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2017.11.15

最近はやりの発酵食。その実力は?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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日本人の食卓にのぼることが多い、味噌や納豆。今、大豆製発酵食品の健康効果が見直されつつあるようです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のthe Journal of Nutrition誌に掲載された、大豆の発酵食品に高血圧の予防効果があるのでは、という有名な日本の疫学データのサブ解析結果の論文です。

▼石原先生のブログはこちら

大豆のイソフラボンには動脈硬化の予防効果がある?

大豆蛋白と高血圧の関連は明確に認められていない

大豆に含まれているイソフラボンというポリフェノールには、血管の平滑筋の増殖を抑えるなど、動脈硬化を予防するような作用のあることが報告されていて、心血管疾患の予防や、高血圧の予防に有効であるという可能性が示唆されています。

ただ、動物実験では高血圧予防効果が報告されている一方で、大豆蛋白の摂取と高血圧との関連を検証したデータを、まとめて解析したメタ解析の論文では、あるものでは血圧降下作用が認められたとされている一方で、別のものでは有意な降下作用が認められていないなど、その結果は一定していません。

効果があるのは「大豆食品」より「大豆発酵食品」

大豆発酵食品のイソフラボンは吸収されやすいアグリコン型

ここで1つ原因として考えられるのは、大豆食品と大豆発酵食品(味噌や納豆など)との違いです。

大豆に含まれるイソフラボンは、腸内細菌の働きによって代謝されてから吸収されるので、その吸収には個人差があってかなり不安定なのですが、発酵食品に含まれているイソフラボンは、アグリコン型と呼ばれる小分子となっていて、腸内細菌によらずにそのまま吸収されるからです。

日本人の大豆摂取量と5年後の血圧上昇の関連を調査

発酵食品かどうかで分けて、大豆の摂取量を調べる

今回の研究は、日本の有数の大規模疫学データである、多目的コホート研究のデータを活用して、この問題を日本人で検証しています。

多目的コホート研究に参加した一般住民のうち、収縮期血圧が130mmHg未満で拡張期血圧が85mmHg未満という、血圧上昇のない人だけを対象として、食事調査から大豆製品の摂取量を、発酵食品とそうでないものとに分けて算出し、その摂取量と5年後の血圧上昇との関連を検証しています。

対象人数は登録時点で40から69歳の4165名です。

毎日納豆1パック程度の発酵食品で、血圧上昇リスクが低下

その結果…
トータルの大豆蛋白の摂取量と5年後の血圧上昇との間には、有意な関係は認められませんでしたが、味噌や納豆のような発酵大豆食品の摂取量についてみると、摂取量が少ない場合と比較して、摂取量が多いと血圧が130/85を超えるリスクが、23%(95%CI; 0.66から0.91)有意に低下していました。
この量は納豆を毎日1パック摂っていれば、達する程度の分量です。

塩分が高い発酵食品は、摂り方も考える必要が

今回のデータは元々このために調査されたものではありませんし、食事調査から推測された大豆蛋白の摂取量も、それほど正確なものとは言えませんから、1つの参考として考えるレベルのものだと思いますが、味噌や納豆をどのようにして摂取することが良いのか、その塩分量との関連も含めて、再検証が必要であるようには思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36