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2021.01.27

進行するとすい臓がんや糖尿病のリスク増大「慢性すい炎」の早期発見と予防法【慢性すい炎・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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慢性すい炎は気がつかないうちにゆっくりと進行するうえに、症状が進むと治癒することが難しく一生つき合っていかなければならない病気です。
しかし、初期段階で見つけて生活を改善できれば治る可能性もあります。

つまり、慢性すい炎は早期発見と早期治療が明暗を分ける病気。後編では、慢性すい炎の治療方法と改善&予防方法を、東京医科大学病院消化器内科主任教授の糸井隆夫先生に伺いました。

■沈黙の臓器「すい臓」を襲う慢性すい炎についてはこちらから

慢性すい炎は早期発見治療がカギ

血液検査と画像検査で診断

慢性すい炎はまず、血液検査と画像検査での診断からはじめます。腹部の超音波検査やCT、MRIでは初期の慢性すい炎だと画像上に異変が現われにくいため、血液中に含まれる酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の数値も合わせて調べます。数値が上昇していれば、お腹の痛みが少なく画像上の異変がなくても、慢性すい炎を疑う手がかりとなります。

更に詳しく検査する必要がある場合には、超音波装置のついた内視鏡を口から入れ、胃・十二指腸の壁越しに超音波を当てる検査(超音波内視鏡検査)を行い、ミリ単位の異常を細かく診ていきます。
全身麻酔をするので痛みはありませんし、基本的には外来にて日帰りで行えます。

治療は生活習慣の管理が中心

外科治療も行いますが、この病気で大切なのは炎症の原因となる生活習慣の改善です。
例えば、飲酒の習慣や、脂肪の多い食事、喫煙をやめるなど、医師の指示にしたがって日常生活の管理を徹底してもらいます。

アルコールに関しては慢性すい炎の直接的な原因でなかったとしても止めてもらいます。慢性すい炎がある程度進んだ段階であれば、アルコール自体がすい臓に負荷をかけて症状を悪化させるので、飲まないことが大切です。
どうしてもご自身でお酒をコントロール出来ない場合は、専門の施設で泊まり込みで断酒をしてもらうこともあります。

その上で、症状や合併症に対する治療を行います。消化吸収障害や糖尿病を発症している場合は、その治療薬を服用していきます。
すい石がある場合は、内視鏡や体の外から衝撃波を当てることで砕くなどの治療をしていきます。

慢性すい炎は進行性で完治は難しいため、定期的に検査を受けて病気とすい臓の状態を長期に渡って確認していくことが大事です。

異常を感じたら……病院選びのポイント&早期発見のためのコツ

すい臓は胃の裏側、身体の奥に位置するため身体の外からの超音波が届きにくく、内視鏡の挿入もできません。また、自覚症状もわかりにくいため早期に発見するのが非常に難しい部位です。
そのため、前編で紹介したチェックリストで当てはまった方や、自覚症状がある場合にはすい臓の専門医を受診することが非常に大切になります。

日本膵臓学会のホームページで各地域のすい臓指導医を調べられるので、事前に確認して受診すると安心です。

普段から飲酒や喫煙の多い方で「胃の周りが痛い」「背中が痛い」といった症状がある場合は、特に要注意。
すぐにでも専門医にかかって欲しいところですが、「まずは、近くの消化器内科を受診したい」という場合は、医師に胃腸だけでなくすい臓も併せて診察してもらうようにしてください。
早期発見に繋がります。

今日から出来る!慢性すい炎改善&予防方法

慢性すい炎は生活習慣病です。生活習慣の乱れが積み重なって病気になったり、症状が悪化したりするので、これまでの生活習慣を続ける事は絶対に避けて欲しいと思います。
放っておくと命に関わることもあると心得て、今日からすい臓に優しい生活を取り入れていきましょう!

まずは、断酒!

飲酒が原因で慢性すい炎になった患者さんには断酒を勧めています。
適量ならお酒を飲んでも良いのではと思う人もいますが、アルコールで慢性すい炎になった方は大の酒豪であることが多いので、適量でやめる事が出来ません。
そのため、断酒の徹底が必要なのです。

予防であれば適量を意識しましょう。
厚生労働省が提唱する1日の適量をアルコール20g。
目安は日本酒1合(180ml)、ビール中ビン(500ml)、ワイン1杯(180ml)程度です。
飲酒の頻度は週に1〜2回程度に留めるとよいでしょう。

禁煙

たばこは急性すい炎と慢性すい炎、どちらのリスクも高めます。
同じ量のお酒を飲んでいても、たばこを吸っている人の方がすい炎になりやすい傾向があります。
1日にたばこを1箱吸う人は、慢性すい炎になる確率がおよそ2倍になると言われています。

その他、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞のリスクも高くなり、身体にとって良いことは一つもありません。出来るだけ禁煙を心がけましょう。

ストレス解消に運動を取り入れよう!

適度な運動は、ストレスの解消に加えて、すい臓に良い影響を与える事がわかっています。
体調が良い日は外に出て15分〜30分を目安にウォーキングをしましょう。普段運動をしていない人が突然ジョギングなどの強度の高い運動をすると、心臓に負荷がかかり倒れてしまう場合もあるので、ウォーキングをオススメします。
そのため、手軽に毎日実戦できるウォーキングをオススメします。

しかし、頑張りすぎて1〜2時間も歩くと逆に負担になったり、長続きしない原因にもなります。心地よい疲れを感じる程度でやめておきましょう。

食事

運動をするようになると、健康的な食事も美味しく食べられるようになります。
すい臓を守るためには、消化がよく、高タンパクで、脂肪の少ない食事を選ぶことが非常に大切です。

理想の食事は和食。
和食は煮物などで野菜の繊維質が多く取れる上、肉に比べて脂質が少なく高タンパクな魚を多く食べるので、最もバランスが取れています。
脂肪はすい液の分泌を促すので、すい臓を傷つけます。肉は脂身の少ない部位を選び、天ぷらや揚げ物はなるべく避け、クッキーやケーキなどの洋菓子類も脂肪が多いので避けるようにしましょう。

慢性すい炎予防で、「健康的な生活サイクル」を身に着けよう!

慢性すい炎は一度進行してしまうと一生治療を続けなくてはいけない辛い病気です。
そうならないためにも、なるべく早期発見&生活改善をして、進行させない事が非常に大切です。
今回ご紹介した、慢性すい炎の改善&予防法の実践は、すい炎の症状が軽減するだけでなく、全ての病気の改善に繋がる「健康的な生活サイクル」を身に着けるチャンス。
適度な運動、健康的な食事、十分に睡眠を心がけ、ストレスを溜めないことが肝心です。良い生活サイクルを、ぜひ今日から実践していきましょう!

糸井 隆夫(いとい・たかお)先生

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東京医科大学病院消化器内科 主任教授
東京医科大学病院副院長
東京医科大学病院国際診療部部長
1991年東京医科大学卒業。同年より東京医科大学消化器内科入局、2016年より現職。その他、昭和大学北部病院消化器病センター兼任講師、国立がん研究センター中央病院内視鏡部非常勤職員、中国南京医科大学客員教授、筑波大学光学診療部非常勤講師、東京医科歯科大学消化器内科臨床教授、慶應義塾大学消化器内科客員教授を兼任。日本消化器病学会奨励賞、日本消化器内視鏡学会賞、日本胆道学会賞など多数。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。