「ロキソニン」や「ブルフェン」などの少し強い鎮痛剤が使用されますが、腎臓の機能の弱い人や高齢の方では副作用に注意が必要です。
トラマドールという非麻薬系のオピオイド鎮痛薬とアセトアミノフェンを合わせた薬もあります。

重症の場合は入院も

帯状疱疹の症状の変化は個人差があり、治療を受けてすぐに症状が治る人もいれば、痛みが強くなる人、皮膚の症状が悪化してしまう人もいます。
最初の処方で痛みが治らない場合にはステロイド薬を使ったり、痛みが激しくて眠れないような方には麻酔科の先生と連携をして、神経の働きを一時的に止める「神経ブロック麻酔薬」を使用したりすることもあります。
それぞれの痛みの程度や、経過によって治療の内容が変わってきます。

帯状疱疹の治療は症状が軽ければ通院でも可能ですが、症状や身体の状態によっては入院して治療します。
過労で体力が衰えている方や、高齢者、持病のある方は、免疫力が弱まっているので重症化してしまう場合がありますし、帯状疱疹が首から上に出た場合は髄膜炎などを起こしやすいので、入院をおすすめしています。
その際は、点滴などでしっかりと治療を進めていきます。

帯状疱疹が出るのは、それだけ「身体が弱っているというサイン」です。
入院をしなかったとしても、完治するまでは家事や仕事などをお休みして、安静を保つことが重要です。

水ぼうそうがうつる可能性も考慮して看病を

帯状疱疹の原因は、体内に潜んでいた水ぼうそうウイルスが再び暴れ出すことです。帯状疱疹そのものが他人にうつることはありませんが、水ぼうそうにかかったことのない方に、水ぼうそうの形でうつす可能性はあります。
特に、家族に水ぼうそうにかかっていない乳幼児や、病気などで免疫力が極度に低下している人がいる場合には、ウイルスが空気感染する可能性があるので注意が必要です。

水ぼうそうは、学校保健安全法によって、「すべての発疹がカサブタになるまで出席停止」と決まっていますが、帯状疱疹には決まりがありません。
しかし、水ぼうそうをうつす可能性や、ご自身の身体のことを考えると仕事や学校は休むことが理想です。どうしても休めない場合は、少なくとも発疹や水ぶくれが出ている箇所を洋服や包帯などで覆って、接触しないようにしましょう。また、タオルなど、患部が触れるものの共有も避けましょう。

予防にはワクチンが有効

予防に用いられる「帯状疱疹ワクチン」とは

2016年より50歳以上の方を対象に「帯状疱疹のワクチン」が認可されました。水ぼうそうにかかったことがある人は、すでに水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスに対する免疫を持っています。
しかし、年齢とともに弱まってしまうため、改めてワクチン接種を行い、免疫を強化することで帯状疱疹を予防しようというものです。

ワクチンは帯状疱疹を完全に防ぐものではありませんが、たとえ発症しても症状が軽くすむという報告があります。
ただし、このワクチンは健康保険が適用されないため、自己負担になります。

50歳以上は予防接種の検討を!

2014年から、子供の「水痘ワクチン」が定期接種になりました。それにより、今後は水ぼうそうにかかる子供が徐々に減少するため、水ぼうそうの人と接触する機会がどんどん減っていきます。
すると、ウイルスに対する免疫力がつかないため、今後は帯状疱疹は増えていくと言われています。

そのため、免疫力が低下する50歳以上の方や、がんや、膠原(こうげん)病などの疾患がある方は、ワクチン接種を検討してみてもよいでしょう。
一回で効果は10~15年持続するので、高頻度に打つ必要はありません。

ワクチンは2種類 主治医と相談して選択

ワクチンには2種類あり、それぞれ特徴が異なります。
一つは、これまで水ぼうそうの予防のために幼児に打たれていた「水痘ワクチン(生ワクチン)」で、50歳以上であれば帯状疱疹予防に打つことができます。
注射は1回で、費用は7000~9000円ほど。

ただし、免疫機能の低下した人や、妊婦は接種できません。
これまで、水ぼうそうワクチンとして使われていた歴史があるので安心感があり、副作用もほぼありません。注射方法が皮下注射で痛みが少ないことも、日本人には好まれるようです。

もう一つは、2020年1月に登場した「不活化ワクチン」(シングリックス)です。
これは、免疫機能が低下した人にも使用できます。2ヵ月の間隔を空けて2回の接種が必要で、かつ筋肉注射です。費用も1回あたり約2万円と高額ですが、臨床試験では生ワクチン以上の効果が確認されています。
どちらの場合も、かかりつけの医師によく相談の上、接種を検討してください。

疲れのサインを見逃さない!痛みを我慢しない!

繰り返しますが、帯状疱疹は免疫力が下がることにより起こります。予防接種のほかにも、免疫力の低下を防ぐために、食事や睡眠をしっかりとり、ストレスをためず、適度な運動をするなどの日頃の体調管理が大切です。疲れのサインを見逃さないようにしましょう。
また、皮膚に痛みなどの違和感があったら、早めに受診して治療を開始することが、長引かせないポイントです。
帯状疱疹の痛みは放置しない! 我慢しない! それに尽きると思います。

玉木 毅(たまき・たけし)先生

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国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 皮膚科診療科長・皮膚科医長
1987年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部皮膚科教室入局。米国サウスカロライナ州立医科大学研究員、東京大学医学部附属病院皮膚科医局長、同分院皮膚科講師などを経て現職。医学博士、日本皮膚科学会東京支部運営委員、東京都皮膚科医会副会長、東京大学非常勤講師。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。