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2020.10.10

終わった今だからこそ余韻に浸る…「半沢直樹」が愛されるワケ│深爪 Vol.1

コラムニスト:深爪

Twitterフォロワー数18万人を超える人気主婦コラムニスト、深爪さんをご存じでしょうか?

斜め上から真横からと、独自の目線で切り込む発言が多くの人を虜にしている人物です。著書『深爪式 声に出して読めない53の話』『深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話』『立て板に泥水』他、オンラインサロンなど多方面で活躍する深爪さんに、先月最終回を迎えた”あのドラマ”について語ってもらいました。

深爪式「半沢直樹」が愛されるワケ

「サザエさん症候群」という言葉があるように、日曜の夕方から夜にかけては一週間でもっとも死にたくなる時間帯なのだが、それを私の中で「めちゃくちゃ待ち遠しい日」に変えたのが「半沢直樹」である。

「半沢直樹」は、銀行を舞台にした池井戸潤の小説「半沢直樹シリーズ」をドラマ化したものだ。

堺雅人演じる大手銀行員・半沢直樹が社内の不正を暴いたり、理不尽な要求を突きつける上司に「やられたらやり返す!」と、ひたすら倍返ししたりするドラマである。2013年に放送され、最終回の視聴率は42.2%をたたき出した。2020年版はその続編だ。

今回は社内の不正のみならず、国家権力を相手に戦う壮大なストーリーになっている。そして、「倍返し」から「1000倍返し」に。

ものすごいインフレを起こしているが、新型コロナ流行による初回放送日の変更や休止といったアクシデントにもかかわらず、こちらも最終回のリアルタイム視聴率は32.7%(世帯)、総合視聴率(※)に至っては44.1%をたたき出し、有終の美を飾った。

※総合視聴率は、リアルタイム視聴率とタイムシフト視聴率の合計。

正直、「半沢直樹」の続編が決まったと聞いたときには、あの暑苦しい顔芸の数々、そして、最終回における香川照之の生まれたての仔牛のごとき土下座を超えるインパクトは出せないのではないかと思っていた。が、初回でその不安は一蹴された。

「いや、ちょっとやりすぎじゃね?」と思えるほどにパワーアップ。役者が一丸となって「半沢直樹」のパロディを演じているかのようだった。よくモノマネ芸人がモノマネを繰り返すうちにだんだん加減がわからなくなり、誇張しすぎて本人の原型をとどめなくなる現象があるが、まさにあんな感じである。

「半沢直樹」の映像の大半は、顔面の筋肉を駆使しながら怒鳴り散らす脂ぎったおっさんの大写しだ。高視聴率を稼ぐキーワードといわれる「子供」「動物」「イケメン」からはかけ離れている。にもかかわらず、なぜ、みんなこぞって「半沢直樹」を観るのだろうか。

「銀行版・水戸黄門」だけではない、全部乗せ要素とは?

よく「半沢直樹」は「銀行版・水戸黄門」と評される。勧善懲悪、かつ、ラスト15分あたりでまるで印籠を出すかのように半沢が悪事を暴いてスカッと終了、といったパターンが多いからだ。あとは、及川光博の入浴シーンでもあれば完璧である。

よくよく観察すると「半沢直樹」には他の要素もちりばめられている。

かつて敵同士だった者が手を組んで巨悪に立ち向かうのは「ドラゴンボール」だし、失意の中、半沢に「黒崎検査官!!」と呼ばれて黒崎演じる片岡愛之助が微笑みながら振り返るシーンは「東京ラブストーリー」を彷彿とさせる。「半沢直樹」は「水戸黄門」「少年ジャンプ」「月9」といった、老若男女に刺さる要素を網羅した”全部乗せ”のごときドラマなのである。

そりゃあ、高視聴率も取るわと納得だ。

「水戸黄門」的予定調和は「ベタでワンパターン」と揶揄されることもあるが、コロナ禍においてはこの「ベタでワンパターン」がむしろ功を奏しているのかもしれない。

現在、世の中には、出口の見えない暗いトンネルの中を手探りで進んでいるような不安が渦巻いている。しかし「半沢直樹」の世界では、どんなにドン底な展開が繰り広げられても「でもどうせ最後はハッピーエンドでスカッと終わっちゃうんでしょ?」と思える安心感がある。

また、時には「どんな会社にいてもどんな仕事をしていても自分の仕事にプライドをもって日々奮闘し、達成感を得ている人のことこそ本当の勝ち組というんじゃないか」といった金言も飛び出す。「半沢、よく言ってくれた!」と疲れたサラリーマンは号泣必至だ。

そして、最終回における半沢の妻・花(上戸彩)の「仕事なんてなくなっても、生きていればなんとかなる。生きていればね」に心から救われた人も多いことだろう。

悪人を必ず退治し、我々を勇気づけてくれる「半沢直樹」は鬱々とした日曜の夜に観るには最高のドラマなのである。

放送後、SNSで盛り上がる一体感!

このように、高視聴率の理由はいろいろ考えられるが、「半沢直樹」がここまで愛されるのはSNSも大きな一因になっているのではないかと私は睨んでいる。

「半沢直樹」にはとにかくツッコミどころが多い。歌舞伎の手法を取り入れているともいわれる演出。テレビなのに役者の演技が舞台のソレ。そして、大和田演じる香川照之の「おしまいDEATH!」「死んでもやだねーー!!」「沈…ヴォツ!」といった強烈なインパクトを放つセリフの数々(含むアドリブ)。

もはや自分の中で面白がるだけではいられない。誰かとその面白さを共有したくなるのだ。そこでツイッターをはじめとするSNSである。放送直後には私のタイムラインは「半沢直樹」の話で埋め尽くされる。独自の分析をする人や小ネタを指摘する人、イラストをアップする人など大賑わいだ。

この感じ、どこかでおぼえがある。人気テレビ番組の放送日の翌日に学校で同級生と盛り上がったあの空気だ。

テレビくらいしか娯楽がなかった時代と違い、今は皆が共通で楽しめるモノが少なくなっている。そんな中、学生時代のあの一体感を味わえるのが「半沢直樹」の醍醐味ではないかと私は思うのだ。皆が同じ話題でワイワイ盛り上がれる喜び。

そういえば、最近のドラマは見逃し配信をするが「半沢直樹」の場合、放送直後はダイジェスト版しか配信されていなかった。制作側もリアルタイムでの一体感を楽しんでもらおうと目論んでいたのかもしれない。

「半沢直樹」が終わり、今後どうやって日曜の夜を乗り切ればいいのかわからなくなってしまった。

現代社会に疲れた国民のためにも、TBSの偉い人にはぜひ「半沢直樹」を今回で終わりにせず、長期シリーズ化を検討してほしい。「水戸黄門」のように初代半沢直樹(堺雅人)から二代目半沢直樹に引き継ぎ、そして時にはニセ半沢直樹が登場する。そんな決して終わることのない、未来永劫続いていくドラマを目指してほしいと心から願う私である。

著者プロフィール

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■深爪

コラムニスト/主婦。2012年11月にツイッターにアカウントを開設。独特な視点から繰り出すツイートが共感を呼び、またたく間にフォロワーが増え、その数18万人超(2020年10月現在)。主婦業の傍ら、執筆活動をしている。主な著書に「立て板に泥水」「深爪式 声に出して読めない53の話」「深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話」(すべてKADOKAWA)。また、オンラインサロン「深爪の役に立ちそうで立たない少し役に立つオンラインサロン」でも活動中。芸能、ドラマ、人生、恋愛、エロと、執筆ジャンルは多様。

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