メニュー

2021.07.10

高齢者の運転は本当に危険なのか。若者の運転とどう違う?【老化と運転 第1編】

kencom公式ライター:松本まや

記事画像

「国民皆免許時代」とも言われ、16歳以上の約75%が運転免許を持つ現代。車を運転することがすっかり一般化し、高齢のドライバーも増えています。

昨今、高齢ドライバーによる重大事故をニュースで目にすることも多いですが、高齢者の運転は例外なく危険なのでしょうか。高齢者による交通事故の傾向は若年層の事故と比較してどう異なるのか、傾向や注意点について、高齢社会の交通問題に詳しい立正大学の所正文教授に解説いただきました。

所正文(ところ・まさぶみ)

記事画像

立正大学心理学部教授。日通総合研究所研究員、国士舘大学教授などを経て、現職。専門は産業・組織心理学。著書に『高齢ドライバー激増時代』、『高齢ドライバー』(共著)など

増加する高齢ドライバー

そもそも高齢ドライバーとは、どのような人を指すのでしょうか。

警視庁によると、高齢ドライバーは「特殊車を含む原付以上を運転している65歳以上の者」を言います。

引用:内閣府  令和元年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況より

引用:内閣府  令和元年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況より

高齢者の運転免許保有率は近年大きく上昇しており、2010年には70代前半の保有率は53.3%に達しています。男性の場合は特に高く、約85%が保有しています。
また、女性の運転も一般化し、高齢女性の運転免許保有率も激増しました。1995年の70歳以上の女性の運転免許保有率はわずか2.4%でしたが、20年後の2015年には19.6%、2019年末時点で30.9%と今後も増加が見込まれます。

高齢者講習・認知機能検査で、運転能力低下の自覚を促す

運転免許更新を希望する場合、70歳以上になると免許更新の前に教習所などで高齢者講習を受講することが義務付けられています。75歳以上では、高齢者講習の前に認知機能検査も受けねばなりません。

高齢者講習は、加齢に伴う身体機能の低下と運転への影響についての自覚を促し、個人の特性に応じた安全運転の方法を指導するために実施されています。高齢であっても危険を回避できるよう工夫すれば、安全な運転が可能な場合があります。そのためには、自身の特性を客観視することが不可欠です。
諸外国でも高齢ドライバーに対して免許の有効期限を短縮化するなど対策が取られていますが、実は、70歳以上の全ドライバーに対して高齢者講習を実施するというのは先進国でも珍しい取り組みです。

さらに2009年から、75歳以上に対しては、認知機能検査と視野検査が義務付けられました。認知機能検査はアルツハイマー型認知症のスクリーニング検査に基づいており、検査日の年月日を記述したり、イラストを記憶したりする検査から、認知症の疑いの程度を判定します。
認知機能検査は、アルツハイマー型認知症を判断することには適していますが他の認知症は発見しづらく、また認知機能の一部を検査するもので、運転行動とは直結しない場合があるなどの課題も指摘されています。認知機能検査が万能なわけではないので、検査で問題がなかったからといって過信せず、他に不安材料がある場合には慎重な判断が必要です。

高齢者と若者の事故、どう異なる?

引用:『高齢ドライバー』(文春新書)より

引用:『高齢ドライバー』(文春新書)より

同じ自動車による交通事故といっても、高齢者と若者では事故の傾向が異なります。

若年層の自動車事故は、「衝突事故」と「追突事故」が代表的です。最高速度違反や徐行違反などのスピード違反や、スマートフォンの操作などのわき見運転が原因となるケースが主です。

一方、65歳以上のドライバーの場合、こうしたスピードの出しすぎなどの無謀運転が原因となることは少なく、多くは距離感覚を見誤ったことによる判断ミスや、ブレーキとアクセルの踏み間違えなどの操作ミスが原因となっています。出合い頭や右折時の交差点で事故が起きていることも特徴です。
運転に必要な状況の把握や即時の判断などの情報処理に時間がかかるため、交差点などの複雑な状況下で、事故につながりやすいのです。

危険を経験で補う

高齢者は免許を取得してからの運転経歴が長く、経験豊富です。また、運転技術は一度習得すると身体に定着し忘れない「手続き記憶」に支配されていると言われています(自転車に一度乗れると乗り方を忘れないのと同じ)。
そのため、高齢者でも運転を続けられることが多いのですが、一方で実質的な身体機能や、経験則に頼りすぎた運転行動の結果、このような事故傾向の差が生じています。

いくら経験豊富で運転に自信のある高齢者でも、身体機能が低下したら運転を諦めるしかないのでしょうか。
具体的にどのような身体の変化が事故に結びついているのか、また、その中で安全に運転を続けるための工夫について、第2編で解説します。

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

この記事に関連するキーワード