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2021.12.24

くつろぎは笑ったことへのご褒美かも?【笑トピ・#4】

明治大学名誉教授・日本笑い学会:山口政信

笑いには、美味しいものを食べ、風呂に入った時と同じような生理的快感があります。また、雑事から解き放たれたという心理的な心地よい味わいが見られます。ましてや温泉宿に泊まるなど、ゆったりとした非日常に身を置くとなれば、生きているという充実感と解放感によって自ずと笑みがこぼれます。それがたとえ傷心(気の病)の旅であったとしても、身が養われるに連れて心も解け、微笑みの兆しすら見えてきます。そのような時は既に快方に向かい、私はわたしである、との自立した心の姿勢が節々に見られます。

ゆったりと満たされた気分に浸っているという幸福感は笑いを誘い、笑いが更なる幸福感を満たすなど、身と心を縛っていたわだかまりがほどけてきます。このくつろいだ充足感は、笑った結果としてのご褒美なのだと思います。

大病からの復調には「笑い」が関係していた?

笑いは健康によいことは誰もが知っていました。その漠とした思いは、膠原病から奇跡の快復を果たしたN・カズンズの著書、『笑いと治癒力』(岩波書店)の出版によって確信に変わったようです。ページを繰ると入院中に退屈することもなく笑いの数々を採り入れたエピソードが記されており、その新鮮な内容が共鳴現象を起こしたものと思われます。

日本の研究では、伊丹仁朗医師らがガン患者らに吉本新喜劇を見せた結果、がん細胞を攻撃するリンパ球の一種であるナチュラルキラー細胞〈NK細胞〉が活性化したという発表が話題になりました。日本笑い学会の仲間はこの実験が行われた劇場名に因み、なんばのN、花月のKをもってNK細胞のことを「なんば花月細胞」の愛称を用いています。また笑いはジョギングと同様に吐く息にポイントがあり、身心の憂さを晴らす効果も共通していることから、私は《吐けば甘露の日和あり》というもじりを創り愛用しています。

さて、笑いの有効性はリウマチや糖尿病、認知症等にも見られます。ストレスの指標となる唾液中のコルチゾール値を下げ、がんやウイルスに対する免疫力のバランス効果も検証されています。笑いによって分泌が活性化するセロトニンは、膠原病のように免疫力が強過ぎて生じる病気に対しても、調整力を見せてくれるのです。

かたくなでバランスを欠いた健康観は、意に反してストレス因子となって病を誘発しかねませんので、風邪に代えて《ストレスは万病の元》の句を創ってみました。さらに健康オタクの方々には、微笑みとともに「健康のためなら死んでもいい」というブラックジョークを贈って一考を促すのも悪くはないのでは、と思っています。

著者プロフィール

■山口 政信(やまぐち・まさのぶ)
明治大学名誉教授
1946年生まれ。東京教育大学体育学部卒業・東京学芸大学大学院教育学研究科修了。日本笑い学会理事、日本ことわざ文化学会理事(事務局長)、スポーツ言語学会初代会長。全国中学校放送陸上競技大会80mハードル優勝(中学新)、日本陸上競技選手権大会/メキシコ五輪最終選考会400mハードル6位、フルマラソン完走121回。「創作ことわざ」に「わざ言語」の機能を見出し、体育・スポーツ教育を実践。学生には「体育を国語でやる先生」と呼ばれる。明治大学リバティアカデミーに「笑い笑われまた笑う」を開講し、笑ってもらうことをモットーとした。主著に『スポーツに言葉を』(単著)があるほか、『陸上競技(トラック)』・『笑いと創造第四集』(以上共著)、『笑いとことわざ』(共編著)、『世界ことわざ比較辞典』(共監修)など多数。

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