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2017.10.11

寝る前のタンパク質摂取は筋肉をつけるのに有効?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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「プロテインはアスリートの筋肉増強用」というイメージがありますが、プロテインは高齢者や病人にも効果はあるのでしょうか。また、いつどのように飲むのが効果的なのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のthe Journal of Nutrition誌に掲載された、寝る前にタンパク質を補充すると、睡眠中にタンパク合成が進行して、高齢者の筋肉量の低下を予防出来るのでは、という研究です。

▼石原先生のブログはこちら

プロテインは筋肉増強に効果あり

実は高齢者の方が若者よりプロテインを摂る必要あり

純度の高いタンパク質(プロテイン)を、運動しながら摂ることで、筋肉量が増加することは、ボディビルの選手などがされていることで、それが健康的かどうかはともかくとして、一定の有効性のあることは間違いがありません。

健康上筋肉量が問題となるのは、高齢者や寝たきり、癌など消耗性疾患の患者さんの場合で、同じ量のタンパク質を摂取していても、そうした方では充分な効果が得られない、ということが知られています。

若年者で20グラムのプロテインを摂ることにより、筋タンパク合成は75%程度増加すると報告されていますが、これが高齢者になると、同じ筋タンパク産生率を達成するには、倍の40グラムのプロテインの摂取が必要であった、という報告もあります。

プロテインはいつ摂取すると効率的か

ボディビルダーは運動の前後に飲んでいる

ボディビルで筋肉をつける時には、プロテインを運動の前後と寝る前に、摂取することが多いようです。

運動の前後においては、効率の良い運動の実現と、その後の筋タンパク産生の増加を見越して、プロテインを補充することで筋タンパクの産生率を増加させる、という理屈があります。

成長が促進される、寝る前も効率的

それでは、何故寝る前にプロテインを摂るのかと言うと、寝ている間には成長が促進されるので、その時に充分な量のプロテインを補充することで、その効率をより上げようという狙いがあります。
また、寝ている間には筋肉組織は少し減少するのですが、プロテインの摂取によりそれを最小限に抑えよう、という考えもあるようです。

寝る前にプロテインを飲むメリット・デメリット

デメリットは、胃腸に負担がかかり、太ること

消化や吸収の観点から考えると、寝ている間に食事が胃腸に入るのは、胃腸に負担が掛かってあまり良いことではない、というように思います。
実際食べてすぐ寝れば翌朝は体調が悪く、げっぷが出て胃もたれがして、便通も悪い状態となることが殆どです。

また、寝る前に食べると太る、というのもしばしば言われる事実で、寝ている間はカロリー消費は最小限に抑えられていますから、そこでカロリーが過剰に入れば、脂肪の蓄積が増すこともまた理の当然です。

メリットは、栄養が効率的に身体に取り込まれやすいこと

ただ、見方を変えると、寝ている間は太りやすいというのは、それだけ効率的にカロリーや栄養素が身体に取り込まれる、ということです。

そうは言っても脂肪ばかり増えるのであれば、健康上のメリットはありませんが、これまでの研究により、寝る前や寝ている間にプロテインを摂取すると、比較的効率的に筋タンパクの合成率が高まり、筋肉量が増加することが証明されています。

高齢者や病人の筋肉量保持なら悪くはない

自然な状態ということで考えれば、1日の中で半分の12時間くらいはカロリー摂取がなくなり、少し身体が異化に傾くこと自体は、そちらの方が自然な状態であって、無理にその時間帯にプロテインの摂取を行うことは、かなり自然の理に反したことのように思います。

ただ、その一方で、普通に食事を摂っていても体重や筋肉量が低下するような、消耗疾患の患者さんや高齢者では、効率良く吸収が行われる夜間に、プロテインの補充を行うことは、悪くないプランであるようにも思います。

オランダで行われた、65歳以上の高齢者対象の研究では

プロテイン摂取でどれくらい影響があったかを調査

今回の研究では、65歳以上の糖尿病などの基礎疾患のない高齢者48名を、くじ引きで本人にも実施者にも分からないように4つの群に分け、

第1群は40グラムのカゼインプロテイン※を、
第2群は20グラムのカゼインプロテインを、
第3群は20グラムのカゼインプロテインと1.5グラムの必須アミノ酸のロイシンを、
第4群は偽の栄養剤を、

それぞれ寝る前に摂取して、その後の筋肉のアミノ酸の取り込みと筋タンパクの合成率を、放射能の標識をしたアミノ酸を使用することで解析しています。
実際の筋組織における標識アミノ酸の分布は、前後2回の筋生検をすることで確認しています。

1日だけの試験とは言え、健康な人の筋生検を2回も行い、放射能も使用してアミノ酸の分布を解析するというのは、通常は倫理的に問題があるとされても、おかしくはないレベルの、かなり過激な研究デザインです。
研究はオランダで行われています。

※編集部注・牛乳の80%を占めるカゼインで構成されたプロテイン。不溶性で、身体への吸収がゆっくりなことが特徴。

筋肉増強効果が高かったのは、高用量プロテイン

その結果、プロテインの寝る前の摂取により、偽の栄養剤と比較して、有意な筋肉へのアミノ酸の取り込みの増加と、筋タンパク産生の増加が確認されました。
この筋肉増強効果は、40グラムという高用量のプロテインにおいて、他の用量やロイシンの併用よりも、高いレベルで認められました。

従って、高齢者の筋肉量の減少が、充分に昼間食事を摂っていても、進行してしまうようなケースでは、寝る前もしくは眠中に、プロテインの摂取を行うことが、一定の有効性が期待出来る方法であることが、理論的には確認されました。

身体への弊害も考えると、健康的な方法ではない

ただ、これがあまり健康的な方法とは思えませんし、これを繰り返した場合の身体への弊害も、現時点では未知の部分が大きいように思います。

今後の検証にもまた期待をしたいと思いますが、現状安易に飛びつくような栄養療法ではないように、個人的には思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36