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2021.01.08

人生100年時代の鍵は”歯”にあり! 補綴(ほてつ) 歯科の重要性とは【補綴歯科・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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補綴(ほてつ)という言葉をご存知ですか?「補」=おぎない、「綴」=つなぎ合わせる。読んで字のごとく「からだの欠けた部位を人工物で補い、つなぎ合わせること」を指します。

人生100年時代と言われる今、健康寿命をいかに伸ばすかが喫緊の課題ですが、特に歯科の分野でこの「補綴」が健康寿命の鍵を握るのでは?と注目を浴びています。今回は、この補綴歯科の大切さを、昭和大学歯科病院病院長の馬場 一美先生に伺いました。

馬場 一美(ばば かずよし)先生

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昭和大学歯科病院 病院長

1986年東京医科歯科大学卒業,1991年同大学院修了(歯科補綴学専攻・歯学博士).1996年から文部省在外研究員としてUCLAへ留学.同大学歯科補綴学講座,助手,講師を経て2007年昭和大学歯学部歯科補綴学講座教授となる.2019年より歯科病院病院長.(公社)日本補綴歯科学会次期理事長(2021年から),同学会指導医・専門医.

実は多くの人が受けたことがある補綴歯科とは?

歯の欠損を人工物で補う治療のこと

歯科治療には、大きく分けて2つの段階があり、小さい虫歯を削って樹脂などで埋めるといった軽い治療を「保存」。虫歯が大きくなった歯や欠けた歯に被せ物(クラウン)をしたり、歯が抜けてなくなった場合に入れ歯やインプラントなどの人工物で補うことを「補綴」と言います。日本人の口の中の被せ物の本数(平均)は、30歳で1本以上、40歳で2~3本、50歳で4本以上となっていますから、おそらくこの記事の読者のほとんどが、すでに補綴歯科治療を経験されているのではないでしょうか。

では、歯の欠損はいつ頃から始まるのでしょうか。

厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査 1人平均喪失歯数の年次推移(永久歯:5歳以上)より

厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査 1人平均喪失歯数の年次推移(永久歯:5歳以上)より

歯が抜けてしまうのは、お年寄りの問題と誤解している方が多いようですが、残念ながらずっと若い時期から欠損は始まります。上のグラフは、年代別に失った歯の数を表していますが、40歳ごろから欠損が始まっていることがわかります。

なぜ、今、補綴歯科が重要なのか?

口腔環境の維持は健康寿命を伸ばすひとつの要因に

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では、歯を失うと、どんなことが起こるのでしょうか? 

口腔内はそれぞれの歯が支え合っているため、歯の喪失を放置してしまうと、噛み合わせが悪化することで、歯にかかる力が不均等になります。そうなると少しずつ隣接する歯や上下の歯の位置がずれてしまうのです。こうして、口元の審美性(見た目)の低下に加えて、「うまく噛めない」「うまくしゃべることができない」といった日常生活に必須の機能が妨げられ、著しく生活の質(QOL)が損なわれます。

そこで重要となるのが、補綴歯科の領域なのです。

自分の歯を喪失しても、入れ歯等で口腔機能を回復できている高齢者は、栄養摂取状態が良好に保たれるのみならず、認知症になりにくく、転倒も少ないという疫学結果も出てきています。つまり、歯が多く残っていることや、補綴治療で口腔機能を維持することは要介護になりやすい疾患を予防し、健康寿命を延伸する鍵を握っていると言っても過言ではないのです。

補綴歯科の治療別メリット&デメリット

補綴治療には様々な選択肢があり、治療や装着に伴う身体的な負担、装着による違和感の程度、噛む能力、見た目などが異なります。また、主に用いる材料や治療法により、保険の適用が認められているものと、認められていないものがあります。治療を行う場合は、歯科医師から、使用できる義歯の種類や特徴、長所、短所や予後などについて説明を受け、よく理解したうえで選ぶことが大切です。

では、主な治療法を見ていきましょう。

【治療1】クラウン

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クラウンは、歯全体を覆うように被せる人工の歯です。表面に見えている虫歯から、深い所まで広がった虫歯を除去し、被せ物を入れるため形を整えてから被せます。クラウンに関する嬉しいニュースがあります。2020年4月には、上下の第1大臼歯まで。9月には上下1−3番目のCAD/CAMクラウンが保険適用となり、銀歯に抵抗感がある人に選択肢が増えました。

※歯の番号については下図参考。前歯を1に、8は親知らず。

これまでいわゆる「銀歯」しか保険適用が認められていなかった奥歯の被せ物ですが、2014年から段階的にCAD/CAMクラウンと呼ばれる「白い被せ物」も一部の歯や条件によって適用になりました。これまで上下4・5番(小臼歯)、下6番(7番の歯が上下で残っている場合)が対象だったところに、保険適用の範囲が広がったのは喜ばしいことでしょう。※金属アレルギーの方は上下7番も対象。

