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2017.09.06

寝汗は不調の合図かも【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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熱帯夜でもないのに大量の寝汗をかいてしまう。そんな寝汗の原因は、いったいどこにあるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2012年のJ Am Board Fam Medという雑誌に掲載された、寝汗(Night Sweats)の原因やメカニズムについてのレビューです。

▼石原先生のブログはこちら

不快な寝汗には全身の病気が隠されている?

寝汗は夜間の発汗過多による症状で、実際に体験された方はとても不快だ、というように話されます。
一方で寝汗が唯一の症状で、実は深刻な全身の病気であった、というような情報もネットなどではまことしやかに流れています。

僕も寝汗で日本語の検索を掛けてみたのですが、大体同じような記事にしか当たりません。
学術的なものはほぼ皆無で引用文献などもありません。内容も如何なものかなあ、という感じのするものです。

それでPudMedで検索をし、比較的まとまっていて過去の文献も幅広く引用されているのが、今回のレビューでした。
今日の記事はそれ以外に、2003年の診断のレビューなどを参考にしています。

正常であれば、汗をかくのは寝付いてすぐ

さて、不快な寝汗はどうして起こるのでしょうか?

発汗の主な生理的目的は、汗の形で水分を体外に出すことにより、体温を下げて身体の定常性を保つことです。
その指令の中枢は視床下部にあります。
発汗の刺激の主体は交感神経なので、視床下部から熱を下げろという発汗指令が発せられなくても、交感神経が強く緊張するとそれだけでも汗をかきます。
これが冷や汗ですね。

人間は誰でも睡眠中に汗をかきます。これは睡眠中は体温を少し下げる必要があるからで、その主な反応は睡眠の前半の時期に起こります。

従って、正常な睡眠時の発汗は、主に寝てからそれほど時間が経たない時点での現象です。
その一方で病的な睡眠中の発汗、すなわち寝汗は、睡眠の全時期を通して起こるか、睡眠が浅くなったり中断されたりする時間帯に起こります。

考えられる寝汗の原因

一番の原因は、発熱する疾患があること

それでは寝汗の原因にはどのようなものがあるでしょうか?
まず病気で熱があれば、それを下げるために発汗が高まりますから、寝汗の原因にもなります。つまり、発熱する疾患は寝汗の原因の第一です。

結核

ここで良く寝汗の原因として指摘される病気が、結核です。
寝汗があったら結核を疑えというのは、かなり昔から言われて来たことです。

ただ、上記文献の記載によると、過去の論文を集めてみても、多数例での検証として他の病気と比較して結核で寝汗が多い、という根拠となるような論文は殆ど存在していないようです。

理屈から考えても、結核のみが寝汗の原因とは考えにくく、微熱や消耗感、軽い咳など以外に、症状がなく経過することが結核ではよくあります。そうしたケースでは寝汗の存在が結核を疑うきっかけになり得る、ということではないかと思います。

有熱性の感染症

たとえば、EBウイルスによる感染症は、慢性ではなくても数か月と長引くケースがあり、その場合にも寝汗は特徴的な症状であると報告されています。

従って、有熱性の感染症で亜急性から慢性の経過を取る病気では、熱は微熱程度のこともあり、寝汗が症状としては唯一の兆候となるケースも少なくないという認識を持つ必要があります。

交感神経の緊張も寝汗の原因に

バセドウ病

それから、交感神経の緊張があると、それが寝汗に結び付くメカニズムが想定されます。

交感神経の緊張を伴う病気としては、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)がその代表です。
ただ、バセドウ病であれば寝汗もかきますが、昼間の発汗も多いですし、手の震えやイライラや体重減少や動悸など他の症状もありますから、寝汗だけをターゲットにする必要はなさそうです。
僕もバセドウ病の診療で、寝汗の有無を聞くことはあまりありません。

