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2017.03.03

「老後破産」が心配なんですが?【FP馬養さんインタビュー③】

KenCoM編集部

お金のプロ馬養さんに、お金に関する不安を相談するインタビュー第3弾。今回のテーマは多くの方が少なからず不安を抱えている「老後破産」。サラリーマンなのに老後破産に陥るのはどういう状況か、老後前のどんな行動が老後の生活を脅かすのか?分かりやすく教えていただきました。

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<お話を伺った方>

■馬養雅子(まがいまさこ)さん
・ファイナンシャル・プランナー(CFP®認定者)
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
・オフィス・カノン代表
「個人のお金のアドバイザー」として金融商品や資産運用などに関する書籍や新聞・雑誌記事の執筆、金融関連企画へのアドバイス、講演などを行う。実用書の編集経験を活かしたわかりやすい説明が得意。著書に『明日が心配になったら読むお金の話』、『プロが教える簡単マネーブック』など、執筆記事に日本経済新聞、日経ヴェリタス、産経新聞、朝日新聞、など多数。

年金だけでは暮らしていけない。じゃあどうする?

――老後破産が『NHKスペシャル』で取り上げられるなど話題になっていますが、実際どうなんでしょうか?心配です。

基本的にサラリーマンは、公的年金が老齢基礎年金と老齢厚生年金の2階立てなので、それほど心配する必要はありません。それでも、サラリーマンで老後破産するとしたら、それはどういう状況かを知っておくといいかもしれません。今もすでにその状況ですが、老齢厚生年金を含めてもリタイア後は公的年金だけでは暮らしていけません。

――うちの親世代(60代後半)はすでにそうですね。

ですよね、足りない部分はリタイアするまでに貯金しないといけないんですよ。だからといって、あまり若いときから老後資金を貯めればいいというものでもありません。人生の3大支出は、住宅費、教育費、老後資金なんですが必要な時期がずれているんです。

――住宅費、教育費、老後資金…。概ね30代、40・50代、60代以降と必要な時期が違いますね。

やはり必要な時期が早いほうから手当てすべきです。先に住宅ローンの頭金、次に子どもの大学進学費用を準備する。その時期に家と教育にお金をかけすぎると老後資金が足りなくなるんですよね。

――なるほど。老後前の大きな支出をいかにコントロールするか?ですね。

特に、教育費にお金をかけすぎている人は多いように思います。教育費にはいくらでもお金を使って良いように思いますが、実はそうじゃないんです。教育費って「かかるもの」じゃなくて「かけるもの」なんですよ。教育費で無理をすると老後資金を貯められなくなります。

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――「教育格差」という言葉も聞きますし、教育にはお金をかけて当然という価値観はあるかもしれません。

でも今の時代、一世代前みたいに教育にたくさんお金を使えば、いい大学・いい会社に入って幸せになれるという社会通念は成り立たなくなっていますよね。家計にとって無理のない範囲におさめること。家を買うときに住宅ローンがどのくらい返済できるか資金計画を立てるように、教育費も予算化しないと青天井で膨らんでしまいます。

――なるほど。住宅費に関してはいかがですか?

以前、住宅ローンの相談で資金計画をみてみると「このローンだと破綻しますよ」というケースもありました。すでに売買契約をしてしまっていたのですが。

――契約してから、急に心配になっちゃったんでしょうか(笑)

最近の人はもっと慎重ですが、家を買う時に予算決めないで買う人も多いんです。すると、たいていは住宅ローンの負担が重くなりすぎて、そのあと必要になる教育費、老後資金の準備が大変になります。

昔みたいにどんどんお給料が上がっていく時代は「ちょっと無理かな」というローンでも何とかなったんですが、今は「これだったらぎりぎり払えるかな」という程度だったらもう無理。「かなりゆとりがあるね」という状況じゃないと厳しいですね。

――無理な住宅ローンは禁物ですね。

今の時代は、家計にゆとりを残しておく必要があります。

親世代のお金の使い方は参考にならない

――親の世代の価値観は通用しないということですね。

日本の経済ってピークを過ぎて下り坂に入っているわけですよ。だから自分たちの親みたいに家も買い、子供に教育費もかけ、車も買い、海外旅行にも行って・・・というわけにはいきません。

――うすうす感じてはいましたが、改めて目が覚めました。

「あれもこれも」というのがもう無理になってきているんですよ。子供に教育費をかけたいなら、食事はなるべく手作りにするとか、逆に子供の健康のために有機野菜にこだわりたいのなら、着るものにはできるだけお金をかけないとか。そうしてメリハリをつけないともう成り立っていかないと思いますね。

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――まだ実感のない人も多いと思いますがいかがでしょう?

