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2021.07.10

両親の免許返納どう進める?家族が担うべきサポートとは【老化と運転 第3編】

kencom公式ライター:松本まや

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高齢の両親の運転を見ていて、「ちょっと危ないかも」「そろそろ運転をやめた方がいいのではないか」と考えたことがある人も多いのではないでしょうか。
しかし、車はドライバーにとっては欠かすことのできない「生活の足」であるだけでなく、積極的に外の世界と関わったり、自立した生活を送っている自信に繋がっていたりと、簡単に免許返納できない事情もあるかもしれません。

このような状況で、家族はどのようにサポート体制を整え、免許返納を促すべきなのでしょうか。高齢社会の交通問題に詳しい立正大学心理学部の所正文教授は、「鍵はコミュニケーションにある」といいます。

免許の自主返納ってどんな制度?

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免許の自主返納(以下、免許返納)とは、自己申請によって運転免許を取り消す制度です。

高齢ドライバーの運転事故対策の一環として1998年にスタートした制度で、運転免許証を返納した人は、身分証明書として使用することのできる「運転経歴証明書」を受け取ることができます。
最近では、運転経歴証明書を持っている人が受けられるサービスや、特典を設ける商業施設があるなど、返納を促す取り組みが増えています。

免許返納の判断、第一歩は正確な状況の把握から

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高齢ドライバーによる事故のニュースを目にしたり、ふと「そろそろ危ないかもしれない」と思い至ることもあるでしょう。
しかし、高齢の家族に免許返納を勧めたくなったとき、まだ十分に運転ができる状態なのに、一方的に「危ないから」と伝えるのは失礼にあたることもあります。

家族に免許返納を促す場合、まずはどの程度車が生活に必要なのか、身体の衰えはどの程度なのかなど、しっかりとコミュニケーションを取って必要性や状態を観察することが重要です。
状況が十分に分からないようであれば、そもそもコミュニケーション不足かもしれません。

居住地域によっても必要性は異なる

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居住地のインフラの整備状況によっても免許の必要性は異なります。

公共交通機関が整っている都市部であれば、早い段階で免許の返納を検討することをおすすめします。都市部なら運転しなくても電車やバスで移動できますし、なによりも交通量が多いと高齢者にとって運転の難易度が上がります。
一方で、交通手段が自家用車に限られるような地域では、今すぐに免許返納するのは難しい場合が多くなるなど、居住地域によっても判断は異なってくるでしょう。

免許返納するときに、家族がまずすべきこと

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免許返納が必要と判断される場合、次に必要なのは、元気に動ける家族や行政がどの程度自立した生活を支援できるか、サポート体制を整えることです。

地域によっては、整備が道半ばで十分と言えない場合もあるかもしれませんが、公共交通機関の利用券を交付するなど、地方自治体は様々な支援策を講じています。
全日本指定自動車教習所協会連合会の「高齢運転者支援サイト」では、そういった各地域の支援策が紹介されています。

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病院への通院や日常の買い物のための移動手段を確保するため、利用者の希望時間や乗降場所などの要望(デマンド)に応える公共交通サービス「デマンド交通システム」も注目されています。

これはバスとタクシーの「いいとこ取り」をしたようなシステムで、ワゴン車タイプの車が利用者の希望に合わせ、乗りあう人を順に迎えに行って、目的地まで送り届けていくもの。民間事業と位置付けて、ビジネスとして成立させる取り組みも始まっています。

家族のサポートも不可欠

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家族による「自助」の取り組みも大切です。
田舎暮らしの両親がともに免許を返納するにあたり、徹底的にサポート体制を整えた好例があります。車がなくては生活が成り立たない両親のために、遠方に住む一人娘が車の処分から、自動車保険の解約、娘自身がインターネット注文できる食材の宅配サービス、介護タクシーやペットのエサの注文まで事前に手配しました。

運転免許を返納して生活がより便利になることはありません。免許返納は自動車事故のリスクを減らす第一歩になりますが、外出機会が減り、認知機能の低下や引きこもりを引き起こす要因にもなり得ます。特に自動車が生活の基盤を支えている地域に住んでいる場合には、可能な限り便利で自立した生活を続けられるよう、十分な準備が必要なのです。

自立した生活を考えるポイント

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免許返納後の生活設計を考える上では、次の3点が検討のヒントになるでしょう。

・家族や近隣の人の車に乗せてもらえるか
・買い物の代わりに、宅配食品を週に何度まで利用してもよいと考えるか
・運転に代わる楽しみはあるか

免許返納を促す上でいきなり返納を急ぐのではなく、第2編で紹介した安全運転の工夫から実践していくことも、返納に向けての準備となるでしょう。

免許返納は「老いの受け入れ」、寄り添う姿勢を

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免許返納を促す際のコミュニケーションも重要です。「危ないからやめろ」と頭ごなしに伝えては、反発を招いてしまいます。

運転能力の低下を理解することは「老いを受け入れる」プロセスの一つと理解してください。どんな人も自分の老いを受け入れるのは簡単ではありません。無理に説得するのではなく、本人も納得できる進め方を意識することが大切です。
客観的なデータを示し、自身の状態を自覚してもらうことから始めましょう。運転能力を可視化するためには、運転シミュレーターなどによる安全運転診断が有効です。

高齢者にとって、運転免許を持つことは社会貢献できていると感じられ、自分の存在意義に関わるほど重要な場合も少なくありません。運転を断念することにより、「家族のお荷物である」と感じてしまい、尊厳を傷つけられてしまうこともあります。
家族は十分にその重要性を理解して、老いを受け入れた上で、高齢者が新たな生き方を導き出せるよう、寄り添う姿勢が求められています。

所正文(ところ・まさぶみ)

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立正大学心理学部教授。日通総合研究所研究員、国士舘大学教授などを経て、現職。専門は産業・組織心理学。著書に『高齢ドライバー激増時代』、『高齢ドライバー』(共著)など

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

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