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2021.07.10

その運転安全ですか?加齢による事故を回避する3つの工夫【老化と運転 第2編】

kencom公式ライター:松本まや

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注目される高齢ドライバーによる事故。第1編では高齢ドライバーの現状と、若者との事故傾向の違いを紹介しました。

では、老化に伴って変化する身体機能は、高齢者の運転にどのように影響するのでしょうか。身体機能の低下を補いつつ、安全に運転を続けるための3つの工夫とあわせて、立正大学の所正文教授に解説いただきました。

運転時に気にするべき身体機能の3つの変化

高齢者に限らず、若年者も含めて一般的に事故を起こしやすい人の医学的・心理的特性と、高齢者の心身機能の特性から、事故に結びつきやすい高齢者の特徴は以下の3つが挙げられます。

1.視力の低下

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運転に必要な情報の約8割が視覚情報と言われています。
一方で、視力は他の機能と比べても加齢の影響が出やすい機能。高齢ドライバーとして扱われる年齢よりもはるかに早く、40代後半には老眼の症状が出ることも。

加齢とともに静止視力だけでなく、動く対象に対する動体視力も低下します。
さらに、暗いところに入った時に徐々にものが見えるようになる「暗順応」も加齢とともに低下し、トンネルに入ったときや夕暮れ時の見え方に影響します。

交差点などで周囲の状況を正確に把握する必要のある場面などでは、視野の広さも重要です。真正面を向いて左右90度くらいが見えることが望ましいとされる視野が、一般に65歳以上で60度程度にまで狭まってしまうのです。

2.反応の速度・正確性の低下とばらつきの大きさ

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刺激を知覚し、その意味を読み取って判断し、適切な行動を取る一連の「知覚→判断→動作」の流れを、心理学では「サイコモーター特性(精神運動能力)」と呼びます。

運転しているときは、赤信号を見つけて(知覚)、止まらなければいけないと考え(判断)、ブレーキを踏む(動作)、といったように、この一連の流れを常に繰り返しています。非常に重要な能力ですが、高齢になると迅速かつ正確に一連の動作を行うことが難しくなります。

反応に時間がかかってしまうだけでなく、同じ個人でも時と場合によって反応時間のばらつきが大きくなってしまうことも事故に結びつきやすい特徴です。

3.自身の運転能力に対する過信

引用:『高齢ドライバー』(文春新書)より

引用:『高齢ドライバー』(文春新書)より

2001年に所教授が実施した調査によれば、「自分の運転テクニックであれば十分危険を回避できるか」という質問に対し、若年層より高齢者の方が、肯定的に回答する傾向がみられました。

高齢者の多くは長年運転を続けており、その経験が自信につながっています。身体機能の低下を意識せずに運転能力を過信してしまったり、交通ルールを軽視してしまったりすると、小さなリスクが積み重なって重大事故につながりかねません。

安全に運転するための3つの工夫

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それでは、高齢者には安全運転は難しいのでしょうか。日常生活に必要不可欠となっている運転でも、今すぐ辞めなければいけないのでしょうか。
実際、公共交通機関の充実した都市部に居住しているような場合を除き、生活インフラとなっている車移動を簡単には辞められないという方は非常に多いでしょう。

実は、加齢現象の全てが運転にマイナスに働くわけではありません。長く運転してきた熟練の技術と知恵で、高齢ドライバーは自然と身体機能の低下を補うような工夫をしていることも多くあります。
まずは自身の身体機能がどう変化しているのか客観視し、以下の3つの観点から欠点をカバーする運転行動を取ることで、安全な運転を続けることができるのです。

工夫1:運転する時間

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まず、事故のリスクの低い時間帯を選んで運転するようにしましょう。

通勤時間などの朝夕に加え、夜間に運転することの多い若年層と対照的に、高齢ドライバーは主に日中に運転する傾向があります。
視力の低下が影響しやすい夕方や夜間、交通量の多い朝と比べて、日中は事故のリスクが低く、安全に運転することが可能です。

工夫2:運転するエリア

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次に、運転するのは極力慣れたエリアに限定することをおすすめします。

70歳以上のドライバーの約9割は、居住する市町村やその隣接する地域でのみ運転をしています。前述の通り、加齢に伴いとっさの複雑な判断が苦手になる傾向がありますが、通い慣れた道であれば交通量の多い交差点を避けるなど、事故を回避する工夫がしやすくなります。

工夫3:走行距離

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最後に、走行距離を抑えることも重要です。
走行距離を抑えることで、事故に遭遇するリスクを下げることができます。実際に70歳以上のドライバーは、1週間当たりの走行距離が平均して、40歳代以下のドライバーの半分以下です。

自分を客観視し、事故回避の工夫を

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もっとも、これらの工夫は身体機能の低下を完全に補うものではないので、冷静に可否を見極める必要があります。

都市部で公共交通機関が充実しているのであれば、運転そのものを避けることでより安全に生活できますし、認知症が進んだ方であればなおさら運転を続けるのは危険です。
逆に、自家用車がなければ生活が成り立たない地域に住んでいる場合、いきなり運転を諦めるのではなく、まず3つの工夫からより安全な運転行動がとれないか意識してみてはどうでしょうか。

第3編では、高齢の家族に免許返納を勧める際のステップや、その後の生活を見据えたサポートの整え方などについて、解説します。

所正文(ところ・まさぶみ)

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立正大学心理学部教授。日通総合研究所研究員、国士舘大学教授などを経て、現職。専門は産業・組織心理学。著書に『高齢ドライバー激増時代』、『高齢ドライバー』(共著)など

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

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