2021.10.06
理にかなった朝の農家メシ!南国・宮崎県を代表する郷土料理「冷や汁」【ニッポン地元メシ#6】
温暖な気候に、日南海岸沿いに並ぶ県の木「フェニックス(ヤシの木の一種)」、そして空港の名前は「宮崎ブーゲンビリア空港」。
宮崎県は、まさに日本の南国リゾートともいえる場所です。
また、高千穂地域は神話のふるさととしても知られていて、歴史や文化的な魅力もあり、バリエーション豊かな自然の恵みを五感で楽しむことができます。
宮崎県のグルメといえば
全国トップクラスで日照時間が長く、深い山岳と日向灘の海岸線が特徴的な宮崎県。
お肉なら宮崎牛に宮崎地鶏、気候を活かした宮崎マンゴーやきんかんなどの果物も有名です。また意外なところでは、日本で初めてシロチョウザメの完全養殖が成功したことで、国産キャビアの産地としても知られています。
その他、チキン南蛮や焼酎などさまざまな名物グルメがありますが、第6回は宮崎県の代表的な郷土料理「冷や汁」を紹介します。
農家メシとして普及した「冷や汁」
ほぐした焼き魚と野菜、薬味を入れ、味噌を伸ばした出汁をごはんにかけて食べる、宮崎県の郷土料理。「ひやじる」という呼び名で知られていますが、宮崎県では「ひやしる」と呼ばれています。
その土地によって、焼き魚をつぶして加えたりそのほかの野菜を加えたりとバリエーションはさまざま。
これは朝が早い農家の人たちがささっと食べられるように、前日の残りの麦ごはんに味噌と冷水を加え、まぜて食べたことがきっかけといわれています。
冷や汁は僧侶によって全国に広まった料理ではありますが、冷たくして食べる冷や汁と宮崎の温かい気候がマッチングしたことから宮崎県で定着し、長く親しまれて郷土料理になったと考えられています。
おうちで簡単、冷や汁の作り方
時間のない朝ごはんとして、また疲れ気味で食欲のない日の昼食におすすめな冷や汁。作り方はとても簡単です!
材料
・焼き魚のほぐし身(青魚がおすすめ。アジがよく使われます)
・木綿豆腐
・麦ごはん(白米でも代用可)
・麦みそ(合わせみそや使い慣れた味噌で代用可)
・だし汁
・いりごま
・きゅうり
・茗荷や大葉、生姜などのお好みの薬味
作り方と食べ方
すり鉢で焼き魚、いりごま、味噌をすり合わせたら軽く炙ります。
この「炙る」というのはポイントのひとつ。冷たい料理は温かい料理と比べるとどうしても香りの面で劣ってしまいますが、香りが特徴的な魚、ごま、味噌をあわせて炙ることで、冷たい料理でも香ばしさを感じやすくなるのです。
ご自宅で作るときは、すり合わせたものを木製のしゃもじや木べらに乗せ、ガスコンロの火に近づける、もしくはアルミホイルの上に広げてトースターで数分加熱すれば、簡単に炙ることができます。(焦げないように注意しましょう!)
これをすり鉢に戻し、だし汁を少量ずつ加えて伸ばしていき、手で粗く崩した豆腐やスライスしたきゅうりを加え混ぜ合わせます。
さいごに麦ごはんにかけ、薬味をのせたら完成です。食べるときはお茶漬けのようにサラサラと。
前日に冷や汁を作っておけば、朝はごはんにかけるだけですぐに食べられますよ。
農家メシとして、非常に効率的な食事
農業など日差しの下で仕事をする方は特に、身体の中からのクールダウンが必要。冷や汁のように冷たく仕上げるというのは、身体のほてりを内側から冷ますという観点から理にかなっているんです。
そして身体を使った仕事で欠かせないタンパク質は魚や豆腐から摂ることができます。魚の中でも青魚には脳や血管、コレステロールの調整にも役立つDHAやEPAが含まれているのが嬉しいところ。
さらにご飯でエネルギー源も補給。麦ごはんにすることで食物繊維を、発酵食品である味噌を使うことで腸内環境を整える効果も期待できます。
ミネラル、水分の補給にも
90%が水分でできているというほどみずみずしい旬のきゅうりを使っていること、そして全体を通して汁がたっぷりとれるという点で、食事からの水分補給が効率的にできます。
また、汗をかく仕事で失われるのは水分だけではありません。
汗とともにミネラルも多く失われてしまうため、味噌や魚といったミネラルを多く含む食材を手軽に補給できるのは嬉しいですね。
料理は味がすべてではありません。香り、食感、見た目と五感を使ってこそ楽しむことができます。
冷や汁は「冷ごはん」を使うこともポイントのひとつです。炊き立てのごはんはもっちりと粘りがあるのに対して、冷ごはんは水分が減ったように感じると思います。これはごはんを一度冷やすことで、お米に含まれるでんぷんが難消化性のでんぷんに変化するためです。
これによって冷たい汁を合わせても、べちゃっとならずにサラサラとした喉越しにつながるのです。汗をかいて体力を消耗しやすい環境下でも栄養補給がしやすいというわけです。
このように簡単で食べやすく栄養もしっかりと摂ることができる冷や汁は、厳しい自然の中での仕事に従事する方にとっては必要不可欠な料理なのかもしれません。
ご家庭でもお好みの冷や汁を楽しんで
王道の冷や汁は冷たいごはん+冷たい汁ですが、実際は中身の具材も含めてお好みです。
生魚を準備するのが大変という方はアジの干物、サバやイワシの缶詰などを活用するとよりお手軽に作ることができます。
また、温かいごはんに冷たい汁もしくはその逆だと食べやすい温度になります。
日々の気温差だけでなく、1日の中でも寒暖差が大きい日が続く晩夏~初秋にも活躍しそうな冷や汁。ぜひご自宅にある食材を活用して、日々の生活スタイルに合ったオリジナルの冷や汁を作ってみてはいかがでしょうか。
磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。