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2016.04.01

若手社員に知ってほしい。すぐ辞めない新卒になるためのマインドセット

臨床心理士 坂井一史

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こんにちは。臨床心理士の坂井一史です。
卒業後3年以内の離職率が、中学卒で65.3%、高校卒で40.0%、短大等卒で41.5%、大学卒で32.3%というデータがあることをご存知でしょうか?(厚生労働省調査、H24年3月卒者対象) 入社してから3年の間に、3人中1~2人に退職を決断させるほどの何かが起きているようです。

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「議事録作成の仕事ばかり。こんなことをするためにこの会社に入ったんじゃない」
「上司から怒られるばかりで褒められることがない。自信をなくしてしまった」
「もっと自分を出せと言われるが、不必要なコミュニケーションはとりたくない」

 これらは新入社員からの相談内容の一例です。学生から新社会人に立場が変わるとき、「思っていたのと違う」と感じることをリアリティ・ショックといいます。多くの人が大なり小なり体験するリアリティ・ショックを、「ただの嫌な体験」としてではなく、「自分の成長につながる経験」として活かすためには、実は考え方にポイントがあります。

そもそも、リアリティ・ショックはなぜ起きる?

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それは「求める人材像」に合わせた自分の気概と、入社直後の仕事のギャップが主な原因でしょう。
就職活動で多くの学生が参考にしているのは、企業がホームページなどで公開している「組織のミッション」や「求める人材像」などの情報でしょう。就職活動が厳しくなればなるほど、学生は組織のミッションに貢献できる、求める人材像にチューニングして準備をします。自分は採用に足る人材であることをアピールするためにやりたいことを明確化し、入社したらすぐに仕事の中枢で活躍するくらいの気概を持っています。

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それに対して、入社してから求められるのはミッションや人材像には出てこない、組織における仕事に慣れるためのプロセス。
「仕事の流れや得意先情報、専門用語を覚えるためには議事録作成が一番。これがこなせるようになったら次のステップだ」
「会社は学校と違う。妥協は許されない。厳しく育てるべきだ」
「社内の付き合いも顧客との付き合いも大事。自分を出してアピールできるようなコミュニケーションをとれるようになって初めて一人前だ」
などです。
自分のキャリアについて一生懸命考えていれば考えているほど、やろうとしていたことと与えられることのギャップに対して、リアリティ・ショックを感じることになるのです。

リアリティ・ショックを成長の機会にしてくれる、プランド・ハップンスタンス理論

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“18歳のときに考えていた職業についているという人は、全体の約2%”
“キャリアの80%が偶然の出来事によって左右されている”

これらはビジネスパーソンを対象に行われた、キャリア心理学者のクランボルツ教授の調査結果です。
上記などの調査結果を踏まえて提唱されたのがプランド・ハップンスタンス理論(Planned Happenstance Theory)で、『キャリアを変える偶然の出来事が起こる頻度は、仕事などの普段の習慣によって決まる』と考えられています。

アドリブ力で80%の偶然を“正解”に変えていく!

新入社員の状況に置き換えるならば、入社前に計画していた「自分はこういう職業人生を歩みたい」というキャリアの通りに進む人はほとんどおらず、偶然の出来事によって方向性は変わっていくということになります。しかもその確率は80%です。計画通りにいく部分が20%で、偶然の出来事に左右される部分が80%なのだとすると、計画通りに進めるより、偶然の出来事に対するアドリブ力の方がよっぽど大事だと思いませんか?
 クランボルツ教授は、アドリブ力を発揮して偶然の出来事を「棚からぼた餅」にしていくためには日ごろの姿勢が重要であるとして、以下の5つを示しています。

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棚ぼたを得るアドリブ力5か条

① 好奇心(自分の目標に限定されないさまざまなことへの好奇心を持つこと)
② こだわり(自分の考えや価値観にこだわりを持つこと)
③ 柔軟性(偶然の出来事や環境の変化に対して柔軟に対応できること)
④ 楽観性(結果にかかわらず自分に得るものがあると楽観的に考えること)
⑤ リスクテーキング(積極的にリスクをとる姿勢を持つこと)

組織が新入社員に求めているのは、ある程度時間をかけて一人前の組織人になっていくことであり、実は失敗を恐れる必要はありません。むしろ失敗からより多くのことを学ぶことを期待していますし、堂々と失敗できるのは新入社員の間だけです。リスクをとることを怖がらず、自分の意に沿わない出来事に対しても「ここから何を学べるか」と考え、前向きに柔軟に経験を積むことが、リアリティ・ショックを成長の機会にすることにつながります。

理想の環境を求めるのか、今の環境を理想的にしていくのか

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組織と人の相性が合わないということも確かにあるので、退職が悪いというわけではないと思いますが、退職という選択が後々のその人の人生にとってステップアップにならないのであれば、とてももったいないことだと思います。きちんと見極めるためにはある程度我慢をして、様子を見ながらやってみるということも大切です。上に示した5つの姿勢を活用して「棚からぼた餅」をゲットしましょう。

【参考文献】
① John D. Krumboltz, Al S. Levin, (2004) Luck is No Accident. Impact Publishers, Inc.(J.D.クランボルツ、A.S.レヴィン 花田光世・大木紀子・宮地夕紀子訳(2005).その幸運は偶然ではないんです! ダイヤモンド社)
② 高橋俊介(2009)『自分らしいキャリアの作り方』,PHP新書
③ 高橋俊介(2006)『キャリアショック』,ソフトバンククリエイティブ
④ 厚生労働省 新規学卒者の離職状況に関する資料一覧
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/24.html

<筆者プロフィール>

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坂井一史 (さかいひとし)
住友商事グループSCGカウンセリングセンター センター長付
資格:臨床心理士、2級キャリア・コンサルティング技能士、シニア産業カウンセラー