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2022.02.04

すだち香る、徳島のふるさとの味「ぼうぜの姿寿司」【ニッポン地元メシ#14】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

およそ400年前から今もなお受け継がれている(※)、日本を代表する伝統芸能のひとつ「阿波踊り」でも有名な徳島県。
四国の東端に位置し、温暖で穏やかな瀬戸内気候の地域です。吉野川など水量が豊かな川がいくつも存在します。

様々な文化を継承し続けている土地には多くの食文化も残っていますが、第14回は、徳島北部で良く作られる郷土料理「ぼうぜの姿寿司」について紹介します。

※阿波踊りの起源は諸説あり

ぼうぜの姿寿司ってどんな料理?

「ぼうぜ」というのは徳島県の方言で、一般的には「エボダイ」や「イボダイ」と呼ばれることが多い魚です。
エボダイは、大きさは20cm程で銀色が美しい小ぶりな白身魚。干物で味わったことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、臭みなどもなく、とても淡白であっさりとしており、脂がのっている時期は濃厚な味わいを感じられるのが特徴です。
そのぼうぜを下処理し、押し寿司にしたものが「ぼうぜの姿寿司」です。

ぼうぜは晩夏~秋に旬を迎えるため、姿ずしは秋の訪れを知らせる料理のひとつとなっています。また、秋祭りにも欠かせない伝統的な郷土料理としても親しまれています。

すだちでさっぱり。ぼうぜの姿寿司の作り方

画像:ボウゼの姿寿司 阿波なび(https://www.awanavi.jp/document/photo/29393.html)

画像:ボウゼの姿寿司 阿波なび(https://www.awanavi.jp/document/photo/29393.html)

まず、ぼうぜは捌いて内臓や目を取り、中骨も取り除きます。「姿寿司」なので原型を崩さないよう、尾びれや背びれは残したままにします。
その後塩をふってしばらく置き、酢で洗ったのち、酢、もしくは甘酢に漬けます。

塩をふって置くのは余分な水分や生臭さを取るためで、一晩寝かせることもあります。余分な水分を抜くことで鮮度の低下を遅らせる(鮮度を保つ)という働きもあります。
酢につける時間は家庭によって変わりますが、ぼうぜの身が酢によって白っぽくなるのが目安です。

作り方は鯖の押し寿司のような手順で特別な道具を使うものではありませんが、使用する「酢」に特徴があります。

ぼうぜを浸ける酢と寿司米ですが、穀物酢や米酢だけではなく「すだちの果汁」を加えることが最大のポイント。
すだちと言えば、さわやかな香りとキリっとした酸味が特徴の、徳島県の名産品でもあります。

こうして下処理が完了したぼうぜを寿司米の上にのせ、最後にすだちのスライスをのせたら完成です!
白い寿司米に銀色のぼうぜ、そして緑色のすだちのコントラストが美しい秋の一品です。

ぼうぜの姿寿司の栄養は?

ぼうぜは小ぶりの白身魚で、可食部100gあたりのエネルギーは132kcal、タンパク質は16.4g、脂質は8.5gととてもヘルシーな食材です。
さらにむくみ予防に役立つカリウムは280mg、そのほかにもビタミンB群の一種であるナイアシンやビタミンB12も含まれます。

お寿司のシャリ部分、お米には脳や全身のエネルギー源として欠かせない糖質が含まれています。
一般的に寿司には水分量が多すぎない古米の方が向いているともいわれますが、ぼうぜの姿寿司の旬は秋ということもあり、新米で提供される際はより艶やかで香りやうま味を感じられるでしょう。

ぼうぜ、お米、そして最後のあしらいにも使われるのが「すだち」です。
一つひとつは小さいながらも果汁100gあたりにはビタミンCが40mgも含まれています。
ビタミンCは抗酸化作用があるほか、コラーゲンの合成にも関与していることから、美容や健康にも役立つとしてとても有名な栄養素のひとつですね。

私たち人間は体内でビタミンCを作ることができず、溜めておくこともできません。
ビタミンCは、ストレスや喫煙(受動喫煙も含む)といった状況下では体内での消費が大きいため、日ごろから積極的に摂りたい栄養素でもあります。

また、酸味の成分「クエン酸」はエネルギー代謝をスムーズにするためには欠かせない成分です。
徳島県のお祭りの時期に欠かせない料理といわれるのには、旬だからという理由だけでなく、このように良質なエネルギーを補給することでよりパワフルにお祭りを楽しめるからという意味もあるのかもしれません。

雑穀も有名な徳島県で「主食」を楽しむ

徳島県は「阿波の国」とも呼ばれています。

これは、県北部では粟(あわ)が多く収穫されるために「粟国」と呼ばれていたものが、県南部(長国)と統合され、のちに「阿波国」と呼ばれるようになったことが由来と言われています。
粟以外にも徳島県の祖谷(いや)ではそばの生産が盛んで、郷土料理にもそばの実をつぶさずに粒の形を残したまま使った「そば米雑炊」があり、ぼうぜの姿寿司と並んで農林水産省の郷土料理百選に選定されています。

今やダイエットのために、ごはんや雑穀などの主食が控えられることも増えてしまいましたが、毎日をエネルギッシュに過ごすためには主食は欠かせません。
質の良い食材を組み合わせていつでも元気に動ける身体作りを目指していけるとよいですね。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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