そう思っている人と、思ってない人では結構差が出てきていると思いますよ。特に50代後半バブル経済を経験していて、海外旅行へ行き、美味しいご飯も食べ、あれもこれも楽しんでいた世代です。そういう人が昔と同じようにお金を使い続けていくと、老後破産もありえます。夫婦で世帯の資産状況をチェックして、家計を引き締める必要がありますね。

――夫婦と言えども他人です。価値観をすり合わせるにはどうすれば良いでしょう?

我が家は何にお金をかけ、何にお金をかけないのかをぜひ話し合ってほしいですね。2人がそれぞれにお金を使っていると破綻する可能性もあります。

――どんなところで夫婦の意見が分かれやすいですか?

教育費で意見が分かれるケースが多いように思います。お母さんは私立中学に入れたいけどお父さんは必要ないといったケースです。お母さんのほうが周りの情報に敏感で「周りが私立に行くんだったらウチも」となりがち。そうしたら塾にも行かなければならず教育費の負担が重くなります。

――親の見栄で教育費をかけすぎている場合もありますよね。

収入が高い家庭でもお金が貯まらない場合もあります。昨年、タワーマンションが舞台のドラマでママ友同士の付き合いが題材になっていましたよね。収入が高い層のコミュニティでは見栄の張り合いになってしまうこともあります。

――無理をして、子供を私立に行かせた結果どうなりますか?

中学や高校でたくさんお金を使ってしまい、大学でお金が足りなくなり教育ローンを借りる人もいますが、教育ローンの返済のために老後資金が十分に貯められなくなってしまいます。

大事なのは情報に踊らされないこと

――住宅費や教育費の使い方以外に、老後破産にならない知恵はありますか?

大事なのは、情報に踊らされないことですね。マスコミはたいていネガティブなことしか書きません。先日、高齢者が受け取っている年金を減らす政策に関する報道がありました。これは、若い世代には良いことなんですが、悪いことのように書かれた記事が多かったですね。情報に対するリテラシーや見極め方は身に着けたほうが良いと思います。

――情報の本質をどう見極めていけばよいでしょう?

新聞を読むのが良いと思います。やはり新聞はネットの情報とは全然違います。情報の深さもそうですし、いろんな言葉の解説もありますし、背景の説明などもあります。

世の中の動きも分かるようになりますよ。4月1日や10月1日は、税金・年金においていろんな変更がありますよね。それを知らないといつのまにか世の中が変わっていたっていうこともあります。

新聞には何がどう変わるのか必ず掲載されるので、しっかりチェックしてほしいと思います。結構日本は、公的な年金・医療も手厚いのですが、それが分かっていなくて必要以上に保険に入ったりしがちです。ぜひ新聞を読んで世の中の仕組みに対する理解を深めたいですね。

今回のポイント

今回は漠然とした老後破産への不安をぶつけてみました。サラリーマンは基本的には大丈夫。でも、老後破産の道を歩むかどうかは、いかにお金を使いすぎず足りない老後資金を貯めておくかが重要。その対策や心得をお聞きすることができました。

本連載では、3回に渡って貯金が出来ない人の傾向と対策、貯金体質になる方法、老後破産についてお届けしました。漠然と「貯まらない、老後が心配…」と過ごすより「家計を考えるのは未来を考えること」と前向きに捉えて行動することが大切。まずは現状を把握して必要なお金をしっかり管理する習慣を身につけたいですね。

・教育費は青天井になりがちだが、家計でまかなえる範囲に抑える

・教育費も、住宅費も予算を決めて使うこと

・親世代のお金の価値観は通用しないと肝に銘じること

・情報リテラシーを養って、情報に踊らされないこと

(取材・文/KenCoM編集部)

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