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2020.09.26

ここまで進化した!最新大腸がん治療と医師が実践する予防法【大腸がん・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

前編で、大腸がん治療は技術や新薬の開発などで目覚ましい進歩を遂げているとお伝えしましたが、なかなか知る機会はありません。そこで、今回の記事では、次世代の大腸がんの手術を担うと注目される「ロボット支援下手術」や、より緻密な手術が期待される「8Kスーパーハイビジョン」を使った腹腔鏡下手術など、未来を担う大腸がん治療最前線の一端をご紹介します。

さらに、大腸がんのスペシャリストである東京大学医科学研究所 フロンティア外科学 志田大教授より、日頃から実践している予防法も明かしていただきました。

■大腸がんの基本についてはこちらから

注目を浴びる次世代大腸がん手術「ロボット支援下手術」とは?

ロボット支援下手術とは、簡単に言うと「腹腔鏡下手術の進化版」と言えるでしょう。
ロボット手術と聞くと、AI(人工知能)を搭載したロボットが自分で考えて手術をするようなイメージを持たれるかもしれませんが、実際はロボットを医師が操って手術をしていきます。

大腸の中でも直腸は骨盤の深い部位に位置していて、一般的に手術の難易度が高いと言われていますが、ロボット支援下手術は直腸の奥や肛門に近い部分の手術を得意とします。
これまでの腹腔鏡下手術では長いまっすぐな棒を体内に入れて手術をするので、細かく角度を変えることが困難で直線的な動きしかできませんでした。また、2Dモニターを見ながら操作することから、視野が狭く空間認識が難しいなどの欠点がありました。

一方、ロボット支援下手術では、高解像度・高倍率の3D映像、自由に曲がる器具、手ぶれを除去するシステムなどの技術によって、従来の腹腔鏡下手術の欠点を克服し、さらに精度の高い技術が可能となっています。

外科医の手の動きを、お腹の中でロボットが再現!

左端:手術台とロボット
中心:サージョンコンソールを使用したロボット操作部分
左:サージョンコンソールの拡大写真
画像提供:志田大先生

左端:手術台とロボット 中心:サージョンコンソールを使用したロボット操作部分 左:サージョンコンソールの拡大写真 画像提供:志田大先生

実際どのような動きをしているのか見ていきましょう。
執刀医は、手術台から離れたボックス(サージョンコンソール)に座り、患者の体内の3D映像を見ながらロボットを操作していきます。執刀医がボックスに設置された器具に両手の指を入れ動かすと、手の動きがそのまま手術台の上のロボットに伝わり、ロボットの手を借りて手術をしていきます。ロボットには人の指以上に関節があって、自由自在に色々な角度に曲げられる為、狭くて深い骨盤の中でも、正確で繊細な手術が行えるとして期待されています。

ロボット支援下手術のメリット・デメリット

【メリット】 
より繊細な動作が可能になったことで、まだ経験の浅い医師でも安定した手術を行えるようになり、経験豊富な医師にとっても手術のクオリティが上がるとされています。それにより、大腸がん手術後の後遺症として考えられる排便障害、排尿障害、性機能障害がおこる確率が低くなるのではと期待されています。小さな傷で済むこと、術後の痛みが少なく回復が早いこと、身体への負担が小さいことなどは、これまでの腹腔鏡下手術と同様です。

【デメリット】
病院にとっては機器が高額なことがデメリットですが、2018年4月から保険適用になった為、患者さんにとっては手術にかかる費用は腹腔鏡下手術と変わりません。この手術は、専門施設でトレーニングを受けた医師でないと行うことができない為、これまでは限られた施設でしか受けられませんでしたが、現在は認定施設も増えて全国で受けられるようになっています。

8K腹腔鏡下手術システム

写真提供:国立がん研究センター

写真提供:国立がん研究センター

開腹手術以外の手術はモニターを見ながら行っていくので、映像がいかに精細かによって手術の質が変わります。その為、次世代の大腸がん手術は確実に画像の超高精細化へ進化していきます。

国立がん研究センター中央病院では、NHKが放送用に開発した「8Kスーパーハイビジョン技術」を腹腔鏡下手術に応用できないかと、臨床研究が行われています。3300万画素の超高精細映像で、リアルに目で見ているのと変わらない画像が実現できるため、従来の腹腔鏡下手術(2K)とは比べ物にならない超臨場感が生まれ、手術がさらに緻密になると期待されています。

大腸外科医が実践する「大腸がん予防法」

そもそも大腸がんを予防するためにどんなことをすればいいのか、悩む方もいらっしゃるでしょう。
ここでは私自身が実践している、運動・食事両面からの予防法と検診の重要性についてお話しします。

1日60分の軽い運動+週2回の高強度運動がカギ

運動はさまざまな方法が提唱されているがん予防の中で唯一、効果があると証明されています。
適切な運動をすることで、大腸がんに限らず、多くのがんのリスクを下げることができます。運動量の目安は、1日60分ほどのウォーキング(または、同程度の強度の運動)に加え、週に2回、強度の高い運動(息がはずみ、汗をかく程度の運動)を行うことが推奨されています。

私自身は、週に何回かランニングを続けています。運動量が多いほど予防効果が高い傾向ですが、日常生活の中での歩行や自転車走行等の軽い運動でも効果が認められているので、できる範囲で継続して身体を動かすことが大事です。

意識して食物繊維を取り入れよう

食事では「食物繊維」をたくさん摂ると、大腸がんのリスクが低くなると言われています。
食物繊維は、野菜類やイモ類、豆類、果物などに多く含まれています。意識して、バランス良く摂るようにしましょう!

逆に、「大腸がんのリスクを上げる」として、かつて注目された食材に「ハム・ソーセージなどの加工肉」と「牛・豚肉などの赤肉」があります。数年前に、WHOが「一日に100〜150gの加工肉や、赤肉を食べると大腸がんになりやすい」と発表したことで、一時、日本中が大騒ぎになりました。
しかし、日本人の一般的な摂取量は50g程度です。この量であれば大腸がんのリスクとはならないので心配ありません。

検診で予防!ポリープ切除でがんの芽を摘んでしまおう

また、がん予防として私が欠かさず行なっていることは「年に1度の検診」です。
当然のことなのですが、異常が見つかればしっかりと専門の病院を受診する事にしています。きちんと検診を受けて大腸がんになる前のポリープを見つけ、その段階で切除してしまえばがんの芽を摘んでしまう事となり予防ができます。

大腸がんは早期発見・早期治療で治そう!

大腸がんは「日本人が最もかかりやすいがん」になりました。「がん」=「治らない病気」というイメージを持つ方が多くいらっしゃいますが、大腸がんに関して言うと、きちんと検査をして適切な治療を行えば、たとえ進行がんであっても治ることの方が期待できます。
ステージ3までであれば、8割以上の方が手術で治ります。だからこそ、早期発見が重要です。

きちんと検診をする。検診で引っかかったら精密検査をする。あるいは、自覚症状として便通の習慣が変わったり、お腹にしこりを感じたり、お腹が時々痛くなる、便が細くなるなどの症状があった時には、きちんと病院に行って検査をして欲しいと思います。
それだけでも早期発見の可能性はぐっと上がってきます。

志田 大(しだ・だい)先生

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東京大学医科学研究所 フロンティア外科学 教授
東京大学医科学研究所附属病院外科 診療科長
平成8年3月東京大学医学部医学科卒業、茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター、神奈川県茅ヶ崎市立病院、Virginia Commonwealth University (USA)、 東京都立墨東病院を経て、平成25年1月より国立がん研究センター中央病院 大腸外科医長。令和2年9月より現職。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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