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2020.04.06

大切な人の「うつ病サイン」を見逃さずに。大人のためのうつ病対策

kencom公式ライター:森下千佳

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社会の複雑化や、超高齢化など様々な原因により、うつ病の患者数は増え続けています。誰でもなりうる身近な病気だけれど、正確に診断し、正しく治療することが難しい病気でもあります。大切な家族や同僚の変化に、いち早く気がついてあげることが重症化させない鍵。

今回は、うつ病を見極めるサインや予防方法などを、順天堂大学大学院 医学研究科 精神・行動科学 大沼徹先任准教授に伺います。

▼前回の記事はこちら

うつ病のサインに周囲が気がつくことが大切

自覚せずに自分を追い込んでしまうことがある

うつ病は本人では気がつきにくい病気です。特に、働き盛りの世代では、過労やプレッシャーからうつ病を発症し、集中力を欠いたり、仕事でミスを重ねているにもかかわらず、「もっと頑張らなくては!」とさらに自分を追い込んで病気を悪化させてしまうケースがあります。重症になってしまう前に、医療機関で治療を行うためには、家族や周囲の人が気づいてあげることがとても大切です。

以前との変化に周囲が気づけるかが早期発見のポイント

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家族や、同僚のうつに早く気づくためには、Absent-ism (常習欠勤・遅刻)・Accident-ism (ミスが目立つようになる)・Alcohol-ism (酒量が増える)のAから始まる「3つのAサイン」を見過ごさないことが早期発見に繋がります。

加えて、家庭では「食欲がない」「口数が少なくなる」「以前からの趣味に興味を示さなくなる」なども見つけやすいサインです。以前と比べて、これらの変化が頻繁に見られるようになっていたら早めに声をかけてあげることも重要です。

本人に直接伝えづらい場合には、親しい友人、その人が信頼している人から伝えてもらってもよいでしょう。職場であれば産業医に相談するのも良いと思います。うつ病は、気力で解決できるものではありません。治療が必要な病気としっかり心得て、なるべく早い段階で受診できるよう背中を押してあげましょう。

「うつ病かも……?」と思ったらセルフチェック

うつ病は自分では気がつきにくい病気ですが、自分は大丈夫だろうかと思った場合には、以下の2つの設問を試してみてください。

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2つの設問でどちらか一方でも当てはまった場合は、うつ病の疑いがあるため医療機関への相談も検討してみましょう。見極めのポイントは、1ヵ月間「常に」という期間と頻度です。例えば、「平日仕事の時は気分が落ち込むけど、週末は家族や友達と楽しく遊んでいた」というケースは、うつ病ではありません。

より詳細にチェックをされたい場合はwebテストもありますので、参考にしてみてください。
また、これらはあくまでも簡易的なものです。気になる点があれば、かかりつけ医をはじめ医療機関を受診しましょう。

うつ病は適切な治療が必要な病気

治療の基本は、休養・精神療法・薬物療法

うつ病の治療には、休養、精神療法、薬物療法などがあり、特に心と身体を十分に休養させることが重要だといわれています。なぜなら、以前の記事でもお伝えしたようにうつ病の患者さんは、真面目で責任感が強いために自分を追い込んでしまっている方が多いため、一度休息を取ることで、新たに自分のペースをつかむきっかけができるからです。

とはいえ、仕事や家事、育児に追われていると、休むことに罪悪感を感じる患者さんも多いようです。休養は治療の一環と理解し、心身を休めて、治療に専念していきましょう。

精神療法は何をする?

精神療法では、医師やカウンセラーなどが、患者さんと対話を重ねながら、問題を解決する方法を患者さんと一緒に探すお手伝いをします。外来診療で通常1~2週間に1回のペースで行っていきます。

精神療法には様々な方法がありますが、例えば、認知(ものの受け取り方や考え方)に働きかけて気持ちを楽にする「認知行動療法」などを行います。ストレスの原因を一緒に探し、「そのストレスで自分がどんな感情を持つか」「その感情を覆すことができるか?」などの質問を考えることによって、患者さん自身に問題を客観視してもらい、ストレスの軽減を目指します。

薬物療法とは?

薬物療法では「抗うつ薬」を柱に、症状に応じて「気分安定薬」「抗精神病薬」「睡眠薬」が使われます。いまだに患者さんの中には、こういった薬は「危ない」「依存する」「ボケる」などの偏見を持っている方もいますが、今の薬は安全性が格段に向上しています。

しかし、即効性がないため効果を判断するには2〜4週間は要します。医師に相談しながら、しっかりと使っていきましょう。

治療を始めたら自己判断で終わらせない

症状が安定したように見えても、自己判断で薬をやめたり、通院をやめてしまうのは大変危険です。完治していないのに、中途半端に会社などに復帰をしてしまうと、最悪な結果を招きかねません。

そのため、復帰の前には必ず「リワーク」という復帰に向けたウォーミングアップ期間を最低1カ月間設けます。いきなり職場に戻って働き始めるのではなく、例えば1〜2週間、決められた時間に通勤電車に乗り、会社の近くの図書館などの公的機関に通ってもらうというようなトレーニングをしていきます。こうしたウォーミングアップを行いながら、最終的には医師が職場復帰の可否の判断をします。

そのため仮に治療となったら、最後まで医師と完走するようにしてください。

うつ病を予防しよう!

認知行動療法を身につける

うつ病を予防するためには、ストレスをうまく解消したり、うまく付き合う方法を身につけることが大切です。おすすめは、精神療法でも行う「認知行動療法」です。ストレスを感じると物事を悲観的に考えがちになってしまい、目の前の課題を解決できないほどに心を追い込んでしまう人がいます。認知行動療法では、そうした思考の癖を見直し、ストレスに上手に対応できるよう心の状態を保つことを目指します。

最近では、書店にたくさん認知行動療法に関する書籍が出ていますから、自分に合ったものを手に取ってみてください。

質の良い睡眠をたっぷりとる

良質な睡眠は、うつ病予防にはなくてはならないものです。最低でも6時間はしっかりと眠るようにしましょう。睡眠が足りていないと、精神疾患の発症のリスクが上がります。
質の良い睡眠のためには、起きる時間を固定する、昼間はできるだけ身体を動かすように心がけるなど睡眠のリズムができると理想的です。

適度な運動でストレスを発散

運動すると、高揚感や幸福感を高める脳内ホルモン「セロトニン」や「エンドルフィン」が分泌され、いやな感情や不安が和らぐことがわかってきています。本格的な運動でなくても、散歩や、就寝前のヨガやストレッチなど、リラックスできるものを無理なく取り入れると良いと思います。

ストレス社会を生きる現代人に、医師からのメッセージ!

うつ病は「気の持ちよう」「根性で治る」などと、間違った認識を持っている方がいますが、うつ病は脳の働きになんらかの問題が起きていると考えられる病気のひとつです。

ご自身や周りの方に異変を感じたことがあれば、ぜひ、医療機関に相談していただきたいと思います。

監修者プロフィール

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■大沼徹(おおぬま・とおる)先生
順天堂大学大学院 医学研究科 精神・行動科学 先任准教授
平成2年順天堂大学医学部卒業。同年、順天堂大学医学部附属・精神神経科に入局。臨床業務に勤しみながら、統合失調症を中心に神経生物学的研究を継続して行っている。平成8年に英国ケンブリッジ・ベイブラハム研究所・神経生物学部門に留学し、帰国後も一般臨床、医学生の教育、研究を行っている。専門領域は精神医学全般、産業精神医学、臨床精神薬理学、遺伝学、神経生物学と幅広い。平成23年より現職。

筆者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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