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2021.01.08

「手術で治す」は最終手段!腰椎椎間板ヘルニア治療の最前線【腰椎椎間板ヘルニア・後編】

kencom公式ライター:黒田創

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若い世代でもハードワークを長期間にわたって続けたり、日常生活で無意識のうちに腰に負荷を与えたりすることで、働き盛りの世代でも罹る可能性が高い腰痛が、腰椎椎間板ヘルニアです。
腰椎椎間板ヘルニアは、飛び出した椎間板の一部が神経を圧迫することで、腰や脚など下半身に激しい痛みや痺れといった症状(坐骨神経痛)を起こすわけですが、実際に罹った場合、治療法や予防策はどのようにするのでしょうか。

今回も整形外科医として長年の治療経験を持ち、運動療法にも力を入れている東京・中央区のリバーシティすずき整形外科院長、鈴木秀彦先生に伺いました。

■腰椎椎間板ヘルニアとはどんな病気?基本を知るならこちら

「腰椎椎間板ヘルニア」のゴールドスタンダードとは

まずは薬物療法で精神面をケア

ヘルニアにはいろいろタイプがあり、大きくても神経根の圧迫が強くないタイプは強い痛みを生じません。逆に小さなヘルニアでも硬く、神経根の直下に生じた場合には、激しい痛みに至る可能性が少なくありません。また、巨大なヘルニアでも髄核が靱帯を破って脱出してきているタイプでは、当初強い痛みがあるものの、時間とともに脱出したヘルニア塊が自然吸収されて、経過とともに痛みが消失することが知られています。

こうした滑脱型と呼ばれるヘルニアは自然治癒が期待できるため、早期に手術でヘルニアを切除することなく、まずは保存療法が選択されるケースが多いです。
いたずらに切除することで、椎間腔が狭くなったり、将来的に新たな腰痛がでてきてしまうリスクもあるため、そのあたりの判断は慎重に行う必要があります。

治療としては、まずは薬物療法、コルセット装着による装具療法、および運動療法(ぎっくり腰の際の運動療法の発展形)などの保存療法を選択するのが基本です。

急性期には神経ブロック注射で対処

さらに併用すると効果的な治療が、硬膜外ブロックをはじめとする神経ブロック注射です。
痛みの出ている神経をブロックすることで除痛と神経根の炎症の鎮静化をはかるのですが、特に急性期に行うとより効果が期待できます。ブロックによって痛みの悪循環を断ち切ることで、精神的な苦痛からも早くに解放されることになるため、早期からの併用を勧めています。

また、特殊な薬物療法として、専門病院での入院加療が必要ですが、椎間板に直接薬物を注射してヘルニアを溶かし、除圧をはかるケースもあります。

上記の保存療法を効果的に組み合わせて行うことで、手術が必要と思われた患者さんの痛みが大幅に軽減し、手術なしで改善に至るケースも多数あります。

痛みや麻痺が残る場合は手術も

以上の保存療法を行っても痛みがとれなかったり、脚に麻痺が出ている、排尿障害が出ている、また痛みで日常生活に著しく支障が出ていたりする場合などは、手術療法に至る場合もあります。
神経が麻痺した結果、脚が強く圧迫された状態が続くと足首がうまく動かせなくなったり、排尿のコントロールがきかなくなる(排尿障害)ケースなどもあるため、早い段階でヘルニアを切除する必要があります。

最近は内視鏡手術も取り入れられており、日帰りまたは1~2日程度の入院でヘルニアを取り除いて早期に社会復帰できるケースも増えています。

ヘルニアを防ぐために守りたい3つの習慣

とはいえ、腰椎椎間板ヘルニアの多くは、保存治療で良くなります。そして何よりも予防が大切です。
腰椎椎間板ヘルニアは、他の腰痛と同じく次の3つが一番の予防策となります。

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テレワーク続きでも長時間椅子に座り続けるのを避け、腰に負担のかかる姿勢をしないよう注意し、適度に散歩したり、ストレッチの習慣をつけること。暴飲暴食を避け、睡眠をたっぷりとること。こういった点を普段から意識するようにしてください。もちろん、普段持ちなれない重い荷物をいきなり持つといった行動も避けてください。

また、腰椎を支えるお腹周りや背中の筋肉を鍛えたり、腰椎の下にある骨盤を正しい位置に戻すためのエクササイズも、腰椎椎間板ヘルニアを防ぐには有効な方法です。

初期の行動がその後を決める!予防や早期対策でヘルニア悪化を防ごう

腰椎椎間板ヘルニアは適切な処置を施せば自然治癒が期待できますが、症状が進行すると手術療法が必要になる場合があります。なるべくその前の段階で悪化を防ぐ手立てをとるのが得策です。

腰椎椎間板ヘルニアは誰でも罹るリスクがありますが、逆に十分防ぐことも可能な疾病です。今症状が出ていない方はぜひ予防を心がけてください。

鈴木 秀彦(すずき・ひでひこ)先生

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1993年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。東京慈恵会医科大学、国立療養所東宇都宮病院勤務などを経て米国留学。その後東京都職員共済組合青山病院、国立病院機構西埼玉中央病院で整形外科医長、東京慈恵会医科大学整形外科学講座医局長を務める。2015年リバーシティすずき整形外科を開院。22年間の大学での臨床経験を足掛かりに、よき「街のかかりつけ医」を目指す。

著者プロフィール

■黒田創(くろだ・そう)
フリーライター。2005年から雑誌『ターザン』に執筆中。ほか野球系メディアや健康系ムックの執筆などにも携わる。フルマラソン完走5回。ベストタイムは4時間20分。