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2020.10.21

コロナで会えない「田舎の親」今心配すべきこと|激変している親の生活をもっと想像すべきだ

東洋経済オンライン

遠方で暮らす親の認知症予防、知っておくべきポイントとは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/381822?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

遠方で暮らす親の認知症予防、知っておくべきポイントとは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)

お盆時期に帰省や旅行を控えていた人たちへの朗報として、10月1日から東京都発着の旅行が「Go Toトラベル」の割引の対象に追加された。地域の飲食店での支払いがお得になる「Go To Eat キャンペーン」も大きな話題となっている。

しかし、これからの季節はインフルエンザの流行も予想され、まだまだ予断は許さない。「コロナのことを考えるとまだ帰省できない」そんな気持ちを抱えながら、遠く離れて暮らす高齢の親のことを心配している人も多いだろう。

遠方で暮らす親を心配する子どもが今、知っておくべきこととは何か。現在「アルツクリニック東京」の院長を務め、アルツハイマー病の基礎と臨床を中心とした老年精神医学が専門の順天堂大学医学部名誉教授、新井平伊先生に、ポイントを聞いてみた。

コロナ禍での行動から見える認知症の可能性

「コロナ禍では、高齢の親が普段どのように行動しているかを知ることが、何より認知症の早期発見につながります。心理検査と同じように、行動結果から推測できるので、家族は心理士のようになることです」

新井先生はそう語る。

感染しないように不要不急の外出をしないとか、人がいない場所に散歩に行くとか、そういった行動をとるのは一般的だろう。ところがどんなに世の中が騒いでいてもわれ関せず、コロナ前と同じく行動しているとしたら、それは通常の反応ではなく、認知が歪んでいる可能性があるという。

「また買い物にも行かないとか、家の中にじっと閉じこもっているとか、過度の心配しすぎもよくないのです。1つのストレスがかかったときにどういった反応をするか、つまり電話での『大丈夫だ』という言葉より反応としてどう行動しているかをみることが大事です。例えば、コロナをまったく気にしない場合は認知症の初期の可能性があり、逆に心配しすぎて行動しなくなっているのは認知症の場合もあるし、うつ病の場合もあります」(新井先生)

4月には緊急事態宣言が出され、感染予防のためデイサービス等を一時休止する事業者が増加した。医療機関や高齢者施設も、入院患者への面会制限を行い、在宅でも民生委員やボランティアの家庭訪問の機会が減少したが、高齢者にはどのような影響があるのだろうか。

「人との交流や行動することは脳の活性化の中でいちばん大事で、それがなくなると脳の活動が低下してしまいます。昼と夜のリズムも変わってくるし、体も疲れない。食欲だってなくなるし便秘だって起こるかもしれない。デイサービスなどに行けば、誰でもあるようにいわゆる「外面」で頑張るからいいんです。人間には予備脳というものがあります。それは、普段は休んでいるが必要な際には働く脳機能の余力ことです。デイサービスに行くとその部分が頑張るわけです」(新井先生)

予備脳とは、主に思考や判断し行動する機能を司る「前頭葉」を中心にした脳の機能で、その機能が落ちてしまうと状況に適した行動ではなく、ゴーイングマイウエイになってしまうという。脳の活性化と体の維持、メンテナンスには、やはりデイサービスへ行ったり、ヘルパーさんが来て人と交流するということがとても大事なのだ。

認知症といっても、脳の一部にダメージがあるだけでほとんどは正常であり、予備脳はそのダメージのある部分をカバーしてくれる。しかし、家でじっとしているだけでは代償機能が働かず、認知症の症状が出やすくなるという。

「認知症は短期間で進むというものではなく、5年、10年とゆっくりと進んでいくものです。デイサービスに行かなくなって急に悪くなったというのは、病気が進行したのではなく、カバーする脳が働いていないということです。一時的に悪くなるのは表面的な症状ですから、回復する可能性も高いのでうまく対処すれば大丈夫です」

無理強いせず、できることをやらせる

新井平伊(あらい・へいい)/1984年順天堂大学大学院修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院精神・行動科学教授を経て、2019年よりアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と臨床を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/381822?page=2

