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2022.09.17

アレルギーはセット採血ですぐわかるってホント?各国学会の見解を解説!

Lumedia

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まとめ

●「アレルギーをまとめて採血で簡単チェック」と宣伝されています。
●実際は、採血だけではアレルギーの有無を判定できません。
●各国の学会は「なんとなくでアレルギーのセット採血をしてはダメ!」と警告しています。

「アレルギーの有無は採血ですぐに分かるのでは?」とお考えの方は多いかもしれません。たとえば Google で「アレルギー検査」と検索すると、

「何のアレルギーがあるか知りたければ、少しの採血でハウスダスト・花粉・食品など39項目まとめて検査可能!」
「特に思いつくアレルギーがない方は、まとめてセット採血で調べよう!」

などの宣伝文句が上位表示されます。

ちょっと採血するだけで簡単にアレルギーの有無を知れるなら、確かにとても便利ですよね。皆さんもこの検査を受けるべきなのでしょうか?

この記事では、「アレルギーのセット採血は必要なのか」について解説していきます。

この記事を書いた医師

やさひふ(Yasahifu)
医師 / 皮膚科専門医 / 医学博士

Lumedia 編集長。怪しい医療情報に惑わされる患者さんを多く見た経験から Lumedia の立ち上げを決意。 皆さんのすこやかなお肌を守るため、Twitter で科学的根拠に基づいたスキンケア情報発信中。

【目次】
1.アレルギーのセット採血に意味はあるの?
2.「なんとなくの検査」はなぜダメなの?
 2.1.理由① アレルギー検査は必ずしも正確ではない
 2.2.理由② 信頼度の低いアレルギー検査の結果を信じるデメリットが大きい
 2.3.理由③ 無駄なお金や労力がかかる
3.Google 検索を鵜呑みにしないで!

アレルギーのセット採血に意味はあるの?

結論から述べると、「アレルギーのセット採血」の意義は乏しいと考えられています。

米国アレルギー学会が次のように解説してくれています (参考文献 1) 。

適切な根拠のないアレルギー検査をしてはいけません。たとえば「遅延型 IgG 検査」や「なんとなくの IgE セット検査」は NG です。
このうち前者の「遅延型 IgG 検査」は、すでに以前の記事で解説したように、まったく意味のない検査です。

そして、今回の記事で取り扱う「特に思いつくアレルギーがない方は、まとめてセット採血で調べよう!」という宣伝は、後者の「なんとなくの IgE セット検査」に該当します。

こういった不適切な検査をしていては、米国アレルギー学会から怒られてしまいますね (泣)

「なんとなくの検査」はなぜダメなの?

アレルギーに関する採血検査をなんとなく受けてはいけない理由について、米国アレルギー学会は次のように説明しています (参考文献 2) 。

①アレルギー検査は必ずしも正確ではない
②信頼度の低いアレルギー検査の結果を信じるデメリットが大きい
③無駄なお金がかかる

この3点をそれぞれ解説していきます。

理由① アレルギー検査は必ずしも正確ではない

採血では「あなたはこのアレルゲンに対して陽性 (+) です」あるいは「陰性 (-) です」という結果が返ってきます。

しかし、陽性 (+) なら本当にアレルギーがあるのか、陰性 (-) なら本当にアレルギーがないのか、というと必ずしもそうではありません。

偽陽性といって、本当は大丈夫なのに誤って陽性 (+) と判定されてしまうこともあるのです。

「え、それなら検査を受ける意味ないよね?」と感じた方は鋭いです。

まさしくその通りで、疑わしい症状のない方がなんとなく興味本位でアレルギー検査を受ける行為は、いわば占いのようなものでしかありません。信じることも信じないことも難しいので、ほぼ参考になりません。

アレルギーの診断には、アレルギーに詳しい医師が患者さんのお話をよく聞いたうえで、疑わしいアレルゲン (アレルギー症状を引き起こす原因物質) に特化した検査を検討するのが大切です。

理由② 信頼度の低いアレルギー検査の結果を信じるデメリットが大きい

①とも関連しますが、アレルギー検査で誤った結果が出るとどうなるでしょうか?

たとえば「あなたは小麦アレルギー陽性 (+) です!」という結果が出たとしましょう。

この場合、本当は問題なくても「小麦はやめておこう」と考えて小麦を摂取するのをやめてしまうかもしれません。

ほかに大豆や卵、牛乳なども陽性 (+) であれば、これらの食品を食べるのも避けることになるかもしれません。

その結果、食生活が乱れたり、余計な心配を抱えたり、余計な食費が増えたりしてしまうかもしれないですよね。

また、それまで問題なく食べられていた食材でも「除去しましょう」という検査結果を信じて避け続けていると、本当にその食材へのアレルギーが出てしまうことがあります (参考文献 3) 。定期的に食べていない食材に対しては、新規にアレルギーを発症しやすいのです。

実際にあった症例として、

「元々は問題なく牛乳を飲めていた女の子が、血液検査の結果をもとに牛乳を完全に除去するように指示された。その女の子は後に本当に牛乳アレルギーを発症し、乳製品を扱う店へ入店した際に、空中にわずかに漂っていた牛乳タンパクを吸い込んでしまい、アナフィラキシーを起こして命を落としてしまった。」
という痛ましい報告も存在します (参考文献 4) 。

不適切な検査の結果を信じることが、命を脅かす可能性もあるのです。

それ以外にも、「犬や猫にアレルギー陽性 (+) です!」と言われたら、症状がないのに大切なペットを手放してしまうこともあるかもしれませんね。

信頼できない検査結果にまどわされて、不健康や不幸せになってしまったら本末転倒ですよね。

理由③ 無駄なお金や労力がかかる

ここまで説明したように「アレルギーのセット採血」をなんとなく受けても、メリットはほぼありません。

それなのに、この検査はそれなりにお金がかかります。保険適用かどうかにもよりますが、数千円~数万円程度の支払いが必要なケースが多いです。

意義の乏しい検査にこれだけのお金を払うのはもったいないと思いませんか?せっかくならば、そのお金をもっと有意義で楽しいことに使いたいですよね。

また、お子さんの場合は無料で検査を受けられることが多いですが、意義の乏しい検査のために採血で痛い思いをさせるのも望ましくないでしょう。

こうして見ると「アレルギーのセット採血」をなんとなく受けるべきではないことがよく分かりますね。

米国アレルギー学会だけではなく、カナダやイタリア、オーストラリアなどの団体も「しっかり患者さんから話も聞かずにアレルギーの採血をしてはダメだよ」と同様の見解を示しています (参考文献 3-5) 。

「具体的にアレルギーを疑うものがあるときのみに採血を検討すべき」というのは、世界中のプロの共通見解だと言って良いでしょう。

Google 検索を鵜呑みにしないで!

残念ながら日本では、アレルギーに詳しくない医師が不適切に「アレルギーのセット採血」を行っている例が目立つようです。

Google 検索では正しい情報を見つけにくいので、Lumedia などに掲載されている「出典付きの記事」で適切な根拠のある情報を得て、ご自身やご家族の健康を守ってくださいね。

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COI

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参考文献

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