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2020.10.14

タバコを吸わない若い女性の発症も!?肺がんの基礎知識【肺がん・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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高齢化に伴い増える肺がん。「喫煙者が罹るがん」というイメージがありますが、最近ではタバコを吸わない若い女性にも増えてきています。進行するまで自覚症状がなく、種類によっては進行が速いことから、がんの中でも特に治療が難しいと言われていますが、早期発見ができれば治せる確率が高くなります。自分や大切な家族を守るためにも、絶対に知っておきたい肺がん基礎知識をお伝えします。お話しいただいたのは、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長の大江裕一郎先生です。

大江 裕一郎(おおえ・ゆういちろう)先生

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国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 副院長
呼吸器内科長、人材育成センター長
1984年東京慈恵医科大学医学部卒業後、同大学病院、国立がん研究センターなどへの勤務を経て、2010年国立がん研究センター東病院呼吸器腫瘍科呼吸器内科長、2011年同病院副院長、2014年から現職。2016年より東京慈恵医科大学大学院医学研究科連携大学院教授。

誰しもが罹る可能性がある「肺がん」とは?

タバコ以外の原因で広がる「肺がん」

肺がんは、肺の気管支や肺胞にできるがんで、日本では1年間に約125,000人が診断されます。男性に多い傾向にあり、罹患数は大腸がん、胃がんに次いで3番目に多いがんです。

肺がんに罹る人は年々増えていて、特に高齢者でその傾向が顕著になってきています。
日本では禁煙が普及してきたことから、タバコと関連の深い「小細胞肺がん」や「扁平上皮がん」などの発生が減っているのに対し、最近では、タバコを吸わない比較的若い女性の「腺がん」が増えてきているのが特徴です。

肺がんの種類

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肺がんは組織型の違いにより、「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」の2つに大きく分けられます。発生頻度が高いのは「非小細胞肺がん」で、腺がん、扁平(へんぺい)上皮がん、大細胞がんに分類されます。このうち最もかかる人が多いのが腺がんで、肺がんの約60%を占めます。
腺がんは、太い気管支が枝分かれした先、肺の奥の細い気管支にできます。喫煙者に多い扁平上皮がんなどとは異なり、非喫煙者にも起こることが多いのが大きな特徴です。
 
小細胞肺がんは、比較的小さな細胞が密集して広がっているがんで、喫煙との関連が大きく、非小細胞肺がんと比べて増殖速度が速い上に転移や再発をしやすい腫瘍です。小細胞がんと非小細胞がんでは、病期ごとの治療方針も異なります。

近年増える腺がんの原因は不明

タバコは肺がん最大のリスクファクターで、喫煙者は非喫煙者の5倍かかりやすいと言われています。
もし、タバコを吸わなければ、男性の肺がん患者の7割近くが発症せずにすむという報告もありますし、本人がタバコを吸わなくても受動喫煙をすると、そうでない人に比べ肺がん発生のリスクが約2〜3割高くなるとされています。
また、タバコ以外のリスクとしては飲料水に含まれるヒ素や、アスベスト、シリカ、放射線、ディーゼル排気ガス等の影響が報告されています。こうした物質に触れたり、吸い込んだりする機会の多い職業や地域で、発生率が高くなる事もわかっています。

一方、タバコを吸わない若い女性に増える「腺がん」の原因については、まだ解明されていません。

症状がなく死亡率が高い肺がんは、検診で早期発見が大切!

出典:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」から作図

出典:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」から作図

「肺がん」が本当に問題なのは、罹患者の多さではなく「死亡者」の多さです。上図の「部位別がんの死亡数」を見てみると、男性では肺がんが最も多い事がわかります。その理由として、肺がんは進行しないと自覚症状が現れにくく、気づきにくいこと。また、ほかのがんと比べて進行が速く、転移しやすいことなどが考えられます。

肺がんに限ったことではありませんが、がんの対策として最も大事なのは症状の有無を目安にするのではなく、定期的に検診を受けて早期発見をすること。肺がんの治療は大きく進歩していて、早期発見ができれば根治を目指せます。

早期発見のための「肺がん検診」

自治体が行っている肺がん検診は、年に1回、40歳以上の人を対象に、保健所や措定された医療機関で受けられるものです。費用は自治体によって異なりますが、一般的には自己負担額は数百円から1000円ほどです。主な検診内容は「問診」「胸部X線検査」「喀痰細胞診」です。

胸部X線検査

肺がんは、肺のさまざまな場所に起こります。最も多いのは気管支が枝分かれした先の最も細い部分で、肺の隅(肺野部)にできるタイプです。その場合はある程度の大きさになれば胸部X線検査でも見つけられます。ただし、肺の入り口部分(肺門部)にできるがんは、気管支や心臓、胸骨などが重なってX線では写りにくいため見つけにくくなります。また、2cmぐらいまでの小さながんも見つけにくい傾向があります。

喀痰細胞診(痰の検査)

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X線検査が苦手な「肺門部」のがんを発見するのに有効なのが「喀痰細胞診(痰の検査)」です。肺門部のがんは喫煙者に多く見られます。自治体の検診では喫煙者を主な対象に、咳が出る、多量の痰、血痰が出るなどの症状がある方にこの検査を行います。痰には、太い気管支にできたがんの組織から剥がれたがん細胞が混じりやすいため、痰を診ることで、がんがないか調べられます。

CT検査

胸部X線検査で肺に影があるなど異常が見られた場合には、胸部CT検査が行われます。これは、X線で胸を輪切りにした断面写真を撮ってがんを確認する方法です。胸部X線検査より精度が高く、2cm以下のがん、淡い陰影のがんや骨や心臓の裏に隠れたがんも見つける事ができます。最近は人間ドックやほかの病気の診断のために受けたCT検査で、早期の肺がんが見つかるケースも増えています。

CT検査を定期検診として毎年行うべきかどうかについては、放射線被曝の問題もあり専門家の間でも意見が別れるところですが、ヘビースモーカーの方はCT検査によって肺がん死亡のリスクを減らす事ができます。
タバコを吸う人は、50歳を過ぎたら年に1回、肺がん検診と併せて胸部CT検査を受けることをお勧めします。

進歩する肺がん最新治療は後編で・・・

検査で肺がんが疑われた場合は、本当にがんかどうか調べるために、疑いがある組織を採取して確定診断をします。
肺がんであれば、がんの種類や進行度(ステージ)を確定し、手術や放射線、薬といった治療法の中から適切な治療の選択につなげます。肺がんは死亡率が高いとお話ししましたが、新しい治療法が次々に開発されて、治療効果は着実に上がってきています。

後半では、その目覚ましい進歩を遂げる肺がん最先端治療をお伝えします。

参考文献

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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