不眠

それから寝汗の大きな原因の1つは不眠です。

睡眠が妨害されて覚醒するような状態では、交感神経が緊張しているので寝汗の原因となります。
よく悪夢を見てベットリと嫌な汗をかいて目覚めた、というような表現がありますが、
これはレム睡眠の前後で交感神経が緊張し、発汗が生じたことを示しています。

うつ病

またうつ病では睡眠時の体温が上昇している、という知見もあり、うつ状態があれば寝汗が生じてもおかしくはありません。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群では寝汗が多いとされていて、これも呼吸状態が悪化するために、交感神経が夜間緊張することがその原因と想定されます。
つまり、睡眠が不安定であれば寝汗が生じておかしくはないのです。

癌も寝汗の原因となるとされていますが、これも実際にはそれほど科学的な検証がされている知見ではないようです。
癌の多くは身体は消耗しますし、炎症があるので微熱になることが多く、睡眠も不安定になりますから寝汗の原因となるものは揃っています。ただ、寝汗で癌を疑うのは少し言い過ぎのように思います。

ホジキンリンパ腫

寝汗の多い悪性腫瘍として知られているのはホジキンリンパ腫で、寝汗のみが症状として認められたこの病気の事例が、複数報告されています。 ただ、これも統計的なデータなどはないようです。 原因もそれほどはっきりしている訳ではありません。 リンパ腫は早期発見が難しい病気ですから、そのことが1つの要因となっているようには思います。

逆流性食道炎(胃食道逆流症)

それから、必ず一般の読み物などに書かれているのが、逆流性食道炎(胃食道逆流症)で寝汗が多い、という知見です。
これは1989年くらいに最初の報告があるようで、その後数例の症例報告といったレベルのものが幾つか発表されています。

原文に当たろうと思ったのですが、大体がマイナーな雑誌で、簡単にダウンロードなどは出来なかったので、原文は確認をしていません。
胃食道逆流性の診療ガイドラインを読んでも、症状としての寝汗の記載はありません。
メカニズムははっきりしないのですが、胃食道逆流症が不眠の原因の1つとなるという知見はあり、それがおそらくは寝汗の原因と思われます。
(原文を読まれた方で異なるメカニズムが記載されているようでしたら、ご教授頂ければ幸いです)

更年期症状

病気ではなく寝汗をかく状態の代表は、女性の更年期症状です。
これはやはり交感神経の刺激症状ですが、発汗の中枢である視床下部自体が発汗過多の原因となっています。女性ホルモンの低下に伴って、視床下部から下垂体はある種の興奮状態になっているからです。

男性では通常はこうした症状はありませんが、急激に男性ホルモンが低下するようなことが起こると同様の症状が出現することがあります。
典型的であるのは、前立腺癌の治療で男性ホルモンを強力に抑制したようなケースです。

薬の副作用

薬も寝汗の原因となることがあります。
解熱剤や痛み止めは熱を下げる作用があり、それに伴って発汗が生じます。
抗うつ剤や降圧剤なども副作用として寝汗を生じるという報告があります。
ただ、こうした報告は数例のものが殆どなので、どの程度実際に寝汗の原因となっているかは分かりません。

低血糖

低血糖は交感神経の緊張を高めるので、その症状の1つとして発汗過多になります。
所謂「冷や汗」という感じの不快な汗です。
糖尿病で治療を受けている患者さんの場合、睡眠中に低血糖になるとそれが寝汗として自覚されることがあります。
従って、糖尿病で治療中の患者さんでは、寝汗は低血糖のサインの可能性があるので軽視するべきではありません。

病気ではなく、睡眠環境に問題がある場合も

このように単純に見える寝汗という症状にも、多くの原因が隠れている可能性があります。
一方で多くの寝汗はほぼ生理現象で、室温や湿度、寝具や寝間着などの環境に要因があるので、寝汗を病気と考えるのも考え過ぎという面があります。

その人がどのような薬を飲んでいるのか、甲状腺機能亢進症なら動悸や頻脈、結核であれば微熱や全身倦怠感や咳痰など、併存する症状に注意しつつ、適切な検査を必要に応じて行うことが、現時点では適切な対応であるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36