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2023.03.07

魚に含まれるオメガ3系脂肪酸、慢性腎臓病予防の効果を検証【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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DHAなどのオメガ3系脂肪酸は身体にいいとよく耳にしますが、病気のリスクをどの程度下げてくれるものなのでしょうか。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2023年1月18日ウェブ掲載された、魚や植物油に含まれるω3系脂肪酸と呼ばれる油の、腎臓病予防効果についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

健康効果があるのはどんな油?

動物性の油よりも、植物性の油の方が健康に良い、というのはしばしば言われて来たことです。飽和脂肪酸よりも不飽和脂肪酸が健康に良い、というような言い方もされてきました。

テレビなどの健康情報では、サバやサンマに含まれる脂肪酸が、ダイエットに良いという話題も盛んに取り上げられています。

脂肪酸というのは、身体の中の油の総称で、タンパク質のように窒素は含まず、炭素と水素、酸素だけからなるシンプルな構造物です。リン脂質や糖脂質、コレステロールやステロイドのような、脂肪酸から由来する物質も多く、この中には窒素を含むものもあります。

その大元である脂肪酸は、二重結合のない飽和脂肪酸と、二重結合のある不飽和脂肪酸に分かれます。

原子は他と繋がる手を決まった数だけ持っていて、その手がそれぞれ別のものと繋がっているのが飽和で、2つの手が同じものと繋がっているのが、不飽和ということになります。

分子量の大きい不飽和脂肪酸は、その二重結合の位置が端から3番目のものと、6番目のものとに分かれます。

3番目のものを、n-3脂肪酸とかω-3系多価不飽和脂肪酸などと表し(どちらもオメガ3系脂肪酸)、EPAやDHA、α-リノレン酸などはその代表です。一方で6番目のものの代表は、リノール酸やアラキドン酸で、これをおなじように、n-6脂肪酸やω-6系多価不飽和脂肪酸などと表します。

動物性の脂肪の多くは、飽和脂肪酸です。ラードやバターなどはその代表です。

健康にいいと言われるオメガ3系脂肪酸

魚や植物油を多く摂るような生活習慣により、心血管疾患のリスクが減少する、というような疫学データは多くあり、その原因として注目されているのがオメガ3系脂肪酸です。

これは具体的には、主にサバやサンマなどの青身魚の脂に含まれる、EPA(エイコサペンタエン酸)、DPA(ドコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、そしてエゴマやアブラナ、ダイズなどの油に含まれる、植物性油脂のα-リノレン酸です。

これまでの臨床研究により、オメガ3系脂肪酸を多く摂取することにより、心血管疾患のリスク低下や中性脂肪の低下などの健康効果が、データによりその程度には違いはあるものの、ほぼ確認をされています。

ただ、慢性腎臓病単独での予防効果については、信頼のおけるデータは多くないのが実際です。

オメガ3系脂肪酸の慢性腎臓病予防効果を検証

そこで今回の研究では、これまでに施行された世界12か国の19の臨床データを、まとめて解析する手法で、オメガ3系脂肪酸の慢性腎臓病予防効果を検証しています。

摂取量の聞き取りのデータではなく、オメガ3系脂肪酸の個々の血液濃度で検証しているところがポイントです。

トータルで25570名を中間値で11.3年観察したデータを解析したところ、5分割した魚由来のオメガ3系脂肪酸(EPA、DPA、DHA)の血液濃度が、最も低い群と比較して、最も高い群では、慢性腎臓病の発症リスクが13%(95%CI:0.80から0.96)有意に低下していました。

一方で、植物由来の油に含まれるα-リノレン酸濃度と慢性腎臓病リスクとの間には、有意な関連は認められませんでした。

健康効果があるのはDHA、EPA、DPAのみ

2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、オメガ3系脂肪酸の血液濃度と健康長寿との関連の解析データでも、やはり有効性はDHAとEPA、DPAのみで確認されていて(※2)、どうやら同じオメガ3系脂肪酸でも、EPAやDHA、DPAと、α-リノレン酸は別のものとして考えた方が良いようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36