新井平伊(あらい・へいい)/1984年順天堂大学大学院修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院精神・行動科学教授を経て、2019年よりアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と臨床を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。

デイサービスなどに通える環境が整っている場合はいいが、他人に感染させてしまうことを恐れ、1人で生活している高齢者も多い。そういった親をもつ家族は、具体的にどう対処すればよいのだろうか。

「よく勘違いされるのですが、必要なのは、計算ドリルをやれとか口うるさく言うことではありません。そこが間違いなんです。親にしてみれば面倒臭いし、言われたくない。ポイントは本人が楽しめるかどうかということです。できないことをやらせるのではなく、できることをやらせること。

できないことを毎回『やれやれ』って言われたら、心理的には毎回ハンマーで頭をガンガン殴られているようなものです。そのほうが脳のダメージが大きいのです。家族は心配のあまりつい言ってしまうのですが、それは逆効果です。いつまでも元気でいてほしいからと、愛情が伝わるように言うことが大事ですね」(新井先生)

計算ドリルやテレビゲームなどは、繰り返しの作業であるため、脳の同じ場所、しかも一部しか働かないという。それよりも相手がいて成立するゲーム、例えば将棋、麻雀、トランプなど、相手がどういう事を考えているのか推測したり、自分はどう対応するかなど、推理と判断が必要なゲームなら脳は活性化するという。

「Go To Eatキャンペーン」もスタートしたが、外食をすることでストレス解消になるという高齢者も多い。自粛生活で家での食事が当たり前になったが、美味しいものを食べたいという意欲が低下していることも考えられる。

「どうせ外食するのなら、食べることだけではなく、脳活性化の効果を3倍にしてあげる。例えば前日に今度どこに行こうかとかプランニングをして、実際に食べに行く。そして帰ってからは、味がどうだったかと楽しく話し合うことがいいですね。そうすれば食べるという行動が3倍、脳の活性化につながっていきます。オール・オア・ナッシングではなく、1つの行動をどのように発展させていくかということです」(新井先生)

認知症の進行と回復、その決定的な分かれ道は

認知症の一歩手前の状態は「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれている。物忘れのような記憶障害が出るが症状は軽く、正常と認知症の中間のような状態だ。2012年時点で65歳以上の約462万人が認知症、MCIが約400万人で、合わせると65歳以上の約4人に1人が認知症あるいは予備群だという。MCIの人は5年以内に50%が認知症に進行し、また回復する人も10%から15%いるとのことだが、この決定的な分かれ道はどこにあるのだろうか。

「一番大事なことは、生活習慣病がある人はそれをきちっと治療することです。高血圧、糖尿病、コレステロール血症などを持っていると、動脈や神経細胞を痛めつけるので、認知症に進行しやすい。完全に治ることはなくても、薬を飲んで普通の人と同じように生活ができればいい、寛解状態になることが大事ですね。それが結果的には認知症の予防になり、発症を遅らせるという2次予防につながります。

それから食事と運動と睡眠は大切です。睡眠は6時間半から7時間とらないと脳にアミロイドがたまってしまうんですね。しかし、この疫学的研究では、8時間以上の寝すぎも認知症になりやすいとの結果もあるので、要注意です」(新井先生)

もし認知症になってしまった場合でも、進行を遅らせるために、生活習慣病を見直すと症状が軽くなるという。現在のところアルツハイマー病を根本的に治す薬は開発されていないが、アメリカでは治療薬「アデュカヌマブ」が7月にFDAに申請を受理され、来年の春までには承認される可能性があるとのことだ。この治療薬はアルツハイマー型認知症の要因とされている「アミロイドβ蛋白」を減らす効果があるため、根治的治療が可能になるかもしれないと期待されている。

感染のリスクを犯してまで高齢の親に会いに行かなくても、できることはたくさんある。強制的に指示するのではなく、楽しみながらできる予防策を提案することが大事だ。正しい知識を持ってコミュニケーションを図れば、会えなくても高齢の親の認知症のリスクを軽減させることができるのだ。

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草薙 厚子:ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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