CAD/CAMクラウンはハイブリットレジンと呼ばれるセラミックとプラスチックを合わせた白い素材です。自費で用いられるオールセラミックの被せ物に比べると、強度や色味などが劣りますが、価格的には大幅に安価となり、周囲の歯と調和したものを入れることができます。

【治療2】ブリッジ

ブリッジは、失った歯の両隣の歯を削り、それらの歯を土台に橋をかけるようにして、人工の歯を固定する方法です。ブリッジにするには両隣の歯が健康であることが条件で、失った歯が1~3本までが使用の目安となります。

メリットは、比較的手軽な治療で済み、固定式の歯が入るので装着による違和感がなく、それまで通りの生活が送れるという点です。見た目も自然で、健康なときの歯と同じ感覚で噛むことができます。デメリットは、両隣の健康な歯を大きく削る必要があること。固定式のため、掃除がしにくいことです。健康保険が適用できるタイプが多く(オールセラミックやCAD/CAMに使うハイブリットレジンは適用外)、費用の目安は3割負担で2~5万円ほどです。

【治療3】入れ歯

部分入れ歯は、失った歯が何本でも、とびとびであっても、条件に合わせてつくることができます。
メリットは、健康な歯を削る量が少ないこと。また、基本的には手術の必要がないことなど、身体的な負担は少なくて済みます。また、着脱式のため、掃除がしやすいことなども挙げられます。

デメリットは、ブリッジやインプラントに比べると違和感が大きいこと。歯と粘膜で咬合力を負担するためブリッジと比べると安定が悪いこと。外から金具が見えるので、人によっては見た目が気になったり、ストレスを感じるかたもいらっしゃいます。健康保険が適用できるタイプが多く、費用の目安は3割負担で1~2万円ほどです。

【治療4】インプラント

インプラントは、歯を失った部分の顎の骨に、チタンなどでできた人工の歯根を手術で埋め込み、それを土台にセラミックなどの人工の歯を取り付ける方法です。インプラントの手術をするには、顎の骨が健康であることが条件です。

メリットは、残っている歯への負担がないこと。埋め込んで固定するため装着による違和感がほとんどなく、見た目も美しく、噛む力は健康なときとほぼ同等に保たれることがあげられます。デメリットは、手術による身体的な負担が大きいことや、治療期間が長いこと。顎骨の骨量や骨質(硬い、軟らかい)の影響を受けること。自費診療のため治療費が高額となること(一本あたり30〜40万円ほど)が挙げられます。

今後が注目される、最新歯科治療

3Dスキャナーやデジタル技術を活用した治療が登場

画像提供:昭和大学歯科病院

画像提供:昭和大学歯科病院

こういった補綴治療に必須となっていた「歯の型取り」。この技術も日々進化しています。

クラウンや義歯を作るときに、ゴム質の材料を口の中に入れ固める「型取り」を経験したことはありませんか?この方法は時間がかかる上、嘔吐反射で気分が悪くなるなど、苦手な方も少なくありませんでした。ところが、最新治療では口の中をスキャンするだけ。

光学スキャナーを、口の中にゆっくりとかざすだけで、3D画像で正確にデータを採取し、型取りが終了してしまいます。その後は、コンピューター上で歯をデザインし、デザインしたものを機械で削りだして、技工士が微調整をして仕上げるという流れ。これまで、全て手作業で作られてきた補綴物が、この技術により効率化し、仕上がり具合のばらつきもなくなりました。

画像提供:昭和大学歯科病院

画像提供:昭和大学歯科病院

さらに今後は、歯科のデジタル化が進み、3Dカメラで撮影した患者一人一人の顔の形、歯の形、顎の骨の形などが、全てデータベース化されるでしょう。これにより、たとえ歯が無くなってしまった場合でも、元の歯に極めて近い義歯を再現できますし、入れ歯を無くしてしまった時などは、歯科医院に来ていただかなくても新しいものを自宅に届けることもできるようになるかもしれません。

デジタル化により、補綴治療は患者さんの負担がより少なく、低コスト化が進むと考えています。

意外と身近な補綴歯科。次回は歯を残すための健康習慣をチェック!

補綴という言葉に馴染みがない方でも、対象とする領域のことを知ればぐっと身近に感じられるのではないでしょうか。先進の治療も始まっているとのことなので、今後一層の発展が期待できそうですね。

そして、多くの方が失って初めて気がつく、歯の大切さ。後編では必ず知っておきたい「歯を失うことによる健康被害」と、「大切な歯を守るための日々の詳しいお手入れ方法」をお伝えします。歯磨きだけでは、歯は守れません!必読です。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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