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2021.11.19

盛りが美しい。新潟の地酒とともに味わいたい「へぎそば」【ニッポン地元メシ#9】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

本州の日本海沿岸に位置する新潟県。日本最長の川として知られる「信濃川」があり、その下流域の越後平野は稲作が盛んな地域としても有名です。
「お米」といえば、新潟県産・コシヒカリを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

日本海の恵みもあり、海の幸、山の幸ともに豊富なこの土地は、白鳥やトキといった動物たちにとっても貴重な生息場所。

第9回は、そんな美しい自然豊かな新潟県の郷土料理のひとつ「へぎそば」を紹介します。

盛りが美しい「へぎそば」

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平たい器につややかなそばが美しく盛られた「へぎそば」。

へぎそばの「へぎ」というのは木を剥いで作った角盆のことを言います。「剥ぎ(はぎ)」がなまったことが由来で「へぎ」と呼ばれるようになったともいわれています。
この器に、一口ずつ丸めたそばを青海波のように並べて盛り付けているのが特徴です。盛り付ける際に水揚げしたそばを手で持ち、その手を振りながら形を整え器に盛り付けることから「手振りそば」とも呼ばれます。

練り辛子で食べるのがツウ

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へぎそばの特徴は、何といっても「布海苔(ふのり)」が練りこまれているということ。

へぎそばの発祥は新潟県の中ほど・中越エリアです。
この地域は織物の産地として有名なのですが、布海苔は織物の仕上げとして糸を長持ちさせるために糊付けとして使われていました。
この布海苔を活用できないかということで、そばのつなぎとして使ったのがへぎそばといわれています。

普通のそばは茶色や灰色のような色味をしていますが、へぎそばは布海苔を混ぜ込んでいるのでヒスイのような淡いグリーン。
布海苔を使うことで、適度なコシとつるつるとしたのど越しの良さも生まれました。

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そばを食べる際はワサビとネギが定番ですが、へぎそばの場合は練り辛子が定番です。
この辛子を少量とり、そばに塗るようにしてからめんつゆにくぐらせていただくのがおすすめとされているそうです。

また、当時はそばを打って細く切るのは手間となるため、そばがきにして食べることが多かったことから、現在のそばのように麺状にしていただくのはハレの日のごちそうとされていました。
現在では冠婚葬祭やお祭などの宴の席でも欠かせない郷土料理となっています。

ヘルシーなおそば。そば湯までいただいて

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ヘルシーで栄養価の高いイメージのそば。

そばには様々な栄養素が含まれていますが、そば(とくに外側の殻の部分)には「ルチン」という成分が含まれています。
ルチンというのは別名ビタミンPとも呼ばれており、強力な抗酸化作用を持つポリフェノールの一種です。
毛細血管を強化し、血流アップにも役立つため、歯茎の出血予防や血圧が気になる方にもおすすめです。

ルチンはビタミンCと一緒に摂ることでより効果が発揮されやすいとされていますが、水に溶けやすいという特徴があるため、そばを茹でた際には茹で汁に溶け出てしまいます。
そのため、そばを頼んだ際に一緒に出てくる「そば湯」をいただくことでそばの栄養素をしっかり摂れます。

布海苔で食物繊維UP

へぎそばの特徴となる「布海苔」の素干し100gあたりの栄養価は以下の通り。

タンパク質 13.8g
食物繊維 43.1g
カリウム 600mg
カルシウム 330mg
マグネシウム 730mg
鉄 4.8mg
βカロテン当量 700μg
ビタミンK 430μg

食物繊維が4割以上を占めていることがわかります。
食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分けられます。水溶性食物繊維は体内でゲル状になり、ゆっくりと移動するため、腹持ちがよくなります。また糖の吸収を穏やかにすることで食後の血糖値の急上昇を抑える働き、余分なコレステロールを吸着して排出する働きがあります。
また、腸内で体にとって良い働きをする菌(善玉菌といわれることもあります)のエサとなるため、腸内環境を整えるのにも役立ちます。

不溶性食物繊維は腸を刺激することで便通をスムーズにする働きがあるだけでなく、不溶性食物繊維が多く含まれる食材は「噛み応え」にも関わってくるため、よく噛むことで顎の発達や歯並びといった口回りの健康にもかかわってきます。

そのほか、むくみ予防に役立つカリウムや骨の健康に欠かせないカルシウム、マグネシウム、そして不足しやすい栄養素である鉄など、老若男女問わずに毎日の健康に欠かせない栄養素が含まれているのは嬉しいですね。

βカロテンには抗酸化作用があり、体内に入ると必要な分だけビタミンAに変換されます。
ビタミンAは目の健康に欠かせないほか、粘膜の潤いを保ちバリア機能アップにも役立つ大切な栄養素です。

布海苔は乾燥させることで保存性も増すため、保存食として活用することができ、飢饉を救ったという歴史も残っているそうです。

つるつるの喉越しを堪能あれ

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布海苔を加えることで現代人に必要な栄養が豊富に含まれるほか、つるつるとしたのど越しやコシもアップしているへぎそば。

新潟の地酒と合わせて堪能したい逸品